祈り星

広い家内をリョウガは一人歩いていく。途中メイドと思われる女性に会ったが、こちらを邪魔することはなく、普通に通してくれた。リュウタに通せと言われたのか、見て見ぬふりをしただけなのかは分からないが、そんなことを気にしてる暇は無い。そして最深部にたどり着くと、その奥でリュウタが鎮座していた。


「国王にでもなったつもりか?エセ救世主」


「相変わらずムカつくやつだなほんとに」


「ここに来るとき、誰も俺を止めに来なかったぞ。お前、よほど慕われてないようだな」


それを聞いたリュウタは顔を顰める。リョウガはハッとして、これはもしやあのさっきのメイドさんらしき人がバツを受けるんじゃないかと思い、余計なことを言ってしまったなと後悔した。


「ここまでくると、ただの暴君だな。お前にはその名がお似合いだ」


「なんだと?」


リュウタの標的を自分に仕向けるようにリョウガは挑発する。


「そのまんまの意味だよ。わからんのか?自分の思い通りにいかないとすぐにキレ散らかして、人に危害を加える。これを暴君と言わずに何というんだ?それともこう言った方がいいか?駄々っ子」


「いい加減にその口を閉じろ!!!」


怒ったリュウタがリョウガに聖剣を振り下ろそうとする。しかし、リョウガは槍で剣を受け止め、蹴りを入れてリュウタを怯ませる。


「プライドの高い奴は薄っぺらい性格って聞いたことがあるが、お前を見ているとあながち間違いじゃないみたいだな!」


「黙れぇぇぇぇぇぇ!!!」


リュウタは聖剣を虹色に輝かせると、虹色の太い光線が放たれた。リョウガは大きめの星を飛ばして対抗するが押し負けてしまった。


「ぐうぅ…!」


光線には当たらなかったが、大きく吹き飛ばされた。そしてリュウタが剣で突き刺そうとする。


「くらえ!」


「…!」


リョウガは横に転がって剣を避ける。そしてすぐに立ち上がると、槍を突き出す。だがリュウタも聖剣で防ぎ、そのまま押し合いになる。その状態のまま横に移動し、壁を突き破り、外に出た。


ドーン!!


村人達はリョウガとリュウタがいきなり出てきたことに驚く。だが今の二人は、そんなことはどうでもよく、ただ単に目の前の相手を討つことしか頭にない。


「どう足掻こうが所詮お前は属性無しなんだよ!!」


「お前だってやたらとプライドが高いだけで禄に努力もせずに他人から奪ってばかりじゃねえか!!」


周りから見れば、ただの兄弟喧嘩のように見える。村人達は唖然としながら見ていた。


「このぉ!!」


「ぐへぁ!?」


リョウガの拳がリュウタの顔にヒットし、リュウタは吹っ飛ぶ。


「な…なあ、本当に彼が何とかしてくれるのか?悪魔と契約したんだろ?そんな奴を信じろなんて…」


「大丈夫だよ」


村人がリョウガを警戒しているがイベリは心配ないという。彼女はリョウガが勝ってくれることを祈る。すると夜空から一つの流れ星が降ってきた。


「くたばれえぇぇ!!」


「…っ!!」


リュウタの強力な一撃を喰らってしまうが、リョウガはそれでも立ち上がる。


「しつこいんだよ!!」


「お前を討つまでは生きているかぎり、何度でも立ってやる…」


リョウガは槍を構えてリュウタはそう言い放つ。圧倒的に不利な状況なのにリョウガはそれでもリュウタに向っていく。


「おい、なんで彼は魔法を使わないんだ?」


「そういえば奴から聞いたことがある。兄は属性無しだったって…」


「属性無し!?それでどうやって戦うんだ?」


「分からないが、もしかしたら何か策があるかもしれないぞ!」


そんな村人達が話していると、リュウタの聖剣による突きを喰らってしまった。


「がはっ…!!」


リョウガは吹っ飛び、地面を転がる。それを見た村人達は失望に似た感情を抱いた。


「やっぱり駄目だったか」


「本当に彼は勝てるのか…?」


こう思うのも無理はないだろう。ただの一般人でも魔法を使って戦える世界の中で属性無しはほぼ何もできないも同然なのだ


「はぁ…はぁ…」


だが、それでもリョウガは立ち上がる。服も身体もボロボロになって血を流すが、それでもまだ戦おうとする。


「何度立ち上がろうと無駄だ!」


リュウタは聖剣を上に掲げる。すると、剣が光り始めた。


「これで最後だ!」


リュウタはそのまま剣を振り下ろし、虹色の太い光線を放つ。


「うおおぉぉぉ!!!」


「くっ…!!」


リョウガは大きめの星を盾代わりにして防ぎ、拮抗状態となる。しかし、リョウガは徐々に押されていく。


「無駄だ!属性無しがここまで足掻いてこれたのは誉めてやるが、所詮お前はその程度なんだよ!」


リュウタは笑いながらリョウガにそう言う。確かに今のリョウガではこの光線を防ぐのもギリギリで、星にヒビが入り始め、ついに砕かれてしまった。


「がああああ……!」


リョウガはそのまま吹っ飛んでいき、地面に転がる。槍も手放してしまった。


「お前なんかに勝ち目はねえんだよ!諦めろ!」


「うるせえ!!」


リョウガは怒鳴りながら星を飛ばしてリュウタの顔面に当てる。


「うげっ!?」


リュウタが怯んだ一瞬の隙をついて、リョウガは懐に入り込むとアッパーカットを叩き込んだ。


「ぐはっ……!?」


リュウタは目を見開きながら仰け反り、顔が上を向く。


「まだだ!」


リョウガは素早く体勢を立て直し、顎を蹴り上げる。リュウタは聖剣を手放して倒れる。


「はぁ……はぁ……」


リョウガは息を切らしながら倒れたリュウタを見つめる。リュウタはゆっくりと立ち上がるが、明らかにフラフラだった。


「この野郎……!」


今度は殴り合いが始まり、お互いにボコボコになるまで殴り合う。


「お前は属性無しに生まれてきた時点で負けてたんだよ!」


「その属性無しにやられてんのはどこのどいつだよ!?」


「うるせえ!」


殴り合いはさらに激しくなり、お互いに血だらけになる。リュウタはリョウガの腹に一発入れて怯ませると、一旦距離を取り、聖剣を拾って斬りかかる。


「おらぁ!!」


「くっ!」


リョウガは星を盾代わりにして防ぎ、再び拮抗状態となる。


「こんのぉおおおおお!!」


「ぐぅうううううう!!」


村人達は二人の戦いを見守っていた。


「なあ、なんだか知らねえけどよ、俺さ、その、リョウガだったか?彼の味方をしたくなってきたんだが……」


「奇遇だな。俺もだ」


「私もよ」


村人達はリョウガの戦う姿に心を動かされ、彼を応援する。


「頑張れえぇぇ!!」


「負けるなぁ!」


そして、村人達が大声でリョウガを応援すると、それに応えるようにリョウガの体が光り始めた。その光景を一機の小型の機械が観察していた。



テレンシア、ジャレッド、ゼリーム、シトラス、マイン、ワルフィー、イフ、ヤミロウはリョウガとリュウタの戦いを画面越しから見ていた。実はリョウガに気付かれないよう、小型偵察機を用意してリョウガを尾行し、様子を見ていたのだ。


「なんだありゃ?一体リョウガに何が起こってんだ?」


ジャレッドはリョウガの体が光り出したことに驚いている。


「何だか分からないけど、もしかしてランクアップ?」


「似ているが、そうとも言い難い……」


イフがランクアップではないかと想定するが、テレンシアは違う気がしていた。すると病室のドアがノックされ、開かれる。


「失礼します。テレンシアお嬢様」


現れたのはテレンシアの部下の黒服の男だった。


「星属性に関することの過去の記録が見つかりました。解読したところ、星属性は属性無しが覚醒する属性です」


「何!?」


テレンシアは目を見開く。彼女だけじゃなくジャレッド達も驚いていた。


「星属性は8つの属性と人々の祈りという特殊な条件によって完全に覚醒するとのことです」


黒服の男の説明を聞いたテレンシア達は画面に映るリョウガを見直す。


「まさかリョウガは…」


「星属性が完全に覚醒しようとしているのか…!」


ゼリームとシトラスはは驚きながらも納得する。



「頑張ってくれ…!」


「あんたが最後の希望だ!」


村人達はリョウガの勝利を強く祈った。それと同時に夜空からたくさんの流れ星が降り注ぐ。そしてリョウガの頭上に集まっていた。


「これは……!?」


リョウガは自分の頭上に星が集まっていることに目を見開く。リュウタも何が起きているのか分からない状況だった。


「な、なんだよ!何が起きてんだよ!?」


リョウガは頭上に集まった星を見ていると星がリョウガに話しかたような気がした。そして星が光り出して、リョウガの槍も光り出す。


「もしかして…こうか?」


確証はないが、リョウガは槍を空に向かって掲げると集まっていた星がリョウガに降り注いだ。すると、中央に空きスペースが開いたままのあの魔法陣が展開され、周りの8つの属性の紋章が中央のスペースにエネルギーを送り込むような演出がなされ、魔方陣自体が大きく歪んだと思ったら星の形を模した魔方陣に変わった。

それと同時に、リョウガの髪に星空のようなキラキラ模様が現れ、槍も星のデザインを取り入れたようになり、穂も三又に変化し、トライデントのような槍になった。


三星槍さんせいそうトライアンスター】


リョウガは新たな武器を手に入れ、自信が溢れてきた。そしてリュウタにトライアンスターを向けて言う。


「さあ、続きをしようぜ?」

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