第32話 「双子山の大悪党」
「私が行くわ」
「・・・!?」
突然の申し出に、村民達の空いた口が塞がらない。
「他に誰もいないなら決まりね」
娘が言うと、ようやく村長の声が出る。
「ば、馬鹿なこと言うんじゃない。最初から誰も行かせる気なぞ無いんだ」
「じゃあ他にどうするつもり? この村は子どもも年寄りも少なくないのに、皆で山を越えて逃げられるって言うの?」
娘の言葉にぐうの音も出ず、ただ
「大丈夫。殺されやしないわ。必ず生きて帰って来るから」
明朝、娘がテキパキと
「お
後ろからの声に娘が振り返ると、村長の妻、娘の祖母が、笹の葉で包んだ小さなものを差し出している。
「ばあちゃん。・・・これは?」
娘がそれを受け取り開くと、中には大きなおむすびが二つ並んでいる。娘が思わず顔を上げると、祖母が目を潤ませながらニコリと笑う。
「みんなを助けてくれて、ありがとう。おまえは私達の誇りだよ」
祖母はそう言うと、孫娘をそっと抱きしめる。すると、娘の目からも大粒の涙が
支度を済ませた娘は、村民達が見守る中、まるで買い出しに出かけるかのように明るく手を振り、村を出る。そして山を登り、酒呑童子の
「おいおいべっぴんな娘じゃねぇか! ギャハハ!」
「おい娘。酒呑童子様がお待ちだ。中へ入れ」
娘は震える手を抑え、手下の一人の後を黙って付いていく。中は暗く、手下の持つ
「・・・という事なんです。」
山を少し
「なんて野郎共だァ! アンタをこんな目に合わせやがって、おれは許さねェぜ!!」
しゃらくが顔を真っ赤にし、鼻息を荒くしている。
「危ない所を助けて頂き、本当にありがとうございます。まさかあの大子分さん達を倒しちゃうなんて」
娘の膝ではブンブクが丸くなり、撫でてもらい気持ちよさそうな顔をしている。
「いいさいいさァ〜。ところで君はなんてお名前?」
「私は
「お
しゃらくが腕を
「俺はウンケイ、そいつがブンブクだ」
ブンブクが嬉しそうにお蝶に頭を
「たった今助けて頂いてなんですが、あなた方の強さを見込んでお頼み申します」
そう言うとお
「
すると、お
「お
お
「俺達だって、子分共どころか奴の寝ぐらまで、こてんぱんにしちまったからな。どの道、奴も
ウンケイがニコリと笑う。お
ズシーン! ズシーン! 地響きが鳴ると、森の鳥達が一斉に飛び立つ。背高
「うぃ〜。ねずみ共め。俺様の山に勝手に入って来やがって。だが面倒くせぇ。一寝してからだ」
大男は、自らの寝ぐらである洞窟へ向かい山を登る。
「ん〜?」
洞窟が見える所まで来ると、洞窟は崩れており入る事はおろか、ただの岩の山となっている。
「何だぁ〜? 呑み過ぎたか? 俺の城が崩れて見えるぜ」
大男は呑気に洞窟へ近づいていく。そして目の前へ来て目を
「童子様! あのねずみ共の
「何ぃ!? あいつらまで!?」
大男は、酔った赤ら顔を更に真っ赤にし、巨大な酒樽を地面に叩きつける。巨大な酒樽は
「ふざけやがって!! ねずみ共殺してやる!!! 奴らはどこへ行った!!?」
手下が震える手で指差す方へ、酒呑童子は巨大な体を走らせる。ドシン!! ドシン!! ドシン!! 凄まじい足音を鳴らし、しゃらく達の方へ向かう。
その凄まじい足音は、当然しゃらく達の元にも聞こえる。
「な、なんだァ〜!?」
「こ、これは・・・。酒呑童子!! あいつがこちらへ向かって来てる!!」
お
「遂に
ウンケイは
「でけェな酒呑童子ィ! わっはっは!」
しゃらくの方も足音のする方を向く。お
「ねずみ共ぉぉぉ!!! どこへ逃げやがったぁぁぁ!!!」
地を
「ここだァァァァ!!!」
しゃらくも大声で応える。その声量、酒呑童子に負けず劣らず、山中に轟く。すると、しゃらく達の目の前の木々がガサガサと大きく揺れ出す。そして見上げるほどの大男が顔を出す。
「見つけたぞねずみ共〜。ここが誰の山か分かってんのか〜?」
「あァ分かってるぜ。酒呑童子のニセもん!」
完
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