少年時代
井上陽水の名曲。夏の終わり、秋の始まり。儚さを感じさせてくれる名曲。おやじ街道を彷徨う南山之寿にも、存在したのかもしれない可愛さ余る少年時代。未知の道を歩むあの頃は、毎日が新鮮。南山之寿も今とは別人の様に、希望と無尽蔵のエネルギーに満ち溢れていた。
今日の入場曲は、少年時代。You Tubeか何かでBGMにすると、より南山之寿に寄り添える。そんな必要は無いのかもしれないが。
子供の頃に苦手だったものが、大人になると平気になる逆転現象。苦手だった料理や野菜など、今では問題無く、美味しく食べている南山之寿。車酔いが激しかったが、今では普通に運転。人前で歌うのことが苦手だったが、平気で歌唱。井上陽水のモノマネに手を付けたことがあるのは、また別の話。
――逆もまた然り。
子供の頃に追いかけていた昆虫。今ではあまり触れたくもない存在。昆虫食なるものがあるが、見たくも食べたくもない。イナゴの佃煮、蜂の子。信州旅行に行った際、手も足も出なかった南山之寿。
しかしながら、昆虫とは不思議な生物。幼虫と成虫で形態が変化するところなんぞ、理解できない現象。理解に苦しむのだが、蛹から成虫に羽化する瞬間を目の当たりすると、生命の神秘に驚愕。羽化する蝉を見た時に、魅入ってしまった夏の明け方。ほんの一時、少年時代に戻ったのかもしれない南山之寿。
季節というものは、あっという間に過ぎ行く。冬となり、寒さに苦しむ南山之寿。クローゼットからアウターを取り出し冬支度。
とある休日、買物帰りの南山之寿。荷物を両手に抱えて帰宅。改札を抜けた後のこと。ポケットに交通ICカードを入れようとしたが、通路に落下。慌てて拾おうと、しゃがむ南山之寿。その時……。
――ビリッ
耳にこだまする嫌な音。南山之寿が着ていた、スキニータイプのチノパンが裂けた音。裂け目を確認しようと、股下を確認するため背中を丸める南山之寿。
――ビリッ
再び耳にこだまする嫌な音。南山之寿が着ていた、アウター背中側の縫い目が裂けた音。飛び出す数多の羽毛。
――南山之寿は羽化した。
股下を必死に隠しながら、電車に乗り込み帰路につく南山之寿。決して誰にも見せないように。
――南山之寿は、完全変態ではない。
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