歓迎されない属性無し

「リョウガ、お主の彼女は無事だぞ」


「!!」


テレンシアからその報告を聞いたリョウガは目を見開いた。リョウガは彼女であるレイカと連絡が取れず、ずっと心配していたのだ。そして今、無事だという報告を聞いて、今までにない安心感に包まれた。


「彼女はテンジュウイン財団が所有するカオティック学園に通っている。そこにはあの時、お主の故郷で起きた事件から逃れた者達も通っているそうだ。お主も確か15歳だったか。なら丁度いい、お主も入れ」


そんなわけでリョウガはカオティック学園に通うことになった。テレンシア曰く、一年間の遅れを少しでも取り戻すためらしい。(現にリョウガは一年間リュウタに監禁されていため、年は14歳から15歳になっている)


「ちなみに妾はカオティック学園の学園長でもある。手続きなら問題ない」


(色々やり過ぎて倒れないのか!?)


「心配いらん。人間よりは頑丈よ」


(心読みやがった!?)



テレンシアによって入学手続きはすぐに終わり、リョウガは学園の制服を身に纏い、校門前に立っていた。


(でっか...)


リョウガはカオティック学園の大きさに驚いていた。カオティック学園は小中高の一貫校であり、様々な進路にも精通している。もはやなんでもお任せといっても過言ではないくらいのものなのだ。


(とりあえず入るか…)


校門をくぐり、校舎に入り、職員室に向った。あまりにも広いので迷いそうになったが案内板のおかげで迷わずにいけた。ドアを開けて職員室に入る。


「......」


失礼します。と言いたかったが声が出なかった。教師たちがリョウガに注目する中、眼鏡をかけた女教師がリョウガに駆け寄ってきた。


「ナナセ君?ナナセ君ですよね!?よかった…!よくご無事で…!」


「...?」


「なんですかナナセ君、首を傾げて。まさか忘れたんですか!?私ですよ!あなたのクラスの担任だったアリスですよ!」


「...!」


言われてみれば確かに見覚えがあった。一年前のリョウガのクラスの担任をしていたアリス・チューリッヒ先生だった。


「とにかく...無事で良かったです。テレンシア学園長から聞いています。喋れないんですよね...」


実はリョウガは学園に入る前にテンジュウイン財団の精神科医に診てもらったのだ。その結果、喋れないのは精神的ショックによるものではないかと診断された。両親を失ったのがそれに値する程のものだと言われた。


「そろそろ授業ですね。着いて来てください。教室に案内します」


アリスに案内され、リョウガは教室に向かった。リョウガは早くレイカに会いたい一心だった。


「さあ着きましたよ。ここがあなたの通うクラスです。このクラスで皆仲良く過ごしましょう」


アリスに連れられリョウガは教室に入った。教室はとても広く大学の教室と勘違いしてしまいそうだった。


「「「...!!」」」


教室に入った瞬間、生徒達がリョウガに注目した。リョウガは生徒達を見渡した。どれも見覚えのある顔立ちだった。


(まさか...そうか)


リョウガは確信した。彼らは一年前に通っていた学校のクラスメイト達だ。一年前とほとんど変わっていないが、成長して体つきが少し変わっていたり、髪が伸びていたりしている。


(...!!)


その中に懐かしい人物を見つけた。その人物はリョウガにとって特別な存在だったからだ。レイカだ。彼女もまたリョウガの存在に気付き、驚いた表情を浮かべている。


(良かった...)


再会できたことに安堵し、思わず笑みがこぼれてしまう。すると隣にいたアリスが話しかけてきた。


「さて皆さん、今日はこの新しい仲間を紹介します。彼はナナセ君。一年前の事件で両親を失い、言葉を発することができません。でも大丈夫です。私が必ず彼を立ち直らせてあげます。では自己紹介をどうぞ」


リョウガは無言のまま頭を下げ、メモ帳を取り出し、そこに『よろしく』と書いた。


「まぁいいでしょう……」


そのままホームルームを始めようとした時だった。


「ふざけんなーっ!!!!」


一人の男子生徒が立ち上がった。


「何がよろしくだよ!そんなんで納得できるわけないだろ!俺たちはこいつの弟のせいで...!」


「やめなさい!」


アリスが制止するが、生徒達は止まらない。


「黙ってられるかよ!こいつの弟が起こした事件に巻き込まれてあの町が滅んだんだぞ!」


次々と非難の声が上がる中、リョウガはただじっと耐えることしかできなかった。


「おい、なんとか言えよ!」


一人がリョウガを殴りつけようとする。だがその手を誰かが掴む。


「止めなさい」


それはアリスだった。


「離せよアリス先生!こいつがどんな奴か知らないのか!?」


「知っています。彼こそあの事件の被害者であり、そしてあの事件を引き起こした張本人の兄」


「ならなんでこんなやつを学園に入れるんだよ!」


「彼が犯人じゃないからですよ。それにこれはテレンシア学園長直々の決定事項です」


「...ちっ」


生徒は舌打ちをして席に着いた。他の生徒たちも同様に不満そうな様子だったが、渋々といった感じで座った。

リョウガはアリスに小さく礼をした。


「では気を取り直して、ナナセ君は一年前の事件で家族を失ったそうです。なので、みなさんは彼の心の傷が癒えるまで優しく接してあげてください」


「はいは〜い質問」


手を上げたのは金髪の少女だった。


「なんでしょうか?スティアさん」


アリスが少女の名を呼ぶ。


「その子、属性無しなのになんで私達と同じ席で授業を受けないといけないんですか?」


リョウガの胸がズキリと痛んだ。属性無しは使える魔法がかなり少ないため、無能と言われても仕方ないのだ。


「彼は学園長が特例として認めました」


「へぇ〜」


「何か言いたいことでも?」


「別にぃ」


「それじゃあナナセ君のことはみんなで支えてあげるように。いいですね?あと、授業が始まりますから静かにするように」


それからリョウガはクラスメイト達の視線を受けながら授業を受けた。しかし誰とも会話をすることはできなかった。


昼休みになり、リョウガはレイカを探した。一年前はいつも一緒にいたのだ。会えばきっと話ができるはず。そう思い、彼女を探した。


「...!!」


見つけた。リョウガは音声魔法を駆使してレイカに話しかける。


『レイカ』


レイカは静かに振り向いた。


「...無事だったんだね、リョウガ君。別に戻って来なくてもよかったけどね」


「...!?」


リョウガは彼女から信じられない言葉が出て耳を疑う。


「私さ...前々から別れたいって思ってたの。リョウガ君、無駄な努力ばかりでなにも成せてないじゃん」


「......」


レイカの言葉に何も反論できない。実際その通りなのだから。


「だから……もう二度と私の前に姿を見せないでくれるかな?」


「……!!」


リョウガはショックを受けた。彼女は自分がどれだけ頑張っているか知っているはずだ。それなのにどうしてそんなことを言えるのか理解できなかった。


「それじゃあ……」


「......!」


去ろうとするレイカの腕を掴み、引き止める。


「触らないで!」


レイカは怒鳴り声を上げて腕を振り払った。


「!!」


リョウガは思わず後退りしてしまう。

一年前とはまるで別人のように思えた。


「私...リョウガ君のことはもう好きじゃないから。だから...私の前から消えて」


そう言ってレイカは去っていった。


「......」


リョウガはただ呆然とするしかなかった。

リョウガにとって辛い日々が続いた。クラスメイト達は相変わらずリョウガのことをよく思わず、陰口ばかり叩かれていた。



「なるほど、そういうことか」


学園長室でテレンシアはリョウガの話を聞いていた。テーブルには『辛いです。』と書かれたメモ用紙があり、リョウガは突っ伏している。


「全く、身内がああだからリョウガもそうとは限らんというのに」


「悪魔の俺が言うのもあれだが、これはねえわ」


リョウガの扱いの酷さに悪魔であるジャレッドですらも同情してしまう始末である。


「よしよし、辛かったよね。大丈夫だよ、あたい達は味方だから」


「属性無しなだけでこんな扱い受けるってあんまりすぎない?」


イフがリョウガの頭を撫でながら宥め、ゼリームは属性無しの扱いに不満を抱いていた。


「何か属性無しでも活かせることがあれば少しは...」


シトラスがそう呟いた瞬間、テレンシアがはっと気づいた。


「そうだ!近いうちにカオティック学園で闘技大会が行われる!リョウガ!それに参加するといい!」


「?」


闘技大会とはカオティック学園の名物ともいえるイベントで一対一の真剣勝負で武器、魔法など自分が持てる戦闘力を活かして戦うというもので相手を気絶させる、またはステージの場外に放り出す、降参させるなどで勝敗が決まる


「属性無しのリョウガに戦闘は不利過ぎるのでは?」


シトラスは少々無理があると言う。それもそうである。属性無しはほぼ何もできない。現にリョウガも戦闘として使えるのは身体強化という魔法だけである。だがテレンシアは続ける。


「リョウガは確かに戦闘は不利だろう。だがお主はリュウタに引導を渡すために鍛えているのだろう?だがそれだけはいけない。実戦も経験しなければな。そして見せてやるのだ。属性無しの底力を」


リョウガも確かにこのまま蔑まれたままではいけないと思い頷いた。属性無しでも成果を出せば、レイカも考え直してくれるかもしれないと思ったからだ。


「だったら俺の力使えばいいじゃねえか」


「ジャレッド、そういう手は反則行為に当たる。一対一になることが前提だからな」


「チッ...」


ジャレッドがリョウガの中に入った状態で援護しようと考えたが、反則になるため止められた。


「大会はいつだ?」


「今から一ヶ月後だな」


「よし、ならその日までみっちりしごいてやる。覚悟しろよ」


ジャレッドが不敵な笑みを浮かべ、リョウガは嫌な予感がすると青ざめた。



「おら!もっとこい!そんなんでくたばってちゃどうしようもねえ!!」


ジャレッドの拳を受け、リョウガは飛ばされ、壁に激突する


「ちょっとジャレッド!もう少し手加減しなさいよ!明らかに強過ぎよ!」


「うるせえな!これでも十分手加減してんだよ!」


ジャレッドの強すぎる攻撃にゼリームが注意する。ちなみに二人は周囲に悪魔や天使だと知られると面倒なので角や天輪、翼を隠して普通の人間と同じような見た目になっている。

リョウガはよろめきながらも立ち上がる。


「よし、まだいけるな。さあこい!!」


こうしてリョウガの大会に向けての訓練が始まった。先ほどのようにジャレッドと手合わせやゼリームと走り込み、マインと水泳、シトラスと手合わせ等々・・・。


「リョウガ、あの帽子の使い方は慣れたか」


リョウガは頷くと右目から魔法陣を展開した。彼の目線からはゲームのアイテム一覧のような項目が見えており槍を選択すると今度は手から魔法陣が展開し、そこから槍が出てきた。


「うむ、問題ないな」


リョウガがテレンシアから貰った例の帽子、あれはアイテムを収納することができる帽子型収納ボックスだったのだ。これによって持ち物によって動きにくくなるのを軽減できるし、気付かずに落としてしまう心配もない。


「大会まであと2週間。それまでにできるだけの鍛錬を積むぞ」


2週間後に迫った闘技大会に向けてリョウガは積極的に鍛錬に取り組んだ。


「ほらほら!どんどんいくよ!」


イフの放つロックハンドのパンチをひたすら避けるリョウガの様子をヤミロウが陰から見ていた。


「......」


ヤミロウは黙って様子を見ていると話し声が聞こえてきた。声のする方を見ていると数人の生徒がリョウガを見て何やら話していた。ヤミロウは聞き耳を立ててみる。


「あいつ本当に属性無しなのか?」


「そうらしいぜ。なんでも学園長のお気に入りなんだとよ」


「まじかよ。属性無しは何しても無駄だろ。無駄な努力じゃん」


どうやら属性無しのリョウガが勝てるわけがないと馬鹿にしているようだ。


(...くだらん)


ヤミロウは呆れていた。訓練がどれだけ大変で辛いものかも知らずに好き放題言う彼らに苛立ちを覚えていた。だがヤミロウはそれを表に出さず、その場を去った。



闘技大会当日、リョウガはカオティック学園の闘技場に向かっていた。カオティック学園には専用の闘技場があり、そこで大会が行われる。闘技場はドーム状になっており観客席は満員である。

リョウガは闘技場に入り、指定された控え室の前までくるとテレンシア達がいた。


「来たなリョウガ」


「リョウ君、私も来たよ」


「...!」


そこにはマインもいたがいつもと違っていた。なんとマインの尾鰭が両足になっていたのだ。


「財団の中で化け狸の者がいてな、変化の術を伝授してもらったのだ」


マインは財団職員の化け狸に変化の術を伝授してもらい、尾鰭を両足に変えることに成功したという。


「ここにいたか」


聞き覚えのある声にリョウガ達が振り向くと、そこにはヤミロウがいた。笠を被って頭の角を隠しているようだった。


「なんだヤミロウ。あーだこーだ言っておきながら結局リョウガが心配なんじゃないの」


「黙れチビ妖精。俺はこいつがどんな戦いをするか見に来ただけだ」


「素直じゃないんだから」


イフがニヤリと笑い、ヤミロウは顔を顰めながらイフを睨むとリョウガと向き合った。


「お前に一つだけ言っておく」


「?」


「鍛錬は決して無駄ではない」


ヤミロウがそう言った瞬間館内放送がなった。


『ナナセ・リョウガさんご準備を』


「いよいよだな。リョウガ、武運を祈る」


「頑張ってね。リョウ君」


「容赦なく叩きのめしてやれ。いいな?」


「リョウガ、あまり無茶はしないようにね?」


「ど、どうか頑張って...!負けないで...!」


「目の見えない私が言うのもあれだが、最後まで君の勇姿を見届けるよ」


「思いっきりやっちゃって!」


「...さっさといけ」


仲間達の激励を受け、リョウガは闘技場に向かっていった。


「さて、妾達もいくとしよう。特等席を用意してある。もちろんヤミロウの分の席も用意してあるぞ」


ヤミロウは再び顔を顰めた。



『さあさあやってきたぜ!カオティック学園恒例の闘技大会!なんと今回は属性無しが参加してるぜ!』


観客全体が笑いに包まれる。属性無しに何ができるんだや飛んだ無謀者だ等、あまり歓迎されていない。


『さて第一回戦を始めるぜ!まずは先程言った属性無し!ナナセ・リョウガ!』


実況の紹介と共にリョウガが闘技場に入ってきた。周囲の他の生徒達はやはり嘲笑っており、歓迎されていない。


「あいつらぶん殴っていいか?」


「ジャレッド!抑えて!」


特等席から観客達の態度に腹を立てたジャレッドをゼリームが制止した。


「対するは火と土の二属性持ち!人間火山のガレット・ボルテージ!!」


実況の紹介と共に体格のいい男子生徒が入ってきた。彼こそがガレット・ボルテージであった。


「うおおおおおおおおおお!!!」


ガレットが叫ぶと観客が歓声を上げた。リョウガはガレットをじっと睨む。


「ハッハッハ!!久しぶりだなリョウガ!!このガレットに挑むとはな!!その度胸は認めてやろう!!最も、お前に勝ち目はないだろうがな!!」


「......」


リョウガは無言のまま槍を構える。


『それじゃあいくぜ!レディ...ファイト!!』


カーン!!


ゴングの音が鳴り、リョウガの最初の戦いが幕を開けた。

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