74.久しぶりの三人での作業
あれから数日後、農家の人たちの小麦の収穫が始まった。今まで手伝いに来てくれた農家の人たちは自分たちの小麦の収穫にかかりきりになり、こちらには来られなくなる。
でも、村には継続して小麦粉が必要だ。だから、農家の人たちの小麦を収穫して製粉するまでの間、繋ぎとして私たちが小麦を収穫することになる。これは重要な仕事だ、村の人たちに小麦粉が行き渡らせるために頑張らなければ。
朝、起きた私はいつものようにお弁当を作ると、そのお弁当をダイニングテーブルの上に置いた。今日から一週間、ここで三人で昼食を取るためだ。昼時になったら作るのもいいけど、このやり方のほうが仕事が捗ると思った。
二人を起こし、着替えさせると宿屋に朝食を食べに行く。いつも二人はリュックを背負って行くのだが、今日は背負わずにやってきた。そのことにミレお姉さんが一番に気づく。
「あら、今日の二人はリュックがないわ。忘れちゃったの?」
「ううん、今日から一週間小麦の収穫を手伝ってもらうことになったんだ。農家の人たちが自分たちの小麦の収穫に行っちゃったから、私たちの畑の収穫を手伝う人がいなくなったの」
「そうだったの。小麦粉の在庫はいつも品薄だから、ノアちゃんたちが継続的に小麦を作ってくれないと困ったことになるから。そうしてくれると本当に助かるわ」
私の話を聞いたミレお姉さんはどことなくホッとした顔をした。ようやく手に入った小麦粉が手に入らなくなるかもしれなかったって聞くと、不安に思うよね。
「小麦のことはウチらに任せろ! みんながパンを食べられるように、頑張って収穫するぞ!」
「私たちもパンが食べられなくなると大変ですからね、手伝えない農家の人たちの代わりになって頑張ります」
「そうしてくれるとありがたいわ。うちも宿屋としてパンが出せないのは心苦しいもの」
ようやくパンを出すことが出来たからね、今になって小麦粉がないからと言ってパンを出せなくなるのは辛いだろう。
そんな私たちの話を聞いていた冒険者たちも話しかけてきた。
「そんなことになってたんだな。俺たちが腹いっぱい食えるようになったのはノアちゃんたちのお陰だ」
「その通りだ。冒険者稼業をしていた二人が一時的に小麦の収穫の仕事をしてくれるお陰でもある」
「三人には感謝をしたいよ。これからも継続的にパンが食べられるように、頑張ってくれよ」
「うん、ありがとう!」
冒険者さんたちも今更パンが食べられなくなるのは死活問題だろう。体が資本の魔物討伐をしているから、主食のパンはかかせない。いもを食べていた時期は本当に大変だったんだな。
「クレハちゃんとイリスちゃんは魔物討伐でも活躍してくれるから、少しの期間でもいなくなるのは寂しいけどな」
「二人が低級魔物を中心に狩ってくれるから、俺たちの仕事もやりやすくていいんだよ」
「そうだったんだ。二人が魔物討伐で活躍していたんだね」
「ふふん、どんなもんだい」
「そう言われると、なんだか恥ずかしいですね」
少しの間魔物討伐から離れる二人を他の冒険者さんたちが惜しんでいる。流石、勇者の卵と聖女の卵だ、力を発揮しているらしい。
しばらくの間、食堂はそんな話しで盛り上がっていた。
◇
宿屋の食堂での朝食を終えて、私たちは家に戻ってきた。種の入ったチェストから小麦の袋を取り出すと、外に出る。私はいつものように畑の前に立ち、二人に袋を渡した。
「それじゃ、種を撒くところから始めようか」
「久しぶりだな!」
「そうですね、上手く撒けるか心配です」
「大丈夫だよ、簡単な作業だから。じゃあ、端から種を撒いていくよ」
それぞれが畑の端に移動すると、種をバラまき始める。出来るだけ大きな隙間が出来ないように注意を払いつつ、撒き続けた。畑の中心に行くようにバラまいていき、それほど時間が掛からずにバラまき終える。
「じゃあ、畑から出て。植物魔法をかけるよ」
「おう! 楽しみだ」
「久しぶりにあの魔法が見れるんですね」
三人で畑から出ると、私はしゃがみ込んで畑に手をついた。魔力を高めて、植物魔法を発動させる。
「植物魔法!」
すると小麦の種から芽が出て、あっという間に成長して穂が垂れさがるほどの小麦に成長した。
「いつ見ても、凄い光景だな」
「えぇ、この光景はいつ見てもいいものですね」
一瞬で出来た小麦畑を見て、二人はそんな感想を言った。いつもこの魔法を使っている身としても、この光景はいつ見てもいいものだ。
「じゃあ、小麦の収穫を始めるよ」
「分かった。ウチは定位置についているな」
「私も定位置にいますね」
「うん、お願い」
久しぶりに三人での収穫作業だ。二人は定位置につくと、早速私から作業を始める。小麦の前でしゃがみ込み、手を前に出す。それから風魔法を鎌のように繰り出すと、魔法が当たった部分がどんどん切れていく。
小麦の束が一方に倒れるのを確認してから、乾燥魔法をかけて小麦を乾燥させる。それが終われば、狩った小麦を魔動力でひとまとめにして、宙に浮かせてクレハの近くまで持っていく。魔動力のお陰で一回で持ち運び出来るようになった。
「はい、クレハ」
「よしきた、後は任せろ。イリス、行くぞ!」
「いつでもいいですよ」
クレハは気合を入れて、脱穀機を踏むとローラーが回転し始める。以前よりも回転が速くなっているような気がする。この分だと、作業が早く終わりそうだ。
私も負けじと作業へと戻る。同じように風魔法を使って小麦を狩り、乾燥させて魔動力で持っていく。傍ではクレハが小麦を脱穀して、イリスがそれを回収する。
秋空の下、地道な小麦の収穫が始まった。
◇
脱穀機のローラーが凄い勢いで回転して、穂についた小麦の実を外していく。
「あと少しだよ、頑張ってクレハ」
「もちろんだぞ。イリスも頼んだぞ」
「任せてください」
私がクレハに小麦の束を手渡し、クレハが小麦を脱穀し、イリスが実を集める。その作業を昼の休憩を挟みながらこなしていった。
最後の小麦の束を手渡して私の仕事は終わる。クレハが脱穀している間に立ち上がって背筋を伸ばす。ずっと同じ姿勢だったから疲れちゃったな。
「よし、終わったぞ。後はイリスだけだぞ」
「ちょっと待ってください、もうすぐ終わります」
シートの上に散らばった小麦を集めて、ふるいにかけてゴミと実を分ける。実のほうを袋に入れると、イリスの作業も終わった。
「ふー、終わりました」
「これで小麦の収穫は終わりだな」
「二人ともお疲れ様。久しぶりの作業だったから、疲れたんじゃない?」
「魔物討伐とは違う疲れがありましたね」
「魔物討伐と比べると楽だけど、違う意味で疲れたんだぞ」
「二人ともありがとう。小麦入りの袋を荷車に積んじゃうね」
魔物討伐とは違う動きをしていたからか、その分疲れているみたいだ。二人が体を伸ばしている間に、魔動力を使って小麦入りの袋を荷車に乗せた。
「ノアー、この残った小麦の茎は燃やすのか?」
「そうそう、私が魔動力で移動させるから待ってて」
「こんなことも魔動力で済ませちゃうんですね。便利な魔法ですね」
山になったいらなくなった小麦の茎を魔動力で畑の上に移動させる。次に火魔法で畑全体を燃やし、小麦の根と茎を一緒に燃やしてしまう。燃やした後は土魔法を使って灰と混ぜておけば処理の終了だ。
「終わったよ。じゃあ、作物所に行こうか。荷車は私に任せて」
「ノアが引くのか?」
「魔動力で車輪を動かして、私は方向を定めるだけだよ」
「こんなところにも魔動力を使っているんですね」
「まぁね、出発しよう」
荷車の車輪を魔動力で動かして、取っ手に手を添えて作物所まで進んでいく。
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