キャップヒーロー

Naniro

この少年、属性無し

かつてこの世界は現実だけだった。何もない日常だった。だが世界が突然変わった。

耳の長い人間が目撃されたり見たことのない動植物が発見されたりまた、明らかに非科学的な力を行使できる多種多様な種族が多数発見され、人々は混乱に陥った。人々はそれを“世界異変”と呼んだ。

そして大規模な戦争が起き、多くの死者が出た。滅ぶことを恐れた人々は降伏し、対話を求めた。他の種族も同じく滅ぶことを恐れていたためそれを受け入れた。

やがて争いはなくなり、今や彼らと友好関係を築き、各種族は得意分野を活かし、人々に豊かな暮らしをもたらした。人々は科学を提供し彼らの病の治療を手助けをしたり家事や畑仕事に便利な物品を提供した。そして非科学な力は魔法と判明し、人類が持つ科学と掛け合わせる事でより豊かな暮らしになっていった。

種族達は新たな一歩を踏み出す願いを込め、これを持って新西暦1年とした。



「はい、ここテストに出るからねー」


教師がそう言い生徒達が黒板に書かれた過去に起きた出来事を一斉にメモを取り始める。

俺の名はナナセ・リョウガ。14歳の中学生で今歴史の授業中である...ってなんかどこぞの女児向けアニメの自己紹介じゃないか!...まあいい。黒板のやつざっくりと写すか。


・旧西暦2010年、世界が突如一変。人間以外の数多な種族が確認された。

・各種族は文化の違いで対立し、やがて戦争に発展した。

・旧西暦2020年、相手の魔法という戦力に圧倒され滅ぼされることを危惧し降伏。

・その後対話により和平が成立。魔法が提供された。これをもって新西暦1年とした


よし、こんなもんか。今新西暦50年だから俺が生まれる前に結構ドンパチやったんだな。


魔法とはいわゆる科学とは違う幻想的ななんかで詳しいことは俺もわからん。まあ本でよく見るアレ。あと属性ってやつもある。魔法を使う上で欠かせないものだ。

属性は全部で8つあり、それぞれ火、水、風、雷、氷、土、光、闇となっており、相性がある。


火:氷に強く、水に弱い

水:火に強く、雷に弱い

風:土に強く、氷に弱い

雷:水に強く、土に弱い

氷:風に強く、火に弱い

土:雷に強く、風に弱い

光と闇:互いに強く、互いに弱い

・自分の持つ属性に有利な属性魔法が打ち消せるだけで、効かないというわけではないので注意。(例として火属性を持っている者が、氷魔法を火魔法で打ち消せるが、直接受けるとダメージは受ける)


普通はこの中で一つだけ授かるんだが稀に2つ授かる者もいる。ちなみに俺は属性無し。

...いやマジだよ?俺属性無し。これね、2つ持ちよりも珍しいらしい。でもほぼ何もできない。いやできないわけじゃないが属性無しでも使える魔法はほぼ実用的とは言えない。

あ!ちょっと先生!まだ書けてないから消さないで!

あぁ、ちくしょう、属性の相性書き損ねた。



「それでは...始め!」


「うおおおおおおお!」


教師の合図と共に2人の生徒が戦い始める。これはモンスターから身を守るために戦う術を身につける授業である。これを通して魔法などの使い方を身につけていく。(武器、道具使用可)


(次は俺か...相手は...ん?うっそだろ...)


リョウガの対戦相手は見るからにキザでおぼっちゃまな感じの男子だった。右手に光属性、左に闇属性を纏っている。


「おや、属性無しのナナセ君じゃないか。いやはや流石の僕も属性無しの子を痛ぶるのは気が引けるなぁ」


彼の名はクラヤミ・ヒカル。光と闇の属性2つ持ちでクラスの学級委員長でもある。さらに女子にモテまくりのイケメン野郎だ。


「ヒカル君優しい〜」


「属性無し〜、降参しなよ〜」


(うぜぇ)


「あー...えっと、ナナセ君?これは流石に相手が悪...「いきます」...え?」


教師の心配をよそにリョウガはヒカルと対峙する。


「ナナセ君、決して馬鹿にしてるわけじゃない、おとなしく引き下がった方が君の為だ」


「あいにくだが俺には引き下がると言う選択肢は無い」


ヒカルはリョウガを気遣ってくれているようだがリョウガにとっては余計なお世話でしかない。


「おいおいマジかよ!」


「無能の癖にでしゃばってんなよ〜!」


クラスメイト達がリョウガに対して冷たい言葉を浴びせるが気にしない。


「で、では...始め!」


スタートした瞬間ヒカルが光と闇の属性弾を撃ってきた。


「!!」


リョウガは即座に避けた。仕掛けてくるとは思ってはいたが思ってたより早かったため驚いたがどうにか対処できた。


「へえー、結構な反射神経なんだね」


「俺は負けず嫌いなんでな。こちとら何も対処を考えていなかったわけじゃない!」


するとリョウガは水鉄砲を取り出し、水の代わりに小瓶に入った緑色の液体を流し込んだ。


「なんだあれ?水鉄砲?」


「プハハハ!!水鉄砲とかお子ちゃまかよ!」


クラスメイト達が笑っているがリョウガは気にしない。液体を流し終えるとヒカル目掛けて引き金を引いた。すると緑の液体が飛び出し、ヒカルの近くに着弾すると...


ドォォォォン!!


「な...!?」


「!?」


緑の液体は爆発しクラスメイト達は驚き、教師も目を丸くしていた。


「こいつは調合で作った特殊液体だ!着弾すると爆発する仕組みになっている!爆破物質を含んだ植物をちょいと加工したものさ!」


「これは...当たったらひとたまりもないね!」


(いける!これなら!)


リョウガは今度は白い液体が入った小瓶を取り出し撒き散らした。するとその白い液体は一瞬で蒸発し白い煙が充満した。


「煙幕!?」


「それだけだと思うなよ!」


「何!?う...!目が..!?」


「煙幕でもあり催涙ガスだ!」


催涙ガスで目に痛みが走り、思わずヒカルはしゃがみ込む。そこへゴーグルで目を保護したリョウガが追い討ちをかける。


「とどめぇぇえええええ!!」


「くっ...!」


ヒカルは両手を床に当てると光と闇の魔法陣が展開した。すると、神々しい輝きを纏った巨大な右手と禍々しい闇のオーラを纏った巨大な左手が姿を現した。


「“キラハンド”!“ダクハンド”!」


光の右手、キラハンドと闇の左手、ダグハンドはリョウガをまるで蚊を潰すかのように思いっきり挟んだ


パァン!


一瞬静寂になり、キラハンドとダグハンドが離れるとリョウガは力無く倒れた。


「勝者!クラヤミ・ヒカル!」


「「うおおおおおおおおおおおお!!」」


クラスメイト達が歓声を上げた。惜しくもリョウガは負けてしまった。


「...ちくしょう」


するとヒカルがリョウガに駆け寄ってきた。


「なかなかやるね。流石の僕も負けるかと思ったよ。あの強烈な蹴りをくらったのは初めてだ。でも、君のような“無能”にやられることは余程のアホっていうレッテルを貼られることを意味するからね」


リョウガは顔を見上げるとそこには明らかに嘲笑っているヒカルとその後ろでクスクスと笑っているクラスメイト達がいた。



「お〜い、ナナセ〜遊ぼうぜぇ〜」


放課後、不良達がに絡んできた。遊びという名のいじめだ。


「やば...」


リョウガは走った。関わると碌なことがない。


「逃すかよ!」


火の魔法弾が放たれ、直撃する。


「うわああああ!?」


「よっしゃー!ヒット!」


直撃の衝撃で倒れてしまった。急いで立とうとする。


「よぉ」


起きあがろうとしたら足で抑えられた。不良達と取り巻きの女子達が笑っている。胸ぐらを掴まれた。


「お前さあ...属性無しの癖によお...マナンが異常に高いってことにムカつくんだよ!」


「グハァ...!?」


マナンとはゲームで例えるなMPのようなもので魔法を使うと消費されるものでそれが多ければ多い程、強い魔法が使え、なおかつたくさん使えるのだという。


「マナンがどうのこうのって...そんなの知らない...!」


「うるせえ!」


「ギャアアア!!」


属性無しはマナンが普通の人より比較的に多いという特徴がある。しかし使える魔法はほとんどないため宝の持ち腐れだ。


「次は俺の番だ」


別の不良がリョウガに近づいてきた。取り巻きの女子が笑っている。


「や...やめ...」


「オラァ!」


「ギャアアア!!」


「もう一発いくぜ!」


「くっ...!」


リョウガはポケットから小瓶を取り出し、割った。すると白い煙が充満した。


「う!なんだこれは!?」


「ぐああああ!!目がああああ!?」


「今だ...!“身体強化”!」


お手製の催涙ガス(煙幕付き)で不良が怯んだところを属性無しでも使える身体強化の魔法で拘束から抜け出した。


「くらえ!“属性無しキック”!!」


「グベア!?」


「“属性無しパンチ”!“属性無し当て身!”」


1人の不良を倒し取り巻きも蹴りや当て身で倒し、一目散に去った。



「ハァ...ハァ...酷い目にあった...」


「リョウガ君!」


「ん?」


リョウガが一息ついていると1人の女子が心配そうに見つめていた。


「あぁ、レイカか」


「またやられたの?」


「なに、心配ない。ちゃんと撃退したさ」


サクライ・レイカ。リョウガの彼女でもありリョウガを蔑んだりせずに接してくれる数少ない人物である。


「本当に大丈夫なの?」


「レイカさえいればどうってことない」


リョウガにそう言われてレイカ少し目を離した。


ワイワイガヤガヤ


「ん?」


突如賑やかな声が聞こえきてなんだと思い見てみるとそこには人だかりと1人の女子を庇い、キラハンドとダクハンドを召喚したヒカルとリョウガとどことなく似た少年が対峙していた。


「リュウタ君!レディに手を上げるとは大人気ないぞ!」


(あいつは...リュウタ!またかよ...!)


彼はナナセ・リュウタ。リョウガの双子の弟である。


「すまんレイカ、いってくる」


「え?ちょ、リョウガ君!?」


リョウガは人混みの中に入っていった。


「君は勇者の紋章を持つ身だろう!?そんな力を何故人目掛けて放つんだ!?」


「そいつは俺を馬鹿にした!だから制裁する!」


(やっぱりいつものだ...)


勇者の紋章とは稀に現れる強大な力をもつ証でありかつてこの紋章を持ったもの達が数々の偉業を成し遂げ、人々の希望となったことから勇者の紋章と呼ばれた。

リュウタも勇者の紋章を持っており学校でもトップクラスの実力なのだが...


(あの残念すぎる性格をどうにかすれば言うことないんだがな...)


気に入らないことがあるとすぐ制裁と称して相手を叩きのめす自己中心的な正義感のせいであまり受けは良くない。


「邪魔するならお前も一緒に制裁してやる!“ビームライフル”!」


光の光線がマシンガンのように乱射された。


「ウオオオオァァァァ...!!」


「ヴェァアアアアアアア...!!」


ビームライフルの乱射によりキラハンドとダクハンドが倒された。


「嘘だろ!?クラヤミの使い魔があっさりと!?」


「あいつの光属性は強力と聞いていたがここまでとは...」


「トップクラスの名は伊達じゃないが、性格がな...」


生徒達のヒソヒソ話にリュウタは反応し睨みつけた。


「お前らも制裁されたいか」


生徒達はその場で黙り込んだ。リュウタはヒカルに近づき手をかざすと光のエネルギー弾が生成される。


「トドメだ!」


「っ!!」


ヒカルは身構えて目を閉じた。


ゴキン!


「...ん?」


突如鈍い音がし、ヒカルはゆっくりと目を開けるとリュウタに拳骨をくらわすリョウガの姿があった。


「このバカ野郎が!また問題事起こしやがって!」


頭に大きなタンコブを出して気絶したリュウタを引きずりながら帰路に着いた。


「えーっと...、何が起きたんだ?」


「学校一の実力者のナナセ弟を属性無しのナナセ兄が止めたってことか?」


生徒達は妙に複雑な心境になっていた。



「おい!何すんだ兄貴!」


「お前また余計な真似してくれたな!」


「俺は制裁しようとしただけだぞ!」


「くだらん理由で制裁という名の実力行使やめい!!」


ゴツン!


「痛いってぇ!!また殴った!!」


「うるさい!!」


「全く、あの後レイカとデートに行こうとしてたのに...」


「は?デートってことは...兄貴お前彼女いたのか!?」

「いて悪いか?」


「なんでお前は彼女いて俺にはできねえんだよ!!」


「性格どうにかしろ。あと俺は今まで3人の女子と付き合ったことがある」


「はあああああああああああああ!!!???」


(まあ属性無しという理由で振られたがな!)


リョウガは多少肩身が狭い思いをしているが今の暮らし特に不満を持っているわけではなかった。しかし、この日常が後にあっさりと崩れることになるなんて彼は思いもよらなかった。

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