第3部 次の犠牲者?

第9章 思わぬお誘い

第31話 思わぬ再会

 帰る前に、冒険者ギルドにある本について確認をしておきたい。

 なのでクリスタさんに聞いてみる。


「ところで冒険者ギルドで購入できる本については、何処で聞いてみればいいでしょうか」


「まだ時間があるので案内しましょう。こちらです」


 受付の部屋を素通りし、入口より向こう側の部屋へ。

 広さは六畳くらいと狭い。

 そして中は本棚がこれでもかという位に置かれている。

 本棚の間は人がすれ違う事が無理な狭さだ。


「こちらが書庫になります。うち販売が可能なのはこの書棚にある分だけです。他は当ギルド備付で持ち出し禁止の書物、もしくは初心者講習用貸し出し用の本の書架となっています」


 なるほど。

 手前側の書棚分だけが購入可能で、後は駄目と。


「販売可能な本は手に取ってみていいですか」


「どの本でも手に取るのは自由です。また販売可能な本は最終ページに価格が記載されています。

 私はそろそろ受付に戻ります。もし購入したい本がありましたら受付に提出して下さい。鍵は出る際に自動でかかるようにしておきます」


「わかりました」


 そろそろ初心者講習生が出てくるから配置につく、という事だろう。

 それにこの書庫は狭くて2人でも自由移動に支障を来す。

 更に言うと一人の方が本をじっくり見る事が出来るだろうし。


 クリスタさんが出た後、どんな本があるか確認を開始する。

 まずは購入可能な本棚から。


 最初に並んでいるのは、初心者講習で使う教科書や地図帳、辞典。

 この辺は内容はわかっているので、他の本を確認。

 より分厚い辞典。小型の薬草図鑑、そして……


 ◇◇◇


 書庫にある中で一番欲しいと思ったのは、ヘルミナ世界百科事典、全21巻+索引1巻だ。

 しかし残念ながらこの本は非売品だった。

 まあ俺が買えそうな値段ではないだろうとは思うけれど。


 他にもヘルミナ国勢図会なんて、国の統計資料もあった。

 残念ながらこれも非売品だったけれど。


 財布とも相談して購入を決めたのは、

  〇 詳細・ヘルミナ全国地図(上中下巻、合計33万円)

  〇 愛蔵版・ヘルミナ植物図鑑(8万円)

  〇 愛蔵版・ヘルミナ魔物図鑑(8万円)

  〇 愛蔵版・ヘルミナ動物・魔獣図鑑(上下巻、合計16万円)

  〇 商業ギルド監修・ヘルミナ主要産物要覧(21万円)


 本当はもっと購入したかった。しかしこれでも86万円かかってしまっている。

 いくらカンディルーのおかげで懐が温かいといっても、この辺が限界だろう。

 分厚い本ばかり8冊抱えて部屋を出る。


 受付はそこそこ程度に人がいた。

 初心者講習の生徒らしい連中もいる。


 掲示板前や受付カウンターがが混んでいない。

 という事は、12時過ぎてすぐという感じでは無さそうだ。


 書庫の中で持ち出し禁止の書物を何冊か速読した。

 だから1時間位は経っていても不思議では無い。


 奥の受付が空いていた。

 なのでカウンター上まで本を持っていく。


「すみません。こちらの本を購入したいのですけれど」


「こちらを……全部、で、よろしいですか?」


 半信半疑という感じだ。


「ええ」


「では冒険者証がありましたら提示をお願いします」


「はい」


 何だろうと思いつつ冒険者証を出す。


「あっ、失礼致しました。C級冒険者ですと5%の値引きとなります。合計で……81万7千円ですけれど、よろしいでしょうか」


 値引きがついたか。それはありがたい。

 そう思いつつ俺は魔法収納アイテムボックスからちょうどの金額を取り出す。


「はい、確かに受け取りました。こちらは袋がご入り用でしょうか」


 何か最初に比べて丁寧になっているなと思いつつ、首を横に振る。


魔法収納アイテムボックスを使うからいいです」


「わかりました。どうもありがとうございました」


 奇妙にペコペコしているなと思って、そして気づいた。

 さては最初、初心者講習生と間違っていたなと。


 確かについこの前まで初心者講習生だった。

 だからまあ、仕方ないとは思う。

 相手によって態度を変えるのは褒められたものじゃないけれど。


 さて、それでは真っ直ぐ家に帰るとしよう。

 食料は結構在庫があるので問題無い。

 それより早く帰ってフル木炭魔法加工物質カーボン製のスピニングリールを作りたい。


 形状や寸法等は鉄で作ったリールをモデルにすればいい。

 今日までそこそこ使い込んだから、それなりにアタリは出ている。


 木炭魔法加工物質カーボンは自己潤滑性がある。

 だからグリス等を本質的に必要としない。

 まあ潤滑用ではなく砂や水等の侵入を防ぐためのグリス等は必要だろうけれど。

 軽く、操作性がいい、理想のリールが出来る筈だ。多分。


 そう思って冒険者ギルドを出ようとした時だった。


「おっとエイダン、久しぶり」


 同じキヌル村から来て仲が良かったジョンだ。


「ああ、今日は依頼はいいのか、ジョンは?」


「定期的に仕事をくれるところを見つけたから。週4回で今日は休み。なんで空いている時に一般依頼を見てみよう、そう思ってゆっくり来てみたところさ。ところで……」


 ジョンは俺の耳元近くで、ささやくような声で言う。


「まさかC級になっているとは思わなかったな。どうしたんだ、一体?」


 どうやら本を買うときに出した冒険者証を見られてしまったようだ。


「ここで話をするのも何だろう。今なら部屋には誰もいない。そこでどうだ」


 確かに説明しておいた方がいいだろう。

 だから俺は頷く。


「ああ、そうだな」


「なら行くか」


 受付から奥に進んで階段を上り、一晩だけ泊まった部屋へと向かう。

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