第6話 配信準備中 2

 地上に戻ると、動画投稿が解禁されていた。静香のチャンネルも会社に委託したので、動画投稿されていた。

 店員スケルトンのショート動画がプチバズっているそうで、登録者が増えたらしかった。

 店員スケルトン、六体の写真を集めようとしたら、中層を攻略できるだけの実力がいる。そして、そんな人の動画は攻略情報に偏っていて、店の情報は上げられていても店員スケルトンについての動画ないそうだ。


 プチバズったあと、すぐに店員スケルトンの面白反応を投稿され始めたので下火になるのも早かったと、会社の正面玄関にいた三沢主任に語られる。

 萌恵が社長にダンジョンから連れ出したと連絡し、社長から三沢主任に連絡が入り、静香が帰ってくるのを待っていたそうだ。

 連行されるように久しぶりの会社に入り、ウェブ課に連れ込まれる。新しいデータをよこせとせっつかれ、公開NG情報は何か問われた。

 絶対公開したくないのが召喚獣。あとはドロップ品以外のアイテム入手と、お店の会員証関連。映り込んでいるなら、カタログと地図情報も公開したくない。


 情報の独占という意味もあるが、公開すると絡まれそうな情報を避ける意味もある。下層まで来た探索者なら、店員スケルトンからカタログがあることも、地図があることも聞いているはず。なので、最初の情報公開は上位勢Aランクにやってもらいたい。

 召喚や使役は使いこなすまでが大変だが、使えるようになると嫉妬されやすい。ケモナーは白虎大型猫が好きだろし、枝垂れ藤の精は美人だ。般若面も細マッチョで、ささる人にはささる。


 ソロ冒険者はただでさえハブられやすい。その上探索者の集団嫉妬なんて迷惑でしかなかった。

 ほぼやっていないネットの炎上より、探索者としてボッチに拍車をかけたくない。地上で関わる人が少ないからこそ、ダンジョンに住んでもいいと思えてしまえる。


 強制的に人に関わるしかない就職を進めてくれた孤児支援員の方と、就職先を探してくれた学校の先生には感謝している。おかげで、こうして怒られながらも人と会話できていた。


「その条件ならライブ配信できるな。上層が中層でやれ」


 召喚獣を呼ばないで、店にも入らない。家探しもしないで、普通のダンジョン探索のライブ配信を進められる。


「会社で登録している探索者圧倒的に男だろ」


 女性がいないとまでは言わないが、八割強は男。この割合をすぐに五割に持っていくのは難しいが、動画だけでも女性率を上げたいそうだ。


「配信主体の会社じゃないからな。バズらなくていいから、女性が活動している実績が欲しいんだよ」


 探索者はそもそも男性率が高い。なのに男女が同等に仕事へ就くべきだと主張される。登録探索者なんて、能力のない人を採用しても死なせるだけだから、すぐになんて増やせない。

 声高々に女性探索者を雇用せよという人に、必要能力のない女性探索者を雇用して死亡したり障害が残ったら責任を取ってくれるのかと言えば、死なせもしないて、ケガさせないように雇用者が努力すべきと反論される。

 そんなこと探索者ギルドと名がついていても、本質は営利企業でしかない会社にそんなことはできない。声を大にして主張するくらいなら、主張する人たちで非営利組織でもつくればいい。だが、主張するだけの人は何もしない。


 なんかいろいろ大変らしいとだけ理解し、事務職としては働いていないが、ダンジョン出張ということで月給が発生している身としては、ライブ配信に同意するしかなかった。


 理不尽をのみこむのが会社員。


 学生時代、誰だか忘れた相手に言われた言葉を思い出し、静香は自分も大人になったのだと実感した。



 やたらと名前の長った新ダンジョンはどうやら、ダンジョン内通貨からスケルが略称になっている。

 骨店や骨街とか、住宅なんて略称もあったが、スケルに落ち着いたらしく、ライブ配信する時はタグにスケルと入れるようにと連絡があった。

 いろいろ買い込んで放置した物も多く、休暇中にアイテムバッグの中身を整理るす。


 それから、地図やカタログをながめていたら、前より読める範囲が増えていた。おそらく言語スキルのレベルが上がっている。

 学生時代にこのスキルが上がっていたら、語学系の試験は楽だったかもしれないと思うと、残念でならない。


 しっかり寮の部屋で休みをとったことを、会社に対してアピールする。再々メールを送られた三沢主任は迷惑そうだったが、休んだので翌日は朝からダンジョンに向かわせてもらう。


 いつも通りにダンジョンに向かい、ダンジョンに入る前に魔石を売っていたら、思いのほか時間がかかった。

 魔石査定を待っていると、なぜか猫田がやってくる。現在近隣の住宅を買収中だそうで、買取が終われば臨時ではない買取所ができると教えてくれた。

 絶対に移転しないという住民もいるが、昼も夜も関係なく探索者が集団で出入りするのを嫌がり、できれば引っ越ししたいと考える人も多い。

 何しろ、スタンピードが起これば真っ先に被害を受ける地域でもある。


 住居としては難ありな地域になってしまったが、探索者相手の商売なら適しており、土地の価格はあまり下がっていない。

 突然できたダンジョンのせいで、住民と探索者がトラブルを起こすのはよくあることで、地価が上がってくれれば転居したい人たちには追い風になる。が、商売目的に購入を望む人は多くなかった。


 地元探索者ギルドは利便性を考えて、土地の確保に動いているそうだ。碧の騎士がこの辺り土地を確保したとして、事務職は利用できるのだろうか。

 三沢主任は今日早出だったろうかと、思いつつ待ち時間が暇すぎて疑問をメールにした。どうやら起きているようで返事がくる。

 

 真っ先に新施設飛ばされるのは静香。


 そんなメールにどういうことか問えば、ダンジョンに一度も入ったことのない人は、イメージだけでダンジョンの側を嫌う。場合によっては転職を考えられるそうだ。

 ダンジョンに拒否感はなく、少々探索者が騒いでも動じないうえ、本人は仕事帰りにダンジョンに行きやすいと喜んでくれる。

 ダンジョンの側が職場になって、もっとストレスにならない人として、候補に入っているそうだ。


 オマケ情報として、静香の扱いに騒ぐCランクパーティメンバーたちに、ネット公開していない静香のダンジョン攻略動画を見せたら黙ったと教えてくれる。それも下層ではなく、召喚獣が映り込んでいない中層動画で大人しくなったそうだ。


「会社が側にできたら、ダンジョンに泊まって出勤ってありだと思います?」

「探索者ギルドとしては、積極的な探索者は大変ありがたいですが、管理職としてはトラブル一つで遅刻してくる部下は最悪です」


 遅刻されたらされたで、安否確認が必要になる。


「あー中層ボスが倒されているかどうかで、出勤時間変わりますね」

「退勤後から出社までの間に宿に泊まって中層まで攻略するつもりですか?」

「頑張ればどうにか行けると思います」


 下層二区に泊まって出社。かなり理想的な生活サイクルだとおもうのだが、萌恵に来てもらわないとずっと一人飯になってしまう。

 メールをしつつそんな話をしていたら、ダンジョンに篭っている間に溜まった魔石の査定が終わった。


「では、行ってきます」

「いってらっしゃい。できればダンジョンに篭っていないで魔石まめに売りにきて下さい」

「前回よりは早く出てくるつもりです」


 二回続けて萌恵に地上に連れ出される事態は、静香としても避けたい。

 ダンジョンの管理ゲート前には短い列ができており、どうやら混み合う時間になってしまっていた。

 今日は店の近くに出る転移トラップではなく、通常攻略ではたどり着けない部屋を経由したショートカットコースを試してみる。


 短い列に並びダンジョンに入った先では探索者がたむろしており、配信準備をしている人が何人もいた。個々で準備しており、せいぜいがパーティ単位の集まりで配信準備している人がみんなお仲間ということはなさそうだった。

 公開情報にするつもりはないが、初めてのルートだ。新しい機材の使い方を覚えるためにも撮影だけはしてみることにする。

 ドロンカメラを飛ばすと、次のゲートを目指すルートとも、いつもと同じルートも違う方向へ静香は進んだ。


 とりあえず、後をつけてくるような探索者はいない。今回は後をつけらると大変危険なので、しっかり周囲を確認してから転移トラップを踏んだ。

 飛んだ先はモンスターハウス。このダンジョンで契約した三体の召喚獣を喚び出し、殲滅にかかる。

 上層一区のモンスターハウスに強敵はいない。ただ数が多いだけで、召喚獣を使いこなせれば瞬殺できる。


 枝垂れ藤の精は幻影系の能力もあるようなので、これを呼び出しているとモンスターが同士打ちをする。そうならないのもいるが、正確に静香たちの姿をとらえられないようで誰もいないところに攻撃していた。

 白虎と般若面はどちらも速さと力がある。より遠くを白虎が倒しに行き、般若面は静香の守りに入れる位置どりをしていた。


 通常スケルトンの殲滅が終わると宝箱が出る。地図図鑑によると、現れたモンスターに応じて宝箱が一個から三個出るとなっていた。

 今回は二個なので、今回よりも多いことがあると覚えておく。

 宝箱からは手鏡と赤色の玉が出てきた。なんとなく召喚獣が欲しそうにしているで、手鏡は枝垂れ藤の精に、玉は白虎にあげた。白虎は受け取ったいうより食べただが、アイテムを受け取ってくれれば召喚獣が強化される、

 そしてあげる物のなかった般若面は、ドロップ品を集めてくれたいた。アイテムバッグになっている巾着を渡しているので、早々持ち運べないということはない。


 今日はモンスターハウスを使ったショートカットなので、そのうち般若面の欲しがる物も出るはず。出た時はちゃんとあげる予定にしている。

 お店の側に出る転移トラップならボスの手前に行くまで三回移動しなくてはならないが、モンスターハウスなら二回で済む上に宝箱も出る。

 余裕で倒せなくなったら、その次からモンスターハウスに突っ込むのはやめるが、上層と中層なら問題ないと思っている。これで更なる時間短縮で下層に到着できるはず。

 公民館のような部屋でモンスターを倒し終わると発光して自己主張している魔法陣にのると、地図情報では上層十一区に出る。そして、十一区にある次へのモンスターハウスへのトラップを踏みに行く。




 上層ボスが倒されていたこともあって、上層攻略時間が一時間を切っていた。移動する距離が少ない分かなり早くなっている。

 休暇もいらないのでそのまま中層に向かった。

 召喚獣は喚び出す時が一番魔力を消費する。なので、モンスターハウスいがいでは省エネモードで小型化してもらい、枝垂れ藤の精の能力で探索者たちから姿を消してもらっていた。

 中層にも配信者と思われる人たちがいるが、騒がれていないなでカメラにも召喚獣たちは映っていないはずだ。

 上層の同じような時間で中層の攻略も終え、下層に入る。


 ボスのいる区画の一つ前に泊まった人で、朝の討伐は取り合いになっていたらしい。今後はなかなかボス討伐はできそうにないと、下層二区の店へ向かった。

 店の中では召喚獣たちに姿を見せてもらい、召喚獣の強化素材になる物がないかまず見せてもらう。それから店員スケルトンとお勧めを聞く。

 甘味をしっかり確保してからは、買い物の優先順位は召喚獣の欲しがる物なっている。一応、どこのダンジョンでも強化できるらしいが、一番適合する物が多いのは、契約する時に召喚に使った品と同じダンジョンだと体感している。

 より奥の店に行きたいので、自分の装備と同等以上には召喚獣にスケルをかけるのも厭わない。強化すればするだけ稼いでもくれるし、静香の安全面も強化される。

 

 般若面がツノを欲しがり、買ったら般若面のツノに同化させたり、白虎は宝玉を欲しがりバリボリ食べたり、枝垂れ藤の花の精は化粧道具を欲しかったりしたが、スケルが足りたたので全部買った。

 ドロップ品を売って小金持ちになる度に、ガツンと店員スケルトンに売り込まれる。

 お買い物が済むとお食事処で休憩。なんか召喚獣たちも食べられる様なで好きに注文させた。

 彼らの欲しがる物に比べたら、食事代なんて誤差でしかない。


 食事が終わると真っ当に七区に向かう。七区まではAランクパーティによって間引きされており、召喚獣も強化されたので行けるはず。無理だとお前ば引き返すが、多分大丈夫だ。

 召喚獣を複数喚び出している間は、静香自身のスキルは使わないようにしている。召喚維持で常時魔力を消費しているので、スキル使用で使われる魔力消費も惜しむ。

 必要であればスキルも使うし、魔力回復のために食べ歩きくらいする。時間経過でも魔力は回復するが、食事や睡眠でより回復るすこともできる。

 召喚師は魔力特化系の職業ではあるが、無限ではない。攻略時間に合わせて魔力管理をする必要があった。


 二区画移動ごとに休憩をとり、七区の店には昼ごろに到着がする。食事処へ行くと、Aランクパーティが三組いた。ここを上宿にしている人たちはみんな、ここで昼ごはんも食べているのだろう。


「千鳥ついに来たか」

「宿の個室まだ空いてる?」

「最初に言う言葉がそれかよ」


 すでに食事終わっている社長に、残念な人を見る目で見られた、


「八部屋はあったから大丈夫だろ」

「よかったです。部屋がないなら、二区まで戻るつもりだったので」


 一緒の席に座るか問われたが断る。席について、召喚獣の姿を見せれば納得された。


「召喚? 使役?」

「おっ、美人」

「もふりたい」


 食事後の休憩タイムだった人たちに、好き勝手言われる。突進してこないならいいとする。


「千鳥、ドローン使っているが、配信したか?」

「まだです。実験的ルート使ったので、今日は配信できるような画像はないです」


 さすがに名指しされたら社長は無視できない。お昼ご飯はカツとじとお吸い物とサラダの定食にする。どんどんお店のメニューが豊富になると、嬉しくなった。

 いづれは全メニュー制覇したい。

 召喚獣たちも好きに注文させる。しゃべらないので指差しだが、給仕スケルトンはしっかりと注文を受けてくれた。

 白虎の指差しは、どれか謎なのによく判断できたと感心してしまう。


「配信するなら、食事する召喚獣の姿がいいんじゃないか?」

「白い虎を定点で映し続ければいいわ」

「ったく、これだからモフラーは」

「ウチの会社の事務員さんは、戦闘方法公開NGなんだ。面倒みている探索者たちにもばらすなよ」


 盛り上がる人たちを社長が止めてくれる。


「まさか、ソロBランクが本気で事務職狙いだったのか」

「あー、不採用通知いただきましたね」

「いや、だって、高校生でソロBだぞ。記念受験みたい感覚で就職試験にきたとしか思えなくてな」

「それでか。高校生の先生に、本人は大真面目に就職活動している。本気で働く気はあると何度も念を押されたんだよ」


 落とした社長と採用した社長がウダウダ言っている間に料理が届いた。このダンジョンにあるお店、何を食べてもハズレがない。にこにこと静香は食事する。


「チドリちゃんが食事しているの見ると、安心するな。オレ、君が高校生になったばかりの頃知っているからね。欲しいものリストの保存食何度か送らせてもらいました」


 ここにいる中では静香の次に若そうな人が、忘れたい過去を語ってしまう。


「授業料と家賃払ったら食事できないって時期があったんだよな。で、有志で配信勧めさせていただきました。ダンジョン配信サイト、ダンジョンギルドの下部組織だから、探索者支援も目的にしていて、収益化できなくても、ダンジョンギルドで売っている物を欲しい物リストに登録したら、視聴者が購入して贈れるんだよ」

「よく配信機材用意できたな」

「女子高生の餓死が不安になったメンツで、配信機材プレゼントしました。初回配信みて収益化はないと思ったからね。とにかく食糧を贈ろうって、チャンネル登録したんだよな」

「あのヒドイ動画でよくチャンネル登録者がいるとおもえば、そういうことか」

「チャンネル登録しないと食糧贈れないんですよ。たぶん、一番食糧送っているの役所の人かダンジョンギルドの人です。一人だけ特別扱いはできないから直接支援はてきないので、かわりに押し活だそうですから」

「なんて役所の人まで送っているんだ?」


 その理由は何度も聞いた。そしてどうにもできないとも。


「孤児人数が多すぎて、ことごとく支援給付から外れたんです。会ったことのない探索者の叔父がいまして、給付が決まる頃には行方不明でしたが、死亡確定してなかったので、天涯孤独の孤児より優先順位が下になったそうです」


 小学生にの頃、孤児になったとき叔父はダンジョンで大怪我をして入院中。とても子育てできる環境ではなかったそうだ。しばらくして退院しても、日常生活に支障をきたす状況だったらしい。

 その内所在がわからなくなり、行方不明。役所の人に手続きに困るからと、行方不明者届を提出。結局一度も会うことなく、現在は死亡が確定している。


「一応、孤児院も高校卒業までいられるはずだったんですけど、追い出されましたし」


 施設にいれば、朝と夜はご飯が食べられた。中学校に行けば給食があり、三食食べられていたのだが、高校に給食はなかった。

 召喚師は魔力チートな分。魔力になる食事がいる。日に三食でも足りないくらいなのに、その三食さえ不自由した時期があった。


 スタンピードで孤児が溢れかえっていなければ、親族なしの孤児と同等の支援があったらしい。けれど、支援には上限があり、支援を求める人はそれを超えた。

 国から自治体にスタンピード復興支援もされていはたが、重点支援は隣の市まで。行政区分の結果、支援額は増えなかった。

 世界の至る所でスタンピードは発生し、死者を量産している。いずれは百億にとどくと言われていた世界人口は、ダンジョンの発生以後その数を半分にまで減らしていた。

 人口の七割を残したこの国はまだマシな方で、大陸では一か国で抑えきれなかったスタンピードが周辺国を襲っている。


 しんみりした空気中、カツとじを食べ終えたので、デザートにショートケーキを注文した。


 小学生がダンジョンでお金を稼ぎ、シングルマザーがダンジョンで子育てする時代だ。

 人の死はありふれていて、不幸はどこにでも転がっている。スタンピードで何も失っていない人なんていやしない。


 撮影したままになっていたドローンを回収し、撮影を終わりにする。録画メモリーを入れ替えて、地元Aランク勢揃いの姿を撮る。

 地元最上位の彼らは、ダンジョンで何か有れば異変の最前線に行くことを期待される人たちだ。彼らより先にダンジョンの奥へ進む者はいない。

 Sランクが来るまではと、彼らはこの地で踏みとどまっている。


 このまま誰も欠けることなくいられればと願う。けれど、入場制限された今でさえ、上層や中層で死者は出ている。無茶してもしなくても、絶対に大丈夫なんてことはなかった。


 静香は転移系のトラップしか引っかかったことかはないが、落とし穴からの骨折だとか、麻痺系の毒があるとは聞いていた。お店で売っている丸薬がどうやらこの麻痺系の毒に効くらしい。

 トラップを踏んだあと、お守りが壊れて何も起きなかったて話もある。上層にいる探索者たちはお店にたどり着いたら、まずは丸薬とお守りを買うというのが定石になっていた。

 けれど、ここにいる面々は、買ったはいいが使われることのないままになっている。それでも静香は奥へ進む度に買い替えていた。

 上層のアイテムが下層で効果があるとは思えなくて、使っていないからと買わない選択もできない。確認はしていないが、きっとこの場にいる探索者も買い替えている。




 Aランクパーティたちがモンスターの間引きに向かうのを見送り、静香は買い物をした。久しぶりに会員証のランクが上がる。

 それにあわせて厳選カタログをもらった。パラパラ見れば、高額商品しかない。夜、宿に泊まったときにでもじっくり読むことにする。

 チラッとみただけで、ゼロがいっぱい。ケタを数えないといくらかわからないくらいだ。

 この店は探索者を破産させたいのだろうか。あれば、あるだけ、使わせにきている。


 Aランクパーティたちは、八区に二パーティ、七区に一パーティで間引きをすると聞いた。静香は六区で、モンスター狩りをする。

 召喚獣一体当たり、入手アイテムとは別に、五千万スケルくらいは貢いでいた。そのおかげか、召喚獣たちは下層でも余裕がある。

 手持ちの召喚獣の中でも強個体に育ってきた。スケルさえ集まれれば、まだ強くなれるとあって、今後が楽しみになる。


 菊花シリーズが集まってきたので、そろそろ手持ちの枝垂れ藤シリーズは枝垂れ藤の精に貢ごうと思う。だだ菊花シリーズだと二本差しになる。

 菊花シリーズ、チラッと見ただけなのに厳選カタログにあった。明らかにカタログ最初の方にある目玉の高級品扱いでとってもお高い。

 スケルトンの相手は召喚獣に任せて、より金策すべく静香は家探しする。


 周囲に誰もいない事を確認して唐草模様の手ぬぐいをほっかむりした。なぜか、この手ぬぐいだけ頭部装備品で、盗みスキル付き。家探しに特攻までついていた。

 ちなみにこの手ぬぐい、唐草模様シリーズではなく、どろぼうシリーズになっている。残念なが、このシリーズ販売されていないので、家探し特攻のためには自力で入手するしかなかった。


 お店で売っていにシリーズは義賊シリーズのいうのもあって、これを装備すると普通のお家の家探しはできなくなるが、会社とか公共の建物なんかに入れるようになる。

 義賊シリーズは使い所が難しいが使えると、とっても収益がいい。そのせいか、スキルに銭投げがついている。金食い虫の予感しかしないスキルなんて、使いこなせる気はしないし、スキルとして覚えたくもない。




 空が暗くなり始めた頃七区へ向かい、完全に暗くなる前にお店に着いた。女将スケルトンが出てきて、宿泊の方法を説明をする。

 いつもより、選択肢が増えどうやら離れに泊まれるようだ。離れ、明らかに高いけど風呂付きだと言われたので泊まることにする。

 今回は混合パーティがいるなで、お風呂で遭遇する可能性が高い。お風呂は一人でゆっくりしたかった。

 離れはお部屋代プラス人数分のお食事代という料金システムなので、なんとなく普通の食事をするのも気に入っている召喚獣たちの分もお金を払い、召喚したままにしていたら、お風呂に入った。


 人型男性体の般若面と一緒に入るのは嫌だし、明らかに女性として劣等感を刺激されそうな枝垂れ藤の精と一緒も嫌だ。嫌な順に拒否していたら、断る前に白虎と一緒にお湯につかるハメになっている。

 人型ではないから、気分的にはまだマシ。しかし、白虎はお湯に濡れるとなかなか細身だ。

 お風呂に入る白虎はかわいいが、これ乾かすのが大変そう。先に白虎を乾かさないと水を飛ばされそうで、お風呂上がりがちょっと不安になる。


 白虎にぐいぐい押されてさきに風呂場を出た。浴衣を着終わると般若面が入ってきて、白虎の面倒をみてくれる。そして、般若面が白虎のお世話をしている間に枝垂れ藤の精がお風呂に入った。

 般若面、苦労性かもしれない。


 みんなお風呂からでると食事。食事も食堂のご飯から料亭のご飯にグレードが上がっていた。

 そんな食事時間の間に洗濯乾燥機を使用し、女中スケルトンと一緒に料理を持ってきた女将スケルトンに、部屋にあったパンフレットらしき物をもらっていいのか尋ねる。

 ドローンカメラ飛ばしていたら撮影禁止と怒られたので、何をどこまでやっていいのか悩む。


「そちらのパンフレットはすべてお持ちいただいて大丈夫です」


 持って帰っていいようだ。ダメって言われたら手書きで書き写さなくてはと思っていた。

 パンフレットは下層のお店の物で、お店までの地図がついている。

 そして、その簡易地図には転移トラップとモンスタートラップらしきルート表示もあった。

 それも気になるが、朧車タクシーのパンフレットも気になる。初乗りは千スケル。

 専用の狼煙玉に魔力を流すと煙が上がり、朧車が来てくれるようだ。

 狼煙玉は一個百スケル。十個買うと一個オマケがもらえる。

 それから美術館のパンフレットもあった。


「美術館のチケットも売っているんですか?」

「お店の方でお声かけいただければ販売しております」


 六区で美術館らしき建物は見つけていたが、侵入経路を見つけられないで時間切れになっている。チケットを買わないと入らない仕様だったのかもしれない。中にはいれたなら、義賊シリーズが使えるはず。


 明日も六区か、モンスタートラップ見に行くか、二区でも離れに泊まれるか調べに行くか、試したい事はたくさんある。そして、厳選カタログを見れば、金を稼がねばと、決意が新たになった。


 食事による魔力回復が思いのほか良かったので、召喚獣は出したまま寝る。女中は召喚獣たちの分まで布団を敷いてくれた。


 そうか、白虎も布団で寝るのか。


 敷布団の上で横になった白虎に般若面が布団をかける。そして、般若面はお面をつけたまま寝るようだ。

 枝垂れ藤の精は浴衣をはだけすぎているので、さっさと布団に入って寝て欲しい。


 静香は布団に入るとぐっすり寝た。

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