179.春の素材採取(4)
「エルモさん、今だよ!」
「はい! いっけぇっ!」
魔動力で動きを止めたキラーアントに向けて、エルモさんが杖を振った。光りの棘が射出され、キラーアントに深く突き刺さる。
「キシャァッ!」
「もう一発だよ!」
「いきます!」
一発ではキラーアントを倒せなかった。もう一度エルモさんに杖の攻撃をしてもらう。すると、その一撃でキラーアントは動かなくなった。よし、こっちの討伐は終わりだ。二人はどうしているかな?
「スラッシュ!」
「ホリーシャイン!」
クレハが剣を振るうと光りの斬撃が飛び、キラーアントを真っ二つに切った。イリスが魔法を唱えれば、無数の光りの矢が出現して雨のようにキラーアントに降り注ぐ。
私たちが一体を倒している間に、二人で数体も倒している。やっぱり本職には敵わないね。
「よし、これで最後だ!」
最後の一体のキラーアントに向かってクレハは剣を振るう。それでキラーアントの頭が切り落とされて戦闘は終了した。すると、すぐにイリスがこちらに向かって駆け出してきた。
「お二人とも怪我はありませんか?」
「うん、大丈夫だよ」
「平気です」
「そう、良かったです。数が多かったので心配してました」
イリスはホッとした表情になって胸を撫でおろした。
「周りには他の魔物がいないみたいだ。討伐証明を刈り取るぞ」
「はい」
戦闘が終了すると、今度は討伐証明刈りだ。二人はナイフを手に持つと、キラーアントの討伐証明を切り取り始めた。
「全部で何体いるんでしょうか?」
「えーっと……十二体かな?」
「私たちで二体倒したので、お二人で十体倒したことになりますね。まだ子供なのに強いんですね」
「まぁね。二人は特別だから」
なんてったって、本物の勇者と聖女だからね。もしかしたら、大人の冒険者よりも強いかもしれない。そうだったら、私は凄い二人と一緒にいることになるね。
「終わったぞー」
「移動しましょう」
作業を終えた二人が戻ってきた。私たちはこの場を離れて、森の奥へと進んでいく。
「あ、そろそろ素材を探してもいですか?」
その時、エルモさんが気づいたように話しかけてきた。
「この周辺にエルモさんが欲しかった素材があるの?」
「はい、この辺で大丈夫です。木々の様子から見ても、ここは森の中腹みたいですから」
「よっしゃ、ならウチは周りを警戒するぜ!」
「私は素材を見つけようと思います」
「じゃあ、ここで素材を探そう」
目的の場所についたみたいだ。クレハが魔物を警戒してくれるというから、安心して素材採取ができるね。バラバラに散らばると素材を探し始めた。
一本ずつ木の根元を確認していく。何か変わった草とか実とか花とか生えてないかな? そうやって見ていくと、特徴的な草が生えていた。その草を鑑定してみる。
ヤドロギ草:すり潰すと粘着力のある液に変わる。
薬草じゃないけれど、何かに使えそうだ。魔動力で根こそぎ引き抜くと、それをエルモさんに見せに行く。
「エルモさん、これって素材ですか?」
「あ、ヤドロギ草! 軟膏とかに使う素材なんです、探していた素材の一つです。ありがとうございます」
「そっか、見つかってよかった。そうだ、素材は私のリュックに入れておこうか? そのほうが嵩張らないしいいと思うんだけど」
「ノアちゃんのリュックを使わせてもらってもいいですか? とても嬉しいです、ありがとうございます」
エルモさんは終始嬉しそうな顔をして受け答えをした。私がとってきた草をリュックの中にしまおうとすると、イリスがやってくる。
「エルモさん、これは素材ですか?」
「ロプロスの花! それは香料に使われる花なんです、それも素材ですよ」
「やった、私も素材採取ができた」
イリスが見つけてきたのも素材だったらしく、嬉しそうな顔をする。
「この周辺は素材が沢山生える場所なので、どんなものでもいいので見つけたら持ってきてくださいね」
「そうなんですね。普段は素材採取なんてしないから、全然分かりませんでした」
「もし良かったら、素材を覚えておいて素材採取してくれると嬉しいです。私のところで買い取ってますからね」
「今度は素材採取もしてみましょう」
素材を見つけると嬉しくなるから、素材採取は楽しい。イリスもその楽しさを感じたのか、日常の魔物討伐の時に素材採取をすることを決めたみたいだ。忙しくなるけれど、大丈夫かな?
「さぁ、どんどん採っていきましょう」
気合の入ったイリスは離れていき、素材探しを始めた。以前はそこまで興味があったわけじゃないけれど、今回の何がイリスに火をつけたんだろうか?
「ふふっ、私たちも負けないように素材採取を頑張りましょう」
「そうだね。折角ここまで来たんだし、素材を沢山見つけたいしね」
気合を入れ直すと、私とエルモさんはイリスに負けないように素材を探し始めた。
◇
素材を探しては移動をしてを繰り返した。素材を見つける喜びを感じつつ、次々と素材を手に取る。中には雑草もあったけど、それも含めて楽しい時間になった。
私たちがそんな風に素材採取をしていると、辺りを警戒していたクレハが近づいてきた。
「なぁなぁ、こっちから変な匂いがするんだが」
「変な匂い? ……私には分からないなぁ」
「草の匂いだと思うんだが、これって素材じゃないか?」
「匂いのする素材か……ありえそう」
クレハが変な匂いを嗅ぎつけてきたみたいだ。特徴のある草のようだけど、素材の可能性は大いにあるね。
「エルモさん、イリス。あっちから変な匂いがするんだって、行ってみない?」
「匂いのある素材ですか……行ってみましょう」
「私も行きます」
「じゃあ、こっちだぞ」
クレハを先頭にして森の中を進んでいく。しばらく歩いていくと、木が少ない場所になり、目の前に木が生えていない庭みたいなところが見えてきた。
「あそこから変な匂いがするぞ!」
クレハが指を指すと、木の生えていない地面に何かが沢山生えているのが見えた。あれは一体なんだろう?
「あ、あれは!」
それを見たエルモさんは駆け出した。私たちもその後を追う。先に行ったエルモさんがその草の前でしゃがむと、嬉しそうな声を出す。
「リンデーン草の群生地! 珍しい薬草なのに、こんなに沢山!」
どうやらそれらは素材だったみたいで、エルモさんのテンションが上がった。だが、その時。地面から蔦のようなものがウネウネとエルモさんに近づいていく。
「エルモさん、危ない!」
「えっ? きゃぁっ!」
蔦はエルモさんに絡みつくと、その体を持ち上げた。私たちは急いでその場に行くと、庭の端に大きな花みたいなものがあった。その花からは人間の女性と思われるものが生えている。
「大変、アルラウネです!」
「こいつは魔物だぞ!」
どうやらその女性は魔物らしい。アルラウネと言われた魔物はエルモさんを縛り、持ち上げている。
「キッキッキッ」
そして、不気味な笑い声を上げてこちらを見てきた。
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