第348話 国境の砦

 進軍中の思わぬ収穫……ジャイアントバッファローのステーキで栄養補給をして、先遣隊は北の砦への進行を再開した。

 余った大量の肉は魔法で氷漬けにして、他の物資と一緒に馬車に詰めてある。

 馬車に乗りきらない部分については保存用にいぶしてから兵士達に配り、各々の食料にしてもらった。


 そして、数日の行程を経て到着したのは国境にある砦。

 砦の北側には川が流れており、さらに向こう側には鬱蒼と生い茂った森が広がっている。


「あの森が異民族のすみか。この国では、『鬼の巣』などと呼ばれております」


 目的地を指差して、ディーブルが説明をしてくれた。


「異民族にはいくつもの部族があります。鬼人族、翼人族、蜥蜴人族、蟲人族などが好戦的で、過去に何度となくアイウッド王国に侵攻してきています」


「今更のようだけど、連中は何が目的で攻めてきているんです?」


「大きな目的は略奪ですね。村や町を襲って、食料や金品を奪っていきます。若い女性や子供を攫っていくこともありますな」


「まるで盗賊ですね……種族が違っても、無法者がやることは大差ないというわけですか」


 レストが不愉快そうに顔をしかめた。

 女性や子供を攫っていって、いったい何をしているのか……想像するだけで腹が立ってくる。


「全ての異民族が敵対的なわけではないようですがね……森人族や馬人族などは温厚でわれらとの争いを好まないとか」


「森人に馬人……」


 エルフやケンタウロスだろうか。

 考えてもみれば、ファンタジーの世界だというのに亜人など人間とは異なる種族を見たことがなかった。

 これから戦う相手でなければ、異民族と会えることにもう少しワクワクしたかもしれない。


(殺し合う相手でなければ、話してみたい気もするんだけどな……)


「こちらから異民族に攻め込むことはないんですか?」


「過去に何度か逆侵攻を仕掛けたことがあったようですが、いずれも失敗していますね。敵のホームで戦うのは難しいようです」


「まあ、地の利は相手にありますからね。それはそうですか」


 ただでさえ、森の中では数の優位性を生かせない。

 森の木々に隠れている敵にゲリラ戦を展開されようものなら、無駄に被害を重ねるだけである。


「砦が攻められていると聞いていたけど……見たところ、その様子はなさそうですね?」


 砦の周りに敵らしき姿はない。

 異民族が住んでいる森にも異変はない……かのように思われた。


「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」」」」」


「!」


 森の中から地鳴りのような声が響いた。

 直後、森の木々の間から大勢の人影が飛び出してくる。

 現れたのは赤い肌の人型。いずれも大柄で二メートル近い身長がある。

 頭部から伸びた角を見るに、あれが『鬼人族』と呼ばれている異民族だろう。


「放てええええええええええええええええっ!」


「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」」」」」


 鬼人族が手にしていた斧や槍を砦に向けて投げつけてきた。

 森から砦までは川を挟んで二百メートル近い距離がある。武器を投げて届くような距離ではなかったのだが、投擲した武器はそんな距離を一瞬でゼロにした。


「なんて飛距離。すごいパワーだ……!」


 レストは息を呑んだ。

 前世の世界において、槍投げの世界記録はおよそ98メートル。

 その倍ほどの距離を槍や斧が易々と飛び越えて、勢いを殺すことなく砦に襲いかかる。


「防御しろ! 魔法を放て!」


 砦の城壁で誰かが叫ぶ。

 炎や風の魔法が放たれて、投擲された武器を撃ち落とした。


「次が来るぞ! 総員、迎撃せよ!」


 そこで、さらなる追撃。

 頭上に浮かんでいる雲の中から、いくつもの人影が飛び出してきた。

 槍を構えて、空から突進してくるのは翼を広げた人型……『翼人族』である。

 百人を超える翼を持った敵兵が、城壁を守っていた味方の兵士に襲いかかってきた。


「鳥共を叩き落せ! 下からも来るから警戒しろ!」


「「「「「ギャオオオオオオオオオオオオオオオッ!」」」」」


 さらに、敵の増援。

 川からゾロゾロと不気味な影が現れて、砦に向かって突進している。

 人型ではあるが全身を青緑の鱗で覆い、長い尻尾をはやした何か……鬼人や翼人よりも怪物じみているが、おそらくアレが『蜥蜴人族』だろう。


「川を渡れ!」


「我らも続くぞおおおおおおおおおおおおっ!」


 川の対岸から武器を投げていた鬼人も水に飛び込み、砦に向かおうとしている。

 やはり、戦時中であったらしい。

 先ほどまでの静寂が嘘であったかのように、激しい戦いが巻き起こる。


「これは……!」


「味方が襲われている。我らも戦うぞ!」


 指示を出したのは先遣隊の指揮官であるバレイヤ・カトレイアである。


「剣士と戦士は前に出て、敵の進行を阻め! 魔法使いは後方から魔法を撃って援護せよ!」


「「「「「ハッ!」」」」」


 バレイヤの指示を受けて、先遣隊の行動は早かった。

 槍や剣、大楯などを手にした兵士達が左右に展開。敵を迎え撃つ布陣を取る。

 レストらは前に並んだ兵士に守られるようにして、後方に位置している。


「あそこにも人間どもがいるぞ!」


「殺せ! 殺せええええええええええええっ!」


 先遣隊の存在に気がついたのか、渡川した鬼人の一部が向かってくる。


 到着した早々、戦いの開始。

 移動で疲労した身体を休ませる暇もなく、異民族との戦いが始まってしまった。






――――――――――

4月1日 書籍1巻が発売いたします!

メロンブックス、ゲーマーズ、アニメイトにはそれぞれオマケSSが付いております!


書籍化にあたって、本作のメインタイトルを『無限の魔術師』に変更いたしましたので、改めてよろしくお願いいたします。

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