第一章:快適な拠点作り〜思わぬ交流〜

 俺が知らぬ存ぜぬを突き通すと姉はため息を吐いて諦めた。


「あんただけ他にもきれいな場所知ってるなんてズルい……」


 いや、諦めてなかった。今も恨めしそうにこちらを見つめてくる。


「まぁまぁ、麗華の気持ちも分かるけど、教える教えないは誠の自由だから」


 姉を宥める兄の言葉に心の中で呟く。教えたくないわけじゃないんだ。


ただ、場所が深層だから心配されるのが嫌なだけで。


 父も、流石に母を守りながら深層に行くのは厳しいだろう。不測の事態が起きた場合、一番危険なのは間違いなく母だ。


 ……うん。やはり教えないでおこう。俺は貝になる!


 俺の頑なな態度に今度こそ諦めたのか姉がしょんぼりとしつつもご飯を口に運び、次の瞬間には笑顔になっていた。姉はいつだって単純なのだ。


 それからはご飯に舌鼓を打ちつつ和やかに過ごしていると、ピクシーがこちらの様子を伺っているのに気づく。


 ここにはもう何回も足を運んでいるがこういうのは初めてだ。思わずブレスレットを起動させ、何時でも動けるように体制を整える。


一匹、一等輝いているピクシーが近づいてくる。敵意は感じない。むしろ興味津々、というような視線に俺は母以外と目を合わせた。


 どうやら皆もピクシーの様子に気づいていて、敵意が無いためどう行動を起こすか悩んでいるようだ。


 唯一なにも気づいていない母は「きれいな場所でピクニック、楽しいわ〜」と花を飛ばしていた。


「$%|:=*'&&=¿」


 どうしようかと悩んでいると、近寄ってきたピクシーが何か言葉のようなものを発した。しかし何を言っているのか分からない。


 母もその言葉に気づいたのか「あらあら」と口に手を当て驚く。


「ピクシー、ちゃん? さん、かしらね? ごめんなさいねぇ、言葉が通じないみたいだわぁ」


 本当にすまなそうに謝る母に、いやそいつピクシーだぞ!? と突っ込む。ピクシーとは一見して可愛らしい見た目だが、その性質は過激だ。ピクシークイーンと呼ばれる存在一人に、上級探索者のパーティが壊滅した、というのは探索者の語り草になっている。


 ピクシーは母の周りを飛び回り、母の額に触れる。


 数秒触れ合っていたかと思うとピクシーは再び距離を取り、再度言葉を発した。


「ニンゲン、コレデツウジルカ?」


 但し、発せられた言葉は先程のように意味のわからないものではなく、確実に俺達の使う日本語を喋っていた。

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