備えて対抗しよう

リョウガはテレンシアにある場所に案内された。そこはかなり大きな豪邸であり、奥へ奥へと進む。そして、一番奥の部屋にたどり着き、テレンシアはドアをノックした。


「入れ」


中から男の声が聞こえた。その声に反応して、ドアが開かれる。そこは執務室のような場所であった。そして、そこには一人の男が座っている。年齢は30代くらいと見た。


「父上、連れてきました」


「うむ」


テレンシアに父上と呼ばれた男はゆっくりと立ち上がると、リョウガに近づき、向き合った。


「初めまして、ナナセ・リョウガ君、私はドライキュラ・デリル・テンジュウイン。テレンシアの父であり、このカオティックを治めている。娘を助けてくれてありがとう。感謝する」


テレンシアの父であるドライキュラはリョウガに頭を下げた。


「君の事は娘から聞いている。さぞ辛かっただろう。」


それを聞き、リョウガは少し顔を顰める。どうもあの出来事は思い出すだけでも虫唾が走る。するとテレンシアが口を開いた。


「リョウガ、例のあのおにぎりの件だが...」


リョウガはそういえばと思い出す。テレンシアにとられて絶対に口にするなと釘を刺されたのだ。


「あれには…かなりの違法薬物の成分が入っていた」


「!?」


リョウガは驚愕した。自分が知らずに違法の薬物を摂取していたことにだ。


「あの中には幻覚を見せるゲンヤクソウも入っていた。一度摂取すると幻覚症状を引き起こし、再び摂取することでそれが治まる。」


リョウガはその説明で理解した。なぜいきなり腕に虫がまとわりついた幻覚を見たのかを。


「恐らくリュウタは、リョウガの食事に薬物を混ぜ、少しずつ薬漬けにし、言う事をきいたら薬をもらえるというふうに調教しようとしたのかもしれないな」


「……」


リョウガは黙って聞いていた。しかし心の中では怒りが爆発していた。


(ふざけんな!)


リョウガは拳を強く握りしめた。どこまでも性根の腐りきったリュウタの行動に。しかも当の本人はこれを悪いことだと一切認識していないのだ。むしろ正しいことをしていると思っている節がある。


「幸い、症状の方は初期段階だ。摂取しなければ自然と治る」


「……」


リョウガは何も言わずに黙っている。そしてあの時、リュウタを取り逃したことを悔やんでいた。


(おそらく奴はまた人をモルモットのごとく制裁と称して使い潰すだろう。だとしたら目的は一つだ)


リョウガはある決意をした。それはもう二度と同じ悲劇を繰り返してはいけないこと。そしてリュウタを完全に殺す事を決意した。そのためには…


『…頼みがあります』


「…なんだね?」


『俺に訓練をつけてください!』


リョウガはドライキュラに向かって頭を下げる。それを見ていたテレンシアとドライキュラは驚いた表情をしていたが、ドライキュラはすぐにふっと笑みを浮かべた。


「娘を助けてくれた礼だ。受け入れよう」


そう言うとドライキュラは一枚のカードを渡してきた。リョウガはカードを受け取り見てみると、カードにはTENJUIN FOUNDATION RANK:MASTERと書かれていた。


「これは娘が仕切るテンジュウイン財団のランクを示すカードだ。そしてこれは最高ランクのものだ。今から君はテンジュウイン財団のすべてのあらゆる施設を利用できる。テレンシアもいいな?」


「当然です父上。リョウガには大きな恩がありますから。ではリョウガ、着いて来い」


リョウガはドライキュラに一礼すると、テレンシアに着いていった。



ドライキュラの豪邸から車で約10分、一際大きな施設があった。はっきり言ってリュウタのやつより大きい。


「着いたぞリョウガ。ここが財団の本部だ」


車から出ると多くの黒服の人達に出迎えられ、そのまま中に入ると奥へ奥へと進んでいく。そして、客間と書かれたドアの前にたどり着く。


「少し話がある。お主にも関係あることだ」


客間のドアを開けると、そこにはジャレッド、ゼリーム、マイン、ワルフィー、シトラス、イフ、鬼の姿があった。


「お、来たか」


「待っていたわリョウガ」


「リョウ君、やっほー」


「ど、どうも...」


「君なら来てくれると思っていたよ」


「リョウガ、調子はどう?」


「......」


「これで全員揃ったな。それとその前に」


テレンシアは鬼の方を見る。


「...なんだよ?」


「鬼よ、いい加減に名乗ったらどうだ?いつまでも種族名で呼ぶわけにもいかないだろう」


「...名乗るような名前はねえ。勝手に呼んでろ」


『じゃあヤミロウでいいんじゃない?』


「は?」


リョウガの適当につけた呼び名に鬼は睨む。


「なぜそう呼ぶ?」


『闇属性だからヤミロウ』


「...好きにしろ」


というわけで、鬼はヤミロウと呼ばれるようになった。


「さて、まずは当時の状況を整理しよう。ここにいる全員、何故リュウタの施設にいたのかを」


テレンシアの言葉に全員がうなずく。(ヤミロウを除いて)

全員の言い分を簡潔にまとめると


リョウガ:1年ほど前、リュウタが起こした暴挙に両親を殺害され、そのまま囚われた。


テレンシア:1週間程前、仕事の移動中に襲撃され、護衛を全員殺され誘拐された。


マイン:正確な日付はわからないが恐らく最近。陸に上がって休憩していたら襲撃され、網に捕まって連れてこられた。


ゼリーム:リュウタが自分を悪く言った人達を制裁と称した殺害や罰という名の人体実験などを行なっていることを知り、これ以上の悪行を止めるために来た。


ジャレッド:ゼリームと行動を共にしていた。リュウタが強敵ということを聞いて面白がってついてきた。


シトラス:同族が連れ拐われる事件が相次ぎ、調査をしていたところ、イフと出会い、彼女からリュウタのことを知って協力関係を結び、施設を襲撃した。


イフ:リュウタ達一味に連れ拐われるが、同族達が逃がしてくれた。その時にシトラスと出会い、彼に状況を説明。その中にエルフもいたので、同族を助けるという利害一致で協力関係を結び、施設を襲撃した。


ワルフィー:リュウタ達一味に襲撃され逃げ回っていたら満月を見てしまい、そこからの記憶がなく、気がついたらあの大きな牢屋にいた。


ヤミロウ:リュウタに目つきが悪く、悪人面だからという理由でボコボコにされ、そのまま囚われた。これには全員同情した。


「では次になぜお主たちがここに集められたのかを説明する。今回、リュウタが起こした事件は知っているだろう。その件でリュウタが指名手配された。だが、リュウタはまた戻ってくるだろう。リョウガ、お主がいる限りな」


「……」


「そこでだ、この場にいる全員で一部隊を編成しようと考えている。」


「「え!?」」


その場にいる全員が驚く。普通部隊を作るなら同族同士が普通である。種族上の特徴や相性で問題が起こりかねないのだ。しかも今いるのは、人間であるリョウガ、悪魔であるジャレッド、天使であるゼリーム、エルフであるシトラス、妖精であるイフ、人狼であるワルフィー、人魚であるマイン、吸血鬼であるテレンシア、鬼であるヤミロウの9人だ。どう考えてもバランスが悪い。特に天使と悪魔は対をなす存在だ。


「確かにそうだな、だが他にリュウタとやり合える者がいるか?戦闘経験豊富な妾の部下もあっさりやられたんだぞ?それにこのまま放っておけば奴はまた力をつけてくる。そうなればこちらも太刀打ちが出来なくなるかもしれない」


「確かに他の人達がいっても殺されて奴のエネルギーになるだけだよね」


イフは確かに自分達でやるしかないと頭を抱える。


「だとしても、ワルフィーはまだ子供よ!?子供を戦場に連れ出す気!?」


テレンシアの問いにゼリームが反論する。


「ワルフィーは後方支援に回ってもらうつもりだ。それにワルフィーは狼化によってリュウタを打ち負かすことができるかもしれないからだ」


「ワルフィーは一種の最終手段と?」


シトラスがそう問うとテレンシアは少し顔を顰める。


「最終手段というより切り札と言ってほしい。確かにワルフィーの狼化は危険だ。それと同時に状況を大きく変える切り札でもある」


「危険被験体と呼ばれるくらいだしなぁ」


ジャレッドがそう言いつつワルフィーに目を向けると、ワルフィーはそっと目を逸らした。


「ワルフィー、お主はどうだ?別に強制ではないができるなら協力してほしい」


「......」


ワルフィーは黙り込む。彼はまだ子供だし、戦いが怖いのは無理もない。


(子供を戦線に出すのは気が引けるが、テレンシアの言い分もわからなくはない...)


リョウガがそう思っていると、ワルフィーが口を開いた。


「...わかりました。協力します!」


「助かる」


「ちょっとワルフィー!?」


「無理しなくてもいいんだよ?」


ゼリームとイフが割って入るがワルフィーは決意に満ちた目をしていた。


「僕、リョウガさんを見て変わろうと思ったんです。属性無しだというのに果敢に立ち向かって、どれだけ攻撃されても立ち上がって...だから僕も...」


「ワルフィー...」


「決まりだな」


「待ちな」


突然ヤミロウが待ったをかけた。


「俺は誰とも連む気はねえ。貴様らで勝手にやってろ。俺は俺で奴を始末する」


そう言うとヤミロウは部屋を出ていってしまった。


「仕方ない、今日のところは解散としよう。もう夜も遅い。お主達はここに泊まっていけ。続きは明日にしよう。リョウガ、お主はここに残れ」


他の皆が部屋から出ていく中、部屋に残ったのはリョウガとテレンシアだけだった。するとテレンシアが指を鳴らした。パチンという音に反応するかのように、壁が自動ドアのように左右に開き、中には青い帽子が置かれていた。

テレンシアはそれを手に取るとリョウガに渡してきた。


「奴の施設の時から思っていたが、お主は帽子がよく似合う男だ。これをやる」


「......?」


リョウガはこれは?とでも言いたげに首を傾げた。


「これはただの帽子ではない。テンジュウイン財団特製の魔道具だ。特殊な機能が備わっている。機能についてはまた今度説明しよう」


「......」


リョウガは早速被ってみると、コンピューターのようなプログラムの音がなり、女性のような声が聞こえてきた。


【所有者を登録しました】


「うむ、よく似合っているな。ではまた明日な」


そう言いテレンシアは部屋を出ていった。リョウガは窓から見える星空を眺めて、リュウタを打倒することを誓った。

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