蜘蛛の巣
その男は蜘蛛の巣にかかって空を仰いでいた。
生まれて初めて晴れやかな青い空を尊いと思った。死ぬのがとても怖くなった。
男はいつでも死にたがっていた。
死にたがる理由にぶつかるために歩いているような人間だった。なにごとも直視できず、この世の不幸を一身に受けたような顔をして、自分を酷く嫌っていた。
一時間前に蜘蛛が喰い殺してくれると言った。自分で死ぬのは怖かったから喜んで殺してくれるように頼んだ。
どうにか逃げ出そうか考え始めたそのとき、蜘蛛が男の首を喰いちぎった。
蜘蛛はこういう馬鹿な男を好んで喰い殺した。一片の肉も零さず、脚先にこびりついた体液も残さずに。
努力もせずに不幸だなんだと嘆く人間は、こちらも努力せずとも腹の中に入ってくれるのを蜘蛛は知っている。直前に死ぬのが怖いと言い出すのをわかりきっているので、さっさと頭から喰い潰す。
そんな人間が溢れているおかげで、蜘蛛は飢えることなく、艶やかに肥り、いまもまた哀れな馬鹿が巣に近づくのをひっそりと待っているのだ。
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