第13話 始まりの終わりと新しい始まり
「これからは使徒殿ではなく神様と呼ばねばならんなあ」お茶のカップを戻しながらエドワード王が言った。
「え、や、そうなりますかね……?」
「神化、というのは初めて聞いたが、神と等しくなるという事であればそれは神ではないか」
やっぱりそう? そうなるよねえ……。
「サラ殿とお二人、奉る神殿を建立しなければなりませんね、エドワード王」
宰相ヴィクターさんが悪い笑顔でイジワルなこと言う。ぜったい
誘拐沙汰から9日目、控えの間で明日行われる謁見の打合せ中。なんというか、王が神へ謝罪するという珍事なもんで“謁見”とは言っているけど王族と最低限の役人、テラ教の大司祭(つまりエレオノーラさん)だけというひっそりとしたものとなる。
今は一通りの謁見の流れを確認して、わたし、サラ、エドワード王、ヴィクターさん、エレオノーラさん、そして
「神殿はまあ冗談としてだな」フォークを皿に戻しエドワード王が言う。
「辺境伯の領地を没収し王室直轄として代官を配置した、という話はしたであろう? 辺境伯領は小麦とトマト、レモン、オリーブ、ブドウ、あと酪農か、農業が盛んなのだが、ここ数年収量が減っておってな。これを何とかしたいというのがまず一つ。
そしてこれは使徒であるレーカ殿の務めの話となるのだろうが、隣接国であり友好国でもあるヴェラディア共和国から打診があってな、あちらも使徒殿のお力をお借りしたいと言ってきておる。ま、使徒殿を独占など出来んしな、丁度いいというのが二つ目。
と言う事で、だ。辺境伯にならんか?」
お茶を吹き出しかけ乙女の
「むちゃくちゃにゃ~」無茶とか言いながらおもろそーと思ってそうなサラがニヨニヨしてる。ぜったい乗り気だろデカネコ……。
「辺境伯になっちゃったらルミナリア王国の貴族になっちゃいますよ?」
「まあそうだな。ではやはり辺境伯領に神殿を建てるか。そこを拠点にして辺境伯領の収量の増加やらヴェラディア共和国の方のあれこれを解決してやる。どうだ、収まりがいい話だろう」エドワード王ご満悦。ぐぬぬ……。
「ちょっと
「こんにちは、皆さん。オーディナリアもご苦労さまです」ぽんっと顕現された
「女神テラよ、日々の加護に感謝致します」エドワード王以下皆さん跪いて手を組む。
「お話は聞いておりました。辺境伯に据えるのはどうかと思いますが、教会を建ててそこから各地へ赴くというのは良い考えだと思います。ルミナリア王国王都よりは辺境伯領のほうがテラディオス大陸の中心部に近いですし。
レイカさんも神化に伴い私を奉るテラ教の教会とオーディナリアを奉る教会、それから一度訪れた場所へは自由に顕現出来るようになっておりますので、これから移動に関しては苦労せず行えますよ」
「そんなことまで出来るんですか……」神様チート過ぎだろう……。
「そんなことまで、と言いましょうか、かくあれかし、と言いましょうか」おとがいに手を当て首をかしげる
あああ、わたしが望むように実現されるのか。それが神の権能か。
「……わかりました。教会の方で。でも、
「心配しなくてもレーカもう不老不死にゃ~」
「そうじゃない! いや
そんな感じで、辺境伯領に新たな教会を建立、わたしの使徒としての活動拠点とする事になった。どうしてこうなった……。
……そういや辺境伯が失脚したからもうモーティマー領とは呼ばれないよね? なんて名前の領地になるんだろ?
「そういえばなんですがエドワード王、その元モーティマー領は今後なんという名の領地になるんですか?」
「ああ、その名も貴き使徒レーカ殿のご尊名を拝借しレーカシャイアと改めた。もう布告も済んでるぞ」
「そーきたかあ……」もう誰が聞いても
明けて10日目、謁見は滞りなく密かに執り行われた。王様も神様も頭を下げるなんて異例中の異例なのでこっそりとね。もちろんこの謁見については編纂せず記憶の中にのみ。じゃないと王都に神罰落とさないとならない、なんて
この9日間、念のため王宮に引きこもっていたけど何もしてなかった訳じゃない。テラシオンの商業ギルド長フレデリックさんに繋いでもらって王都の商業ギルドの皆さんに面会、王都で販売されている様々な食材を教えて頂いたり。
カカオ豆とバニラビーンズ、バナナとコーヒーチェリーの存在を確認! これで堂々とスイーツ作りに組み込めるね!
あとは石灰石とか黒曜石、蝋石を探してもらう手はずを整えて。将来的に建材やらに使っていくから今のうちに目星を。ね。
医神セラフィーナ様との検討議題、アーシャレント界での医療については話の規模が大きくなりすぎてだいぶ難航した。
まずは医神を奉じる教会に公衆衛生学と外科的・内科的知識の伝達から始める事に。とはいえねぇ、わたしは素人だし持ってる知識は Wikipedia と取扱厳重注意の界の本だからどうしたもんかと。
結局、セラフィーナ様と何処までをいつ開示するか、今後500年のスケジュールをざっくり組んで、わたしが Wikipedia と界の本を元に作った医療知識の本の内容をセラフィーナ様が使徒さん達に啓示として伝え広めていくという方針が決まった。まぁだいぶ掛かるよね。
それに伴ってインフラ周りとか工業周りも同じくスケジュールして意図的な拡散を行っていく事になって、でもアーシャレント界にはまだ存在しない概念(遺伝子工学やら量子力学!)は司る神もまた存在しないから、それはまぁ追々に、みたいなふんわりとした取り決めに。だいじょうぶ。時間はたっぷりあるからね。
「久しいな、エミーリオ総領事」
「はっ。賢王エドワード陛下におかれましてはご機嫌麗しゅう」
エドワード王の問いかけに軽やかにボウ・アンド・スクレープで答える恰幅の良いプラチナブロンドの男性。ヴェラディア共和国総領事のエミーリオ・ガルバンさん。
「そしてこちらが使徒レーカ殿でいらっしゃいますな? 見目麗しい使徒殿へお目に掛かれる栄誉に身も心も舞い上がる次第でございます」
踊り出すんじゃないかってくらい軽やかなステップですっと手を取られ手の甲にキスされちゃったよ! あれだな、イタリアの伊達男だな!
「エミーリオ総領事は生粋のヴェラディア男です」宰相のヴィクターさんがちょっと呆れた感じで補足してくれた。やっぱり伊達男だ!
もうなんかね、雰囲気というか外観というか、もう存在すべてが
もうとりあえず座って落ち着きましょうと言うことでお茶会の開催。パティシエギルド長エミリアさんがせっせと作って試食の名の下に日々送り込んでくるお菓子の中から、いちばんイタリアの
ドライフルーツの概念教えたらエミリアさん、リンゴやらオレンジ、プラムにレモンにブドウにサクランボと山盛りに作っちゃって。その消費方法でパンに練り込む事を教えたら翌日に持ってきたやつ。名前知らないけどイタリアのクリスマスシーズンのお菓子でこんなのあったよね?
侍女さんにホールで渡す。大きくカットしてもらいこれもエミリアさん特製ホイップクリームをたっぷりとよそってもらう。
「最近興った菓子専業のパティシエギルドが作りましたお菓子です」
目の前に出されたお菓子に目を見開く総領事。
「これは我が故郷のパネットーネではありませんか!」大袈裟に天を仰ぎフォークを手に一口。
「おぉ、まさしくパネットーネ! 年越しの夜に家族で食べるパネットーネに引けを取らない美味しさです! こちらを作られた職人に、ぜひ感謝を伝えたい! お目にかかる機会を頂けませんか!」
エミーリオ総領事はアレだね、喜怒哀楽が激しいね。エドワード王はもう慣れっこなのか普通に話してるけど。
「おお、そこまで言っていただければ当人も喜びましょう。都合の伺いを立てる故しばし待たれよ」
「感謝いたします、エドワード王。いや、ちと興奮しすぎましたな。我が輩、こと食に関しては目がないものでして」
エミリアさんにあのお菓子の名前はパネットーネだって教えてあげよう。あとアレだね、サトウキビ。サトウキビがあれば糖蜜を発酵・蒸留してラム酒作れるからラムレーズンまで進められる。あとで商業ギルドに探してもらおう。
と、お菓子食べて落ち着いたのか脱線してた話が本筋に戻った。
「使徒レーカ殿が我が国との隣接領であるレーカシャイアに教会を設立しそこを治められると聞き及びまして、我が国の元首であるカスティリオ大統領が是非使徒殿とお会いしたいと申しておりましてな、教会が完成した暁にはぜひレーカシャイアにて会談をと」
「ああ、それはこちらも考えておった。教会完成の暁にはヴェラディア共和国と我がルミナリア王国の元首会談をレーカシャイアにて執り行うとしよう」
王様が乗り気ならだれも否とは言えないからね……。なんかもう色々目に浮かぶですよ……。
「して、教会の完成はいつ頃になりましょうや?」とエミーリオ総領事。
「およそ
「おお、では収穫祭と併せ教会設立を宣言しようではないか。使徒レーカ殿、来年の豊穣を願う意味もある祭りだ、なにか民の希望に繋がるようなモノは無いだろうか」エドワード王が『出来るのは分かってるぞ』みたいな圧を掛けてくるのですが。
「はぁ、ではまず小麦の収量増加を進めましょうか。現地の農家さん、もしくは現地で小麦を商っている商家さんを紹介してください」宰相のヴィクターさんにお願いしておく。
「ええっと、小麦は粒の堅さによって麺やパンに向いた品種とケーキなどに向いた品種に分かれます。
土壌の
それから、これは仕組みの改善ですが、農家さん各々で収穫し小麦を売り税を納めるのではなく地域毎にグループを作り、全体の収穫を一括で売り、税を納め、収益を圃場の面積で分配しましょう。どこか一つの畑に障害が発生した場合でもその農家さんだけに被害が集中する事を避けることが出来ます。一種の保険です」
つらつらっと言うわたしをぽかんとした顔で見るエミーリオ総領事とそこはかとなくどや顔のエドワード王。そうですか、王様はもう慣れっこですか。
「いや、お見逸れいたしました使徒殿! 我が輩、農業にはとんと疎く恐らくお話し頂いた半分も理解出来ておりませぬが、品種、というのはまぜこぜに栽培してはならんのではないですか?」
「はい、ならんです。いえ、まぜこぜでも収穫は出来ますが、向き不向きがまぜこぜなので何にも向いてない中途半端な小麦粉が出来上がってるのが現状でしょう。
今の話であれば小麦ですが、麺やパンに向いている小麦粉、お菓子に向いている小麦粉という風に品質を高める事を考えると、品種毎にきちんと管理して栽培した方が出来上がるパンやお菓子も質が高くなりますし、当然小麦粉自体も高く売れます。
もちろん小麦に限ったことではないです。特徴を選抜し品種として固定するには長い時間掛けての掛け合わせが必要なのですが、そこはわたしの権能でちょちょいとします」
「なんとも想像の埒外とはこのことでしょうな。それに保険と言われましたか、農業に関わらずある程度の人的規模があり、ある程度の障害が見込まれる全ての営みに対し施すことが出来るのではないかと愚考いたしますがいかがか」
「はい、例えば坑夫さんや冒険者さん、猟師さんも同様に考えることが出来ると思います。
もっと大きなくくりで考えると、その人の年齢や性別、仕事の内容によって異なる“掛け金”を毎月徴収して、怪我や病気で働けなくなったときに治療費や生活費の助成を行う、という事も可能です」
ここまでの話になると宰相であるヴィクターさんがちょっと興味ありげになる。生命保険の概念に食いつくとは、なかなか見所ありますな……。
「レーカ殿の界ではその保険という仕組みで日々の暮らしを営む事それ自体を保証していたと、そういう理解でよろしいでしょうか」しばし考え込んでいたヴィクターさんがおずおずと聞いてくる。
「はい、保証は保険だけではありませんでしたが、人々の生活を支える仕組みとして活用されていたものです。急な怪我や事故で働けなくなる、ひょっとしたら死んでしまう、そんなことがあったら残された家族の生活が危ぶまれますので」
「ふむ……。その実現には、教会で登録を行っている教会簿が基礎となりますか」
「はい、それも街を出て他の街へ働きに行くだとか、それこそ他の国へ移住するとか、そういった“移動”についても出た街と入った街で登録を更新せねばなりません」
「たしかにそうですね、集落それぞれの教会だけで済む話ではなくなりますね」
これはあれかな、
「レーカ殿、こんにちは」ぽふんっと顕現される
「こんにちは、オーディナリア様。いま、アーシャレント界に生命保険の概念を伝えているところなのですが、教会簿ベースで人定し保証内容を提供するとなると、これまでより厳密に教会簿の情報更新が必要になってきますよね?」
「そうですね、残念ながら教会簿自体をそこまで重く見ていない人々が多いので、ふらっと集落を出て行ってしまったり他の街へたどり着く前に事故で亡くなることもあります。ですので教会簿自体の確度はあまり高くないのが実情です」
「教会簿であるとか、そこから生命保険を運用していくのはオーディナリア様の範疇になりますか?」
「はい、わたしの範疇でよろしいでしょう。教会簿の情報更新を徹底する、もしくは教会簿に代わる人流を記録していく仕組みが必要となるでしょうね」
オーディナリア様を交えちょっとお話しして、じっくり取り組む課題として生命保険の導入とそれに伴う諸々の整備が決まった。
「こう、使徒殿に何気なく話を振ると思いもしないところへ飛んで歩くからなんとも面白いのだ」エドワード王ご満悦。あれかな、宮廷道化師と同じくくりなのかなこれは……。
それからしばらく、サラと(たまにオーディナリア様も)王都の市場や職人街をぷらぷらして何か面白い物がないかと見て回る日々が続いて。……なんか“越後のちりめん問屋のご隠居さん”みたいな気がしてくるよね、こう諸国を漫遊してやっかい事に首をつっこんで解決して歩くみたいな日々が続くと。
それを求められてるんだから仕方ないけどね。
今日は王都の商業ギルドを訪問中。テラディオス大陸各地から王都へ運ばれてくる商品で珍しい物をあれこれ見せてもらう約束をしてる。
「ようこそいらっしゃいました、使徒殿」副ギルド長のエリザベスさんが両手を広げハグしてくる。この人、人なつこいって言うか情熱的っていうか、ボディタッチ過激なんだよ……。
エリザベスさんがサラにもハグしてる間に、ギルド長のフィリップさんと握手。フィリップさんはいつも沈着冷静、見た感じいかにもやり手の商人さんタイプなんだけど、判断はいつも公正公平な人。
「使徒様のご要望は『とりあえず珍しい物を種別問わず』という事でしたので、ここ数日で入荷した物を一揃えご用意いたしました」エリザベスさんが大きめの会議室へ誘ってくれて扉を開けたらテーブルクロスを敷かれた長テーブル5つに食品や鉱石、様々な大きさのビンと木箱に樽等々、まるで
一番手前のテーブルから会議室をぐるりと回って商品を一つ一つ確認していく。最初は食品達。カカオポッドごとのカカオ豆とバニラビーンズにバナナ、コーヒーチェリーとマンゴーがテーブルに山盛りになっていた。
カカオ豆とコーヒー豆は加工済みの物としても王都に運ばれているそうで、そちらも木箱にみっちり詰められていた。
ほかにも木箱があったので一つずつのぞき込むとトウモロコシと米と大豆、ひよこ豆、小豆、インゲン豆、エンドウ豆があった。これだけの種類があるなら、れ、レーカシャイア……辺境伯領で小麦の連作障害対策で使える品種もあるかな!
樽には塩漬けになったり干物になった魚が各種。タラとかイワシ、サケにタイ。貝やエビカニはさすがに食べられる状態では運んでこれないそう。残念。
テーブルに溢れんばかりに並べられていたのは硝子ビンに詰められた香辛料たち。市場では胡椒と唐辛子以外見たことなかったんだけど、あるね香辛料。オレガノ、クミン、クローブにサフラン、セージ、タイム、ターメリックにディル。確認しきれてないけど多分カレーに必要な香辛料はあるんじゃないかな。
でもこれだけ入ってきててもそんなに香辛料が使われた料理って出てないんだよね。王都の人は香辛料を沢山使った料理に馴染みがないかな?
お次は鉱石類。石灰石と雲母、蝋石が麻袋に入って積まれてる。ここら辺を活用してコンクリートとか耐火レンガとか作っていきたいよね。石油が見つかったらアスファルトも作れるんだけど、燃える水だとか湧き出る黒い液体の噂は聞こえてこないらしい。
界の本曰く石油はテラディオス大陸で湧出してるらしいので存在は間違いないんだけど。まだ人の目に触れてないんだろうなあ。
テーブルを一通り巡り、会議室の片隅に油紙に包まれ無造作に積まれた何かを見つけた。さっきの香辛料のおかげで鼻が効かないけど、たぶんこれ生ゴムじゃない?
「この包み、開けてもいいですか?」
「はい、構いませんが、素手で触れるとかぶれることがあるのでこちらをお使いください」と革手袋を貸してくれるフィリップさん。
麻紐をほどき油紙を剥がすと、やっぱり生ゴム。見た感じ加硫はされてない。
「これって、南の方で採れた樹液を固めた物ですね?」
「はい、ラテックスを乾燥させた生ゴムです。防水布を作るのに使われています。ただ、気温が高いと溶けてべたつき逆に気温が低いと固まってしまうらしく、それほど使われていません」
やっぱり加硫工程はまだ発見されてないのね。加硫しカーボン添付したらタイヤ作れる。馬車をゴムタイヤにしちゃおうか。
「この生ゴム、いくつか工程を加えると温度に左右されず、よく弾みよく伸びる素材がつくれます。加硫ゴムといいますが、それを馬車の車輪などに組み込むと、道のでこぼこを拾わず揺れの少ない馬車が出来上がります」
その後のフィリップさんエリザベスさんの食いつきっぷり。馬車に乗る機会が多い人ほど“揺れの少ない馬車”の価値が分かるよね。
加硫の工程は高温高圧で焼き固める感じなので、鍛冶ギルドにお願いして焼き型作ってもらわないとならない。
馬車の車輪ならソリッドゴムタイヤで行けるはずだからまずは分厚くて崩れないゴム板を作りましょう! なんだったら“ラバーコーン式サスペンション”も導入しますよ! わたしのおしりの為に!
思わぬ生ゴムで話が盛り上がったけど、会議室に集めてもらった商材はそれぞれ少しずつ購入。新しい商材作るもよし、料理に励むもよし、工作するもよし。
その後は鍛冶ギルドへ加硫用の焼き型を発注したり、生ゴムから加硫ゴムとカーボンブラック充填ゴムをプラントで試作したりとゴムくさい日々を送りました。
もちろんその合間にカカオ豆からチョコレート作ってエミリアさんに進呈したり、コーヒー豆を焙煎してコーヒー淹れたり。まぁいつも通りですね。はい。
そんなこんなでもう来週にはレーカシャイアの教会が完成するという時期に。そろそろレーカシャイアに向けて出発しましょうと旅の準備をしています。
今回の日程は8日間。サラとエレオノーラ大司教さま、商業ギルド副ギルド長のエリザベスさん、護衛としてテラ教の教会騎士団の皆さんと王都で雇った冒険者さん達。今回も行き道のご飯はわたしから提供と言うことで契約してもらってます。地道に保存食を売りこむのだ!
王都ソレリアスからレーカシャイアは北西の方角へ8泊。サラが御者となってる横に座り、馬車の操作を教えていながら馬車2台立てのキャラバンで街道を進む。
アーシャレント界に来てもうすぐ6ヶ月になる。青々と茂っていた木々は赤に黄にと色づき山を染めている。アーシャレント界でも紅葉するのね。そういえば王都に来た頃は汗ばむ程だったけど、もう風が涼しい感じ。冬は雪つもるのかな。
いやぁでもずーっとあれやこれや作ったり作ってもらったり誘拐されたりお菓子貰ったり休む暇なく動き続けてる気がするなあ……。
ここ数ヶ月はずっと試作プラントでものづくりに勤しんできたけれど、いろいろ問題も露見してきてて、一番の問題は時間が足りなさすぎること……。
わたし1人の手だけじゃ届く範囲が狭すぎるんだよ。技術の伝播について、ちょっと本格的に始めないと進まないかもなぁ……。
学校、かな。読み書きそろばんから始めて医科大学、工業高等専門学校、法科大学。
いやいやいや、いまのアーシャレント界はおおよそ15〜16世紀の文明レベル。そこにいきなり21世紀の知識持ってきて詰め込むのはムリでしょう……。
まずは識字率の向上と法規制、遵法主義の確立に流通の革新と保存技術の確立と……。
「まーたなんか変なこと考えてるにゃ〜」デカネコが酷いことを言う。
「変な事じゃないです〜。使徒としての使命を果たすために何をすべきか考えてんです〜」
「何考えてもいーにゃけど御者もちゃんとやるにゃ。ちゃんと手綱握ってにゃ〜と道から外れて転げ落ちるにゃ」
「はぁい」
「レーカはせっかちにゃ。あと何でも自分でやらんと気が済まにゃーね?」ズバリ指摘された。
「今あるギルドとかあたらしーギルド作ってどんどんやらせりゃいいにゃ。そしたら別のあたらしーこと始めれるにゃ」
「まぁ分かってはいるんだけどねぇ」
「辺境伯さまになったらばんばん顎で使ってやりゃいいにゃ」
「辺境伯じゃないからね?!」
「実質的辺境伯さまにゃ。みーんなそう思ってるにゃ」それが問題なんだってば……。
いつも通り軽口たたき合いながらのんびりと紅葉の街道をすすむ馬車。時たまサラが遠くを眺めたり風の匂いをクンクンしたり、ほんとでっかいネコだよねこの人。
辺境伯様かぁ。領地の名前がレーカシャイアだし新しい教会建ててそこを拠点にするし辺境伯領を治めるのは結局代官さんだしで、サラの言うとおり王都の噂でも使徒様=辺境伯様て認識なんだよ。どうして……。
真っ青にどこまでも高く晴れ渡る秋晴れの空。色とりどりの紅葉の森を左手にのんびりと街道を進むキャラバン。
行く手は遙かテラディオス大陸中央部、レーカシャイア領。隣には
アーシャレント界の文明を発展・進化させるのが神々がわたしに望んだ使命……。
まぁ仕方ない、か……。
ここはサラの言うとおり、開き直って周りをどんどん巻き込んでやりたい放題やっちゃうしかないかな! それが
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