ハードモード

リョウガは手からキラキラのオーラをテレンシア、ジャレッド、ゼリーム、マイン、ワルフィー、シトラス、イフ、ヤミロウに見せていた。見たことのない属性に一同は目を丸くしていた。


「どの八つの属性の特有の気配も感じない。これは新種としか言いようがない」


シトラスは目が見えないながらも明らかにこれは他と違うことを確かに感じ取っていた。


「いったいこれはなんなの?200年以上地上にいるけどこんなの見たことないわ」


ゼリームもこの力については分からないようだった。


「その力、心当たりがある」


ジャレッドの言葉に一同の視線がジャレッドに集中する。


「60年ほど前、つまり世界異変が起きてしばらくたった後ぐらいだったか・・・。その力を振るう奴に会ったことがある。マントを這おっていてどんな種族か分からなかった。俺が喧嘩吹っ掛けたが手も足も出なかった。一撃も当てられず一方的にやられたよ」


「あのときあれでボコボコになってたの?」


ゼリームがそれに納得すると同時に呆れたように言う。


「実は妾も出会ったことがある。妾がテンジュウイン財団を立ち上げるきっかけになった奴だ」


テレンシアも会ったことがあるということに一同は驚く。するとイフが話しかけてくる。


「リョウちゃん、それ、あたいがかつて会った伝説の英雄と似ている」


するとテレンシアが反応する。


「何?じゃあ妾が会ったのは一部の者しか会ったことがないという伝説英雄というのか?」


「おそらく…ね…」


その場が一旦静まり返る。するとワルフィーが手を挙げる。


「あの…」


「どうしたワルフィー」


「実は僕も前住んでいたところで伝説の英雄が現れたことがあったみたいなんだ。この時僕はまだ生まれて間もない頃みたいだったから分からないけど」


「ちょっといいか?」


次に反応したのはシトラスだった。


「伝説の英雄なら私も会った。世界異変が起きてからもエルフとダークエルフの戦争が続いていた時に現れ、仲裁してきたのだ。そしてはっきり分かったことがある。伝説の英雄は…人間だ。そして今も生きている」


「生きている!?あの伝説の英雄が!?」


伝説の英雄が生きていることに一同は驚くがシトラスはそのまま続ける。


「厳密には眠っていると言った方が正しい。来たるべき日が来るまで眠りにつくとね。ちなみに場所は教えられない。彼との約束だからだ」


「そうか…」


(エルフとダークエルフの戦争を止めたのは伝説の英雄だったのか)


場所は教えられないというシトラスにイフやテレンシアは渋々納得し、リョウガは伝説の英雄が本当に実在すると信じ始めていた。


「結局これはなんなんだ?」


ヤミロウが再度リョウガの謎の力について聞くが、誰もわからない。


「ならばこの場で名を付けよう。何かあるか?」


テレンシアがそう言った瞬間、リョウガが手を挙げた。


「む?リョウガか。何かあるのか?」


するとリョウガはスケッチブックを取り出し、テレンシア達に見せる。そこには“星属性”と書かれていた。


「星属性か。確かにその輝きは光とは違うまるで夜空に輝く星のよう…。いいだろう、採用しよう」


リョウガのその力は星属性と名付けられた。


「そうだリョウガ、カオティック学園で新たなイベントを作ったぞ」


「?」


テレンシア言葉にリョウガは首を傾げ、なんだろうという意思表現をする。


「その名も“闘技大会ハードモード”だ!」


「「「闘技大会ハードモード?」」」


その場にいる全員が首を傾げた。



『カオティック学園の新イベント、闘技大会ハードモードの開幕だ!!』


闘技大会の時の司会者が声を上げ、観客を盛り上げる。


『闘技大会ハードモードとは魔法や武器の使用が禁止で頼れるのは己の体術のみ!まさしくハードモードだ!』


「「「おおおぉぉぉぉぉぉ!!!」」」


闘技大会ハードモードはルールは普通のとほとんど変わらないが武器や魔法が禁止されており、頼れるのは己の戦闘技術だけというのが大きな違いである。


『そしてそのハードモードにあの属性無しのミスター・ルーザーが参加してるぜ!!』


「「「ハハハハハハ!!」」」


「よしぶん殴る」


「待ちなさい」


リョウガを馬鹿にする生徒達にキレたジャレッドをゼリームが止める。


「彼らもハードモードがリョウガにとってどういうことかわかってないね」


イフが呆れたように言うとヤミロウが続く。


「ふん、後悔するのも時間の問題だな」


『それでは第一回戦、第一試合の選手入場!火と土の二属性持ち!人間火山のガレット・ボルテージ!!』


「うぉおおおおおお!!」


司会者の紹介と共にガレットは雄叫びを上げ、観客席から歓声が上がる。


『そして我らが噛ませ犬!属性無しのミスター・ルーザー!ナナセ・リョウガ!』


「……」


リョウガが入場すると周囲が笑いに包まれる。まるで無理だとわかっていながら挑戦する愚かな奴だと思われているようだ。


『両者の右腕に腕輪があるだろ?あれは魔法を封じるアイテムだ!これで間違って魔法を放つ心配もない!』


「うむ!確かに今までと違う闘技大会だ!リョウガよ、挑戦するのはいいがまた俺に負けるだけのオチだ!棄権することを勧めるぞ!ガッハッハッハ!!」


「……」


「ほう!向かってくるか!ならば叩きのめしてやろう!」


『両者準備はOK?レディー…ファイト!』


ゴングの音と共にガレットはリョウガに向かって拳を突き出す。


「これで終わりだああああ!!」


だがリョウガはそれを避ける。


「ほう!避けたか!ならこれはどうだ!?」


ガレットは連続パンチを浴びせようとするがリョウガは最低限の動きだけで避けていく。


「ええい!ちょこまかと!」


どれだけ攻撃しても当たらないリョウガにガレットは苛立ち始める。そしてガレットは息を切らし始める。


「はぁ…はぁ…」


リョウガは来いよと指で挑発する。


「…っ!!調子に乗るなあああああ!!」


完全に頭に血が昇ったガレットが大きく振りかぶるがそれも避けられた。それによりできた隙をリョウガは見逃さない。そのままガレットの頭を掴み、顎に膝蹴りを叩き込んだ。


「うがあっ!?」


ガレットは何が起こったのか分からず意識が朦朧とし始める。何とか気を持ち直そうとした瞬間、目の前にリョウガの拳が迫っていた。


「あ…」


気づいた時は既に遅し、リョウガの拳がガレットの顔面に大きな一撃を叩き込み、ガレットはそのまま力無く倒れた。審判がガレットに近づき、様子を伺う。


「ガ…ガレット・ボルテージ、気絶!よって勝者、ナナセ・リョウガ…!!」


生徒達はどよめく。あの二属性持ちのガレットが属性無しのリョウガに負けたのだ。


『ど…どういうことだ!?あのガレットが属性無しに負けた…!?一体何が起きたんだ!?まさかナナセ・リョウガ!反則したのか!?』


司会者がありもしないことを言い始めたことにリョウガは苛立ちを覚える。


『ナナセ・リョウガは反則はしていない。正真正銘、自分の実力で勝ったのだ』


いつの間にかテレンシアがマイクを持って立っていた。


『闘技大会ハードモードは魔法や武器が禁止されている。リョウガはその戦闘技術を地道に積んでいた。そしてそれは今この場で証明された。参加者はその戦闘技術に自信があるから参加したのだろう?』


テレンシアの言葉に観客は黙り込む。するとガレットが目を覚ました。


「は…!?俺は一体どうなったんだ!?」


『お、目を覚ましたか。ガレット・ボルテージ。お主はナナセ・リョウガに敗れたのだ』


「…は?俺が?負けた…?あのリョウガに…?」


ガレットは自分がリョウガに負けたことを受け入れられないようだ。そして怒りの表情に変わる。


「くそがああああああ!!!」


そのままリョウガに向かって駆け出す。


「この俺があんな属性無しなんかにいいいいい!!!」


するとガレットの脚が氷で包まれ、動きを封じられる。テレンシアが凍らせたのだ。


『ガレットよ。お主はリョウガを侮り過ぎいていた。その傲慢さが敗因だ。その失敗を次に生かせ』


すると黒服の男が二人現れ、ガレットを連れて行った。


「離せ!もう一回だ!もう一回やらせろ!次は容赦しない!!やらせろおおおぉぉぉぉ!!!」


闘技場にガレットの叫びがこだました。リョウガはその光景を見てニヤリと笑っていた。

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