第27話 不敵に笑う鳴神
鳴神のお金で高いお寿司を食べたフレドリカと、鳴神のお金で心ゆくまでしゃぶしゃぶを満喫したシルヴィアは、鳴神の運転する車で近くのホテルまで送り届けられた。
ちなみに、ホテル代は鳴神のお金ではない。
「明日もよろしくねナルカミ!」
「……朝の九時ごろに迎えに来てちょうだい鳴神」
車を降りた二人は、開いていた助手席の窓から呼びかける。
「………………」
しかし、鳴神は返事をすることなく車を発車させた。
「挨拶もしないだなんて……なにを急いでいるのかしら……?」
それを見送った後で、首を傾げるシルヴィア。
「さあね、生き急いでんじゃないの?」
フレドリカは興味がなさそうに言った後、こう続ける。
「行きましょ。もうこんな時間だわ」
現在の時刻は十時半である。
「ええ……そうね……」
そうしてホテルにチェックインした二人は、渡されたカードキーを持って部屋へ向かった。
「ところで」
「ところで」
その道中、二人が同時に呟く。
「どうして私があなたと同じ部屋なのかしら……?」
「どうしてあたしがあんたと同じ部屋なのよっ!」
シルヴィアとフレドリカは、ホテルに到着しても尚、喧嘩を続けるのだった。
*
翌朝、八時ごろにほぼ同じタイミングで目覚めた二人は、簡易的な魔法陣を作成して儀式始める。
この儀式を通じて五大老を呼び出し、対話を行うのだ。
「……やあ、シルヴィアにフレドリカ。どうだい、そっちの様子は。観光は楽しんでいるかな?」
儀式を終えた二人の脳内に、以前顕現した青年の声が響き渡る。
「はい、五大老様。――今のところ、私たちの案内人をしているナルカミという男が怪しいです。不可解な行動が目立ちます」
五大老の冗談をそっと流して本題を話すフレドリカ。
ちなみに、彼女が不可解だと思っている鳴神の行動の大半は、フレドリカ達の相手をするストレスから引き起こされているものだ。
「何度か揺さぶりをかけてみましたが、明確な証拠は掴めませんでした。裏切り者の調査にはまだ時間がかかりそうです」
続けてシルヴィアが言った。
「そうか。……まあ、怪しい退魔師を見つけられただけでも初日にしては上出来だね。――では、ベルゼブブの方はどうなっているかな」
五大老にそう問われた二人は、昨日の仮説を述べる。
「……以上が私達の考えですが、昭間公園には幻覚を見せるほどの濃い瘴気がまだ残っているため、こちらも調査には時間がかかりそうです」
最後にそう話したのはフレドリカだ。
「分かった。……では、君たちがその街に馴染みやすいよう、仮初めの経歴を用意しておこう。こちらもしばらく時間がかかってしまうが……それまではホテルを拠点に調査を続けてくれたまえ」
そう言われた二人は「はい、五大老様」と、声を揃えて返事をするのだった。
対話を終えた後は、身支度を済ませてホテルを出る。
外には鳴神が車を停めて待っていた。
シルヴィアとフレドリカは、昨日と同じ位置取りでそこへ乗り込む。
「おはようございます、シルヴィア様、フレドリカ様。本日はどちらへ?」
「そうねー、どうしようかしら?」
「お悩みのようでしたら、凪江海岸を調べてみるのはいかがでしょうか?」
「なぎえかいがん……?」
「先日、こちらでも強力な妖魔の反応が観測されたそうです。……特に異変は見られませんでしたが、万が一ということも考えられます。一等退魔師のあなた方に調査していただけるとありがたい」
「なるほどね、じゃあそこに連れて行きなさい! 私達が調べてあげるわ!」
「…………凪江海岸ですね。かしこまりました」
フレドリカの言葉に対してそう返事をし、車を発進させる鳴神。
彼の口元がわずかに綻んだことを、シルヴィアは見逃さなかった。
「……鳴神。あなた、酷い
「何よそれ! 運転したら危ないじゃない!」
「………………仕方がないから電車で行きましょう。まったく、体調管理くらいして欲しいものだわ」
そうして、二人は鳴神の車から降りるのだった。
「……申し訳ございません。では、車を一度別の場所に駐めてきます」
「急ぎなさいナルカミ! 居眠りするんじゃないわよ!」
「…………はい」
「まったく! 世話が焼けるわね!」
「…………………………」
何かを言いたそうにしていた鳴神だったが、何も言わずに車を発進させる。
その後二人と合流し、「役立たず!」と罵倒されながら電車で目的地へ向かうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます