第27話

「奈央ちゃん、すごく綺麗。」

「ありがとう、お母さん。」

私は、今日結婚する。

春馬くんじゃない人のお嫁さんになる。

もちろん、孝太郎でもない。

職場で出会った先輩。

孝太郎に彼氏できたよ!と報告した時は、ぽっと出のやつ、なんて言ったけど、結婚の報告をした時は、すごく嬉しそうな顔をしてた。

全部、全部、嫌だったあの暗闇の中で、孝太郎が私が生きる目印の光になってくれた。

ムカつくことばっかり言うし、喧嘩もしたけど、私が嫌がることはしない。

私のこと本当に好きだったのかも今ではよくわからないけど、私は孝太郎なしては、今日を迎えられなかったと本当に心から思う。

本人には言わないけど。

「奈央ちゃん、こうちゃん来たよ。

お母さんちょっとお手洗い行ってくるね。」

お母さんと入れ違いで、孝太郎がこっちに歩いてくるのが、目の前の大きな鏡に映る。鏡の中の孝太郎と目が合う。

「奈央ちゃん、孫にも、」

「え?何?聞こえなかった。」

「いやいや、俺今左にいるんですけど、左も聞こえないんですか?」

「今日はいい事しか聞こえない。」

「はぁ、まぁ、世界一かわいいですよ?」

「え?」

「聞こえただろ、今は!」

「聞こえた、けどそんなこと言うと思ってなくて、脳の処理が遅れた。」

「意味わかんねぇ。」

そう言って頭をかきながら、孝太郎は出会った時と同じキラキラの笑顔だ。

「孝太郎、」

「ん?」

「ありがとう。」

「ん?はいはい。」

「違うよ、今褒めてくれたのだけじゃないよ。全部。」

「全部?」

「私のこと、諦めないでくれてありがとう。」

「流石に、もう諦めてるから、結婚式で迎えに来たぞ!!とかやらないよ?ドラマじゃあるまいし。」

「違うよ、私が生きるのをやめないように、諦めないでくれてありがとう。本当、死んじゃいたかったから。あの時。」

「死人みたいな顔してたな。」

「でも、孝太郎がいたから。」

「俺に感謝しろよなー。足向けて眠れないな。一生飯奢れ。」

「うん、ほんと、そう。ありがとうね。」

「泣くな、せっかくそんな、可愛いくしてもらってんだから、台無しになる。」

照れ臭さそうに出したハンカチは、春馬くんのハンカチだった。

「これ。」

顔を上げると、

「全部これからも、聞いてやるから。適当に生きてればいいんだよ。奈央ちゃん、生きて。適当にでも、生きてたら、幸せになれるかもしれないだろ。」

「今、幸せ。」

「そう言うのは、俺に言わないでさー。」

俺じゃないじゃん?わかるだろ?

あれ?じゃ、なんですか、俺と結婚しちゃいますかー?

おちゃらけて言ってるけど、

そういう孝太郎も泣いてて、結局2人とも泣いてた。そして、頼んでたブーケを受け取ってまた涙が出てしまった。孝太郎が作ってくれたブーケを持って、私は今日、結婚する。



春馬くん、私結婚するよ。

春馬くんとしたかったけど、でも、先輩もすごく優しくて、素敵な人なの。

春馬くんのこと忘れたわけじゃないよ。ただ、私は生きてるから。孝太郎が居たから今日があるし、この先も続くと思う。

いつか、私がそっちに行ったら、2人でまた散歩に行こうね。

浮気とかじゃないんで。散歩しながら話すだけだよ。春馬くんが居なくなってから、私が生きた間の話、全部聞いてもらうから、覚悟しておいてね。春馬くん、ずっと大好きだよ。

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