酔っぱらい

 店を出るとひんやりした空気が頬を刺した。ほてった体にはこの冷たさが気持ちよかった。狭い路地裏を彩那は千鳥足で歩く。


——ああもう飲みたんない


 充分すぎるくらい飲んだのに。心と体は渇きを覚える。


 コンビニで缶ビールとレモン酎ハイを買って……あー明日の朝ごはんも買っておこうか。自宅前にコンビニがあってよかった。通勤用のバッグ片手に、にやついていれば、「ぶっ!」横道から出てきた通行人とぶつかってしまった。


「わっすみませっ……」

「Entschuldigung.」


 彩那が謝罪を口にすると同時に、相手も聞きなれない言語を返してきた。


——わぁ、すっごい美人


 すらりと背が高くモデルのようだった。


 どこの国の言葉だろう。カッコいい。


 さらりと流れた発音に聞きほれていると、女性はさっそうと歩き去っていく。暗がりで一瞬しか見えなかったし、サングラスもかけていたけれど、真っ赤なルージュに彫りの深そうな顔立ちが印象的だった。同性ながらときめいてしまう。


——えーっと……コンビニで缶ビールとレモン酎ハイと


 美しいお姉様のうしろ姿を見送りながら、買い物リストを確認していれば、明かりのない自分の部屋が浮かんだ。


——……帰りたくないな


 駅に向かいかけていた体をずるずると方向転換する。


 並木通りではクリスマス当日までイルミネーションをやっている。そのことを思い出し、明かりに誘われる虫のようにふらふらと歩き出した。

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