145.ミートソースパスタ(2)

「じゃあ、次はパスタを作ろう」


 ミートソースが出来上がった次はパスタ作りだ。材料は小麦粉、卵、塩、油だ。


「材料はパンと似ていますね」

「じゃあ、パンみたいな食べ物なのか?」

「これくらい長くて、細い食べ物だよ。フォークでくるくる巻いて食べるんだ」

「フォークを使って食べるんですね、手が汚れなさそうです」

「ウチにも出来るかなー?」


 二人は麺という食材を見たことがないらしい。ということは、初めての麺料理になるってことだね。これは気合を入れて、美味しいものを作らなきゃ。


「まずは木の器に小麦粉と塩をふるいにかけて」

「あ、それは私がやりますね」


 イリスにふるいを渡すと、私はそのふるいの中に小麦粉と塩を入れた。


「ここは慎重にふるいにかけないと……」

「なんだか、鼻がムズムズしてきたんだぞ」

「くしゃみはやめてくださいね、クレハ! 鼻と口を抑えていてください」

「分かったぞ」


 近くにいたクレハが両手で鼻と口を抑える。その間にイリスは粉をふるいにかけていく。


「終わりました。このきめ細やかさ、結構好きなんですよね」

「見ていて気持ちいいよね。じゃあ、次に油と卵を入れて、ヘラで混ぜる」

「これも私がやります」

「まだ、手を取ったらダメか?」

「ごめんなさい、もういいですよ」

「やった」


 イリスにヘラを渡すと、丁寧にヘラで切りながら混ぜ始めた。


「なんだか、パンっぽい生地になってきましたね」

「じゃあ、パンになるのか?」

「途中まではパンみたいな行程だね。あ、塊が出来たね。そしたら、今度はそれをこねる」

「こねるんだったら、ウチがやるぞ!」

「じゃあ、木の器の中で一塊にしてね」


 クレハはイリスから木の器を貰うと、手で生地をこね始めた。その間に私はまな板を用意して、その上にうち粉をする。


「固まったら、このまな板の上でこねて。だいたい、耳たぶくらいの固さになるように」

「分かったぞ! うりゃぁ!」


 クレハはまな板の上に生地を置くと、力一杯にこね始めた。クレハも何度かパンを作ったことがあるので、こねる姿がさまになっている。この様子なら生地を任せても大丈夫みたいだ。


「えーっと、耳たぶの固さ……」


 そういって、クレハは自分の狼の耳を掴んだ。


「あ、クレハ、違いますよ。こっちの耳たぶの固さです」

「あー、そっちか! ちょっと耳たぶ借りるぞ」


 そう言ってイリスの耳たぶを指で摘まむ。


「ふむふむ、なるほど。これくらいの固さか」


 感触を確かめたクレハはギュッギュッと生地をこね始める。しばらくすると、クレハの手が止まった。


「うん、耳たぶくらいの固さになったぞ!」

「どれどれ……うん、良い感じだね」

「えへへ」

「次は生地を休ませる。木の器の中に生地を入れて、その上に濡れた布を被せよう」

「分かったぞ!」


 クレハが生地をまとめている間に私は濡れた布を用意する。棚にしまった布を取り出し、水魔法で水をちょっと出す。その水で布を濡らすと、これで濡れた布の完成だ。


 生地の入った木の器に濡れた布を被せる。


「じゃあ、これでしばらく放置するんだけど……待つ時間が勿体ないから、時空間魔法を使って時間を早送りにしようか」

「いいですね、やりましょう」

「ノアの便利魔法タイムだぞー」


 木の器に向かって手をかざすと、時空間魔法の時間加速を発動させる。すると、木の器は時間加速になり、どんどん時が進んでいく。そして、数分後には一時間くらい放置した生地が出来上がった。


「これでよし。次は生地を伸ばして、麺の形にするよ。これは私がやるね」


 まな板にうち粉をして、生地を置く。棚から麺棒を取り出すと、その麺棒で生地を伸ばしていく。


「ここからはパンの作り方じゃなくてクッキーみたいな作り方ですね」

「じゃあ、型を取るのか?」

「ううん、これを平べったく伸ばしたら、細く切るんだよ」


 麺棒で十分な厚さに伸ばしたら、うち粉をして生地を畳む。それから、均等に包丁で切っていく。その切れ端を手で掴んで、二人に見せてみた。


「出来た、ほらこれが麺だよ」

「へー、これが麺ですか」

「細長いんだぞ。なんだか、食べるのが大変そうな気がしてきた」

「この長いのをフォークで巻いて、まとまったところを食べるんだよ。その時になったら、やり方を見せてあげるね」


 へー、と興味深そうに二人は麺を見つめた。残りの生地を切って全て麺にすると、くっつかないように少し打ち粉を混ぜておく。


「これで麺の完成。あとは食べる時に茹でればいいだけだよ。さて、夕食はパスタだけじゃ物足りないから、他にも何か作ろうか。サラダとスープ、どっちがいい?」

「サラダがいいです」

「ウチはスープがいいぞ」

「うーん、分かれたか。まぁ、時間は沢山あるし両方作ろうか。さて、何を作ろうかな」


 三人でサラダとスープのメニューを考える。あれがいい、これがいいと相談しあうとあっという間に時間が溶けていった。


 ◇


 辺りが薄暗くなり、夕食の時間になった。たっぷりのお湯を沸かした中にパスタを入れて茹でる。数分茹でると、麺が浮かび上がってくるので頃合いだ。ザルを置いた流しまで鍋を持っていくと、そのザルにお湯ごとパスタを入れる。


 使用したお湯は流しに流れて、排水溝を通って外へと流れていく。うん、これがやりたかったんだよね。パスタのお湯を切ると、皿に盛りつける。最後に作っておいたミートソースをかければ、ミートソースパスタの完成だ。


「出来たよー」


 ミートソースパスタが乗った皿をテーブルに持っていくと、二人は嬉しそうな顔をした。


「うわー、これがミートソースパスタか! 美味そうだな!」

「なんだか綺麗な料理ですね、早く食べたいです」


 テーブルにはサラダ、スープ、コップ、フォークが用意されている。あとは、このミートソースパスタを置けば夕食の完成だ。席に着き、手を合わせて挨拶をすると、早速食べ始める。


「二人とも食べ方を説明するね。まず、麺をフォークで刺す。それから、こうやってフォークを回転させて絡ませる。持ち上げると、ほら、麺が一塊になったでしょ? それを食べる」


 ソースの絡んだ麺を一口口に入れる。すると濃厚なミートソースの味が広がり、噛めば小麦の香りを感じることが出来た。麺はもっちりとしていて、濃厚なソースが絡んで、食べれば食べるほど味が溢れだして美味しい。


「うん、美味しく出来てる。二人とも食べてみて」


 そういうと、二人はフォークを手にパスタを食べ始めた。イリスは上手にフォークを回して巻き取っている。クレハは麺を巻き取りすぎて、大きな塊になってしまった。


「なんだか、めちゃくちゃ大きな塊になったぞ」

「それは多すぎだよ、もう少し量を減らさないと口に入らないよ」

「うー、早く食べたいのにー」


 クレハはブツブツいいながら、フォークに絡んだ麺を外し、もう一度フォークに麺を絡ませる。その間にイリスは一口で麺を口の中に入れた。


「ん、ツルツルしていて食べた時の食感がとてもいいです。それにソースが濃厚で、素朴な麺に合わさると何倍も美味しく感じます」


 とても美味しそうな笑顔を浮かべてパスタを食べた。気に入ってくれたみたいで良かった。と、クレハもようやくパスタを巻くことが出来たみたい。大きな口を開けて、パスタを食べた。


「この食感、今までにない感じだ! ソースも美味しい、麺と絡むともっと美味しい!」


 クレハは目を輝かせながらパスタを食べた。早く食べたくて仕方ないのに、フォークで上手く絡められないところがちょっと可愛い。


「これが麺という料理ですか、とても美味しいです。パンも良いですが、麺という食べ物もいいですね」

「ウチは気に入ったぞ! ちょっと面倒くさいところもあるけれど、食感がいい!」

「二人に気に入ってもらえて良かったよ。材料さえ揃えばいつでも作れるから、今度から夕食のメニューにするね」


 今後のメニューに入ることを伝えると、二人は大喜びした。あ、でも待てよ。


「卵を使う料理だから、パスタを食べるとクッキーの作る回数が減っちゃうかも」

「そ、それは一大事です!」

「ど、どうする? 卵を増やすしかないぞ!」

「そこは我慢したくないんだね」


 卵は色んな料理に使えるから、毎日三個じゃ足りなくなっちゃうかもね。卵が売っていればいいんだけど、ここではみんな卵が欲しかったら自分で鶏を飼っているからなー。そういう家から買うっていう手もあるけれど。


「これからどんどん卵料理が増えていくから、卵が欲しいね」

「何!? まだ、こんなに美味しいものがあるのか!」

「卵、卵が手に入れば……」


 二人とも相当悩んでいるみたいだ。ふふ、真剣に悩んでいる二人を見るのは楽しいかも。


 頭を抱えながら考え込んでいる二人を見ながら、美味しいパスタを食べた。

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