150.山菜取り(1)

 気持ちのいい季節になり、春一番の畑仕事は順調に終わった。畑いっぱいに野菜の種を撒き、色んな野菜を植物魔法で育てて、一つ残さず収穫した。


 農家のお手伝いはなくなったけど、私には分身魔法がある。分身魔法で何十人と自分の分身を作って収穫すれば、以前よりも早く終わることが出来た。大人の手がなくなるのはちょっと心もとないけれど、なんとかやっていけそうだ。


 分身魔法の人海戦術で種まきや収穫をすると、荷車一つじゃ足りなくなった。そこで、マジックバッグ化したリュックの中に野菜を詰め込んで持ち運ぶことにする。この方が嵩張ることはないし、持ち運びが便利だ。


 収穫した野菜を全てリュックに詰め込むと作物所へと歩いていった。


「コルクさん、野菜を納品しに来ましたー」


 作物所の中に入りいつものようにコルクさんを呼ぶと、店の奥からコルクさんが現れた。


「よう、お疲れさん。今日は野菜がいっぱい採れたか?」

「うん、沢山採れたよ。でも、荷車に乗らなかったから、このリュックの中にしまってきちゃった」

「そうか、そうか。なら、そのまま店の倉庫まで来て欲しい」


 コルクさんはお店の外へ出ると私も一緒についていった。作物所の近くには製粉所があり、小麦を保管する倉庫とそれ以外を保管する倉庫がある。今回はそれ以外の倉庫の中に入っていった。


 コルクさんが倉庫を開けると、中は色んな野菜が箱詰めされている。


「野菜の数が減ってきたから、ノアには助かっている」

「これで少ないの? 結構多いような気がするけれど」

「他の町とかにも卸さないといけないからな。総量だけをみると多く感じるかもしれないが、これでも少ないんだ。だから、ノアには沢山の野菜を作って欲しいって言っただろう?」


 今も作る野菜の量はコルクさんと相談して決めている。冬の間、こもってばかりいて消費するだけだったから、色んな物が不足していたらしい。


「そういえば、町には農家はいないの?」

「町にも農家がいるぞ。町の外、壁の外に農地を持っていてそこで作物を作っているんだ。でも、村に比べたら小規模なものが多くてな、広大な土地のある田舎に比べたら生産する量は少ないだろう」

「町の外だったら土地は余っているんじゃない?」

「魔物がいるからな、そう簡単に農地を広げられないんだ。魔物がいない範囲で、となるとどうしても農地は広げられないんだ」


 そうか、町の外だったらいくらでも農地を広げられると思ったんだけど、魔物の存在が邪魔をして農地を広げられないんだ。町で作った作物だけじゃ足りないから、量を多く生産している村から買い付けているんだね。


「この村が農地を広げられるのは、魔物を討伐して守っているから?」

「そういうことだ。溢れだす魔物を討伐しているから、農地には魔物がいかないようになっている。だから、ここでは農地を広げられるんだ」


 魔物が溢れだす森に近いから、大事な農地を広げるのは危ないと思っていたけれど、そうじゃないんだな。ただ森を開拓するためだけに村を作っても、収入がないとやっていけないもんね。


「しかし、そんなことを子供が気にする必要はないぞ。というか、ノアって大人びているというか」

「えっ……あー、気にしないで。気になっただけだから」


 おっといけない、怪しまれるところだった。もう少し子供っぽく振る舞わないと、可笑しな子に思われちゃうね。普通に対応していると大人の対応に見えちゃうから気を付けないと。


「それじゃあ、野菜を木箱に入れていってくれ。俺は納品された品物と数を確認するからな」

「分かった」


 長話も終わり、作業を始めるとしよう。私はリュックから野菜を取り出して木箱に詰める。その隣ではコルクさんが納品された野菜の品種や数の確認を始めた。


 ◇


「今回も沢山の野菜を納品してくれてありがとな。これが売上金だ」


 沢山のお金を貰うと、それを袋に入れてリュックにしまった。


「これでしばらくは野菜を納品しなくてもいいね」

「あぁ、そうなんだが。今度は小麦をお願いすることになりそうだ」

「小麦? もう大丈夫じゃなかったの?」

「いやな、小麦の収穫が悪かった時期があって、大変な目にあっただろう? だから、どこの町も小麦を備蓄しておこうっていう話になってな、小麦の在庫が急激に減ったんだ」


 小麦不足で困った時期があったから、そう考えるのは仕方がない。どの町も小麦の備蓄をか……ということは、村でまた小麦不足が起こってしまうことになる。


「今も在庫のある小麦を売ってくれっていう話が沢山来ているんだ。話を受ける前に、ノアに小麦の生産をまた頼めないか聞きたかったんだ。なので、また小麦の生産をしてもらってもいいか?」

「私はいいよ。じゃあ、明日からいつも通りに小麦を持ってくるね」

「よろしく頼む。そうだ、すっかり伝えるのを忘れてた」


 何か私に伝えることがあったのだろうか?


「農家の人たちがな、森の中で春の山菜を採りに行くみたいなんだが、ノアたちも来るか? どうやら、新しい住人との交流会っていう名目らしいんだ」

「森の中で山菜採り……うん、やりたい。新しい住人とも交流が出来るんだね」


 新しい住人との交流会か、ティアナも来るかな? この機会に仲良くなって、魔法のことで交流出来るようになると嬉しいな。


「あ、でも魔物とか大丈夫なの? 森の中なんだよね」

「森っていっても、魔物がわんさか出る方じゃない。農地のある反対側にある森でやるらしいぞ。そこだったら、魔物も出ないし安全に山菜を採ることが出来る」

「そうなんだ、だったら安心だね」


 農地がある方面にはいくつか大きな森が残っている。そこでは魔物が出ないみたいだから、みんなも安心して山菜取りが出来るみたいだ。イリスとクレハも一緒に誘ってみよう。


 ◇


「山菜採りか?」

「山菜ってなんですか?」


 夕食が終わると山菜採りのことを二人に話した。山菜に馴染みがないのか、不思議そうな顔をしている。


「春になったら芽吹いてくる食べられる草なんだよね。それをみんなで交流しながら採っていこうっていう話なんだ」

「新しい住人との交流会って言ってましたものね」

「交流しながら、山菜を採るのか……なんだか楽しそうだな」

「私たちって自分たちのことで忙しかったじゃない。だから、あんまり村の人たちと交流をしてこなかったと思うの。だから、この機会に顔見知りを増やしておくのもいいかと思って」


 そう、去年は何かとやることが多くて、村の人たちとの交流をしてこなかった。したとしても、いつもの場所にいる人たちだけだ。全体で見ると微々たるものだろう。


 こういう会に積極的に参加して、この村での顔見知りをもっと増やしたいと思った。特に子供との交流はなかったから、もっと友達を言える子供を増やしたいと思う。


「自分たちの生活で大変でしたけど、今年は去年より余裕のある暮しをしたいですよね」

「そうだな、魔物討伐も大切だけど、ウチらの生活も大切だぞ。もっと、ゆとりのある生活になったらいいな」


 この村に来た時は大変だった。何もかも足りなくて、なんとかその日を暮してきた。でも、時間の経った今は違う。必要な物は手に入っているし、そのためのお金だって貯まった、仕事もある。来た時と比べると、随分と良い暮らしが出来るようになった。


 そんな今の暮しに足りないのはゆとりだ。まだ子供なんだから、無理をする必要はない。夏になれば大きなお金が入ってくるし、先の不安はなくなった。もう、無理をしてお金を稼がなくても良くなったのだ。


「みんなで山菜採りに行こう」

「そうですね、やってみたいです」

「他の子供も集まるんだよな。楽しみだ!」


 ゆとりのある生活をするために、交流会の山菜採りに参加することが決まった。

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