【ザ・辞世】

箱庭師

第0回 はじめに

 徒然草でお馴染みの吉田兼好は、かく語る。


「春夏秋冬は順番に巡る。しかし、人の死は突然やって来るのだ。


 死は、正面から堂々とやっては来ない。背後から、忍び足で襲いかかって来るのだ。


 誰しも自分が死ぬことは知っている。しかし、死を現実のこととして考える間もなく、突如としてそれは訪れる……」


 中公新書「辞世のことば」中西進著

 より抄出して意訳


 *  *  *


「えっ、あいつ死んだの……!」

 

 小学生の頃、同じサッカー部員だった同級生が死んだ。

 病名は忘れたが、彼は難病を患っており、小学三年生から車椅子に、四年生になると治療に専念するため、学校に来なくなった。

 

 その彼が、六年生の時に死んだ。


 私は、四年生からサッカーを始めた。 

 だから、直に接点がなく、特に親しくもなかった。彼が、車椅子に押されて試合を見に来た時に、一言、二言喋った記憶があるが、なにを話したかまでは覚えていない。


 その彼が死んだ。


 小学生といえば、

「昨日、テレビ、何みた?」

「今日は何して遊ぶ?」

「どのアイドルが好き?」

「今から俺んちで、ゲームやろうぜ」

「晩ご飯ハンバーグ? やったぁ!」

 など、その手のひらに掴める時の砂は、せいぜい一日程度。

 それ以上は、手に余る。

 だから、夏休みの宿題は、その最終日にまとめてクエストするのだ。

 あくまでも私の話。


 その彼が死んだ。


 同級生の死は、祖父母のそれとはまったく異なる肌触りで、私に迫った。

 長じて、走馬灯という存在を知った。

 走馬灯……、なんでも……。

 六文銭を払い、三途の川の渡し船に飛び乗る直前、これまでの人生を、順番どおりかは定かでないが、大急ぎで上映してくれるサービスらしい。

 なんともロマンチックな話である。


 その彼が死んだ……。


 辞世は、その死の前に詠む、短歌や俳句、漢詩の類らしい。

 自らの人生を振り返り、死に際して、わずかな字句にその想いを託すのだ。

 肉体の滅びを前に、私という株式会社を解体し、精算書として残す。

 なんとも律儀……。



 そんな辞世に魅せられた私の、随筆となります。

 辞世の意味を解説したり、文法の蘊蓄などは披露しませんし、第一、そんなこと皆目、分かりません。

 自分なりの解釈は垂れます、がそれだけです。

 暇つぶしにお越しくださったら幸いです。

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