02 名前も性別もすべて捨て
状況を重く見た瑚家は、優秀な術士たちを集め自分たちに送られる負の感情や呪いから身を守るよう命じた。
彼らは
時の皇帝は、瑚
こうして瑚家の血が脈々と受け継がれていくのは、後宮――
そこでの立ち振る舞いや身の振り方、いかにして皇帝からの寵愛を受けるかによって立場は変わる。
年齢と病状から現皇帝は華楼宮にほぼ通えていない。皇帝のためだけに用意されている華楼宮の最奥にある
そうなると御代替わりに先立ち、どの皇子に愛されるのかが彼女たちの命運を分ける。
その名の通り桜の花が咲き誇り、皇宮に春の訪れを告げる季節。華楼宮には何人もの新しい側妃の輿入れがあり喧騒に包まれていた。
一方で皇帝の居所、
「
凛とした空気を裂くような声を受け、ゆっくりと頭を上げる。
現れたのは、深い夜を思わせる双眸だ。口元を布で覆い、表情はよく見えないが、揺れない瞳がしっかりと皇子を捉えた。加術士の正装となる黒い
意志の強そうな面差しに引き換え、体格は華奢で線の細さが際立つ。今から見せられるのが舞だと言われても、誰も疑わないだろう。
瑚家と加術士の関わりは国の誕生まで遡る。どこまで本当かはわからないが、瑚家に注がれる呪怨から身を守るため、皇族の位の高い者は専従の加術士をつけるのが習わしだった。そして今日、新たに第二皇子専従の加術士として遣わされた者との対面が行われている。
第二皇子が不躾に視線を送るが、相手は瞬きひとつせずこちらを見つめている。表情はもちろん感情の欠片さえ読み取れない。
「太白の者と聞いた」
「はい。このたび第二皇子、乾廉さまの加術士を拝命いたしました。
淀みない音はよく通った。声変わり前の少年のような声は見た目通りと言うべきか。乾廉は苦々しく思いながら、それを顔には出さずに続ける。
「そなたはとても優秀な加術士だと聞いた。その命を主である私に捧げる覚悟で身を粉にし尽くすように」
決まりきった文言。歓咏の前に仕えていた加術士にも同じように伝えた。その前もだ。乾廉本人がどう思っていても立場上そう告げるしかない。
「御意」
その答えも聞き飽きた。これ以上、新しい加術士と話すこともない。必要以上に関わるつもりも。上座から見下ろしていた乾廉は静かに席を立つ。
ちらりと歓咏を視界に映し、あとは任せる旨を側近である
乾廉のうしろ姿が見えなくなるまで見つめ続け、歓咏は燻り続けていた気持ちがやっと赤い炎を吹き始めたのだと実感する。真っ黒な消し炭は今か今かと火がつくのを待っていた。
太白歓咏――その正体は、十年前に皇帝の命によって族滅させられた四大加術家のひとつ、汪青家の生き残りの少女、汪青春咏だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます