6.2


 電車は訪れたことのない街をいくつも抜けていった。似たような景色ばかり続くのに、その一つ一つが新鮮だった。暮明駅に似た駅も通ったが、その奥に暮明駅にはあるはずのないビルや街並みが見えて、まるで平行世界だと思った。

 密かに躍る心とは裏腹に、ふたりはしばらく無言だった。互いに車窓を眺めたり携帯をいじったりし、たまに思い出したように会話をした。


 一度目の乗換で電車を降りた。地下に潜って、反対側のホームに出る。日差しは強く、ときおり熱風が体を押した。階下の改札から盲導鈴の間延びした音が響く。

 やがて列車到着のアナウンスが始まる。俺たちの乗る列車だった。カーブの向こうから列車の明かりが見えた直後、

「何も作れなくなった」

 ぽそりと炉火が言った。相談するという雰囲気ではなかった。ただ、列車が来るのでそう呟いた、そんなふうだった。乗った列車に人がほとんどいないのを確認しながら、隣に座る炉火に聞いた。


「どうして。」

「……しらない。ただ、予備校も部活も、文化祭に出す作品すら、まともにできてない。どうすればいいのか分からなくて、遠くに逃げたかった。瑞希には、この話はできない。……だから、お前を呼んだ」

「そうか。」


 炉火はそのあと、断続的にいくつかのことを打ち明けた。炉火の歳の離れた兄が、美術作品で何かしらの賞を取ったこと。炉火の予備校の評価が最低だということ。それに、予備校で孤立して、生徒たちから陰口を叩れているということ。


「好きでもないのに〈四谷〉の名前を持っているせいで、散々な目にあってる。お前、わかるか。最悪の気分だよ。そこにいるだけで、どこからも爪弾きにされる」


 それは、俺が炉火から聞いた、初めての弱音だった。



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