第6話:哀愁漂う父親
「「美雪?」」
後ろに振り返るとそこには、クラスメイトであり幼馴染でもある人物――
セミロングの髪型、白い服装の上に黒いカーディガンを羽織っている。
小走りで近づいてきて、目の前で止まる。高校生とは思えないほどに背が低く、少し見上げる格好となっている。
「やっぱり……はる君だ……」
そして、俺の事を唯一「はる君」と呼ぶ。
「ど、どうしたんだよこんな所で」
「買物の……帰り……」
両手で持っていた袋を見せてきた。どうやら夕飯の買物に行っていたらしい。
「……その人……誰?」
――やっべぇ。今一番会いたくない人に出会っちゃったよ……
何とか誤魔化すしかない――!
「あ、ああ。こいつは……その……そう! し、親戚なんだよ! そうだよな晴子!」
「えっ、ああ、そうなんだよ! 親戚なんだよ!」
「……はる君に親戚……居たっけ?」
「じ、実は居たんだよ! 存在したんだよ! こうニョキっとな!」
「……?」
駄目だ、疑いの目で見られている……。長居しているとボロが出そうだし、ここは一旦引こう。
「俺らも買物の帰りなんだよ! だからもう行くわ! またな!」
「じゃあな! 美雪!」
「あっ――」
その場から逃げるように走る。買物袋を持っているせいで、少し走り辛かった。
家に帰ってから買った物を仕舞い、自分の部屋に入ってベッドの上に座り、頭を抱えている。
「参ったな。よりにもよって美雪に会うとは思わなかった……」
「運が悪かったな……」
「ぜってぇ学校で晴子の事聞かれるよ……」
「ド、ドンマイ」
あの場はとりあえず親戚って事にしたが、学校で会ったら他にも色々と聞かれるに違いない。
美雪は幼馴染だ。小さい頃から一緒だったので、俺の事をよく知っている。勿論、晴子みたいな親戚が居るとは言った事は無いし、さぞかし不審に思っている事だろう。
「はぁぁぁぁぁ……、どうすっかなー……」
「なんかごめんな。オレのせいで」
「…………」
「そ、そうだ! こんな時はゲームでもして気分転換しようぜ! な?」
ゲーム機のスイッチを入れ、コントローラーを持たせてきた。
「ほら。オレもやるから」
「……ああ」
コントローラーを握り、テレビ画面に目をやると、タイトル画面が映った。晴子が選んだのは、少し古めのゲームのようだった。横スクロールアクションゲームで、協力プレイが可能なタイプだ。
さっそくスタートし、最初のステージに移行する。序盤だけあって順調に進む。
敵を次々と倒し、途中で武器が出現するのを発見。
「どっち取る?」
「オレ取るわ」
「あいよ」
こんな感じの短いやり取りでスムーズに進んでいき、ボスまで到着。ボスの攻略法も分かっているのであっさり撃破出来た。
最初の内は何かある度、言葉で会話していたが、中盤以降になると言葉も必要としなくなった。
どっちの道に進むか、どっちが武器を取るか、どっちがギミックを対処するか、ボスをどう攻略するか――そういった事は何となく分かってしまうのだ。
ついにラスボスまで到着。さすがにラストとなると手強く、本来ならどう攻略するか打ち合わせがしたくなるが、今の俺達には不要だった。そしてラスボスを倒し、EDが流れる。
「すげー楽だったな」
「一人でやった時は結構苦労したはずなんだけどな」
「なー」
本当にスムーズにクリアする事が出来たのだ。その流れる様なプレイは正に以心伝心だった。双子でゲームするとこんな感じなのかな。
窓の外を見ると、既に日が落ちていた。
「そろそろ親父が帰ってくる時間だな」
「あ……」
もう少しで親父が帰ってくる。その事実に顔を見合わせた。
「晴子の事どうするよ」
「……言えるのか?」
「無理だろうなぁ。というか信じてくれないだろうな」
「だよなぁ……」
親父には晴子の事はまだ伝えていない。
突如として現れたもう一人の自分――晴子の事は、どう説明したらいいのか分からなかった。親父にしてみれば赤の他人だろうし、その上こいつは女だ。下手すれば追い出される可能性もあった。
晴子も同じ考えに至ったらしく、憂鬱そうな表情でうつむいている。
「安心しろよ。何とかなるさ」
「…………」
頭の上に手を置き、少し撫でた。その髪は柔らかく、撫で心地も良かった。
「少し早いけど飯作ってくるわ」
「ならオレも手伝――」
「お前はここに居ろよ。途中で親父が帰ってくるかもしれないだろ?」
「……すまん」
扉を開けてから部屋を出て閉めた後、1階へと降りた。この家は2階建ての一軒家で、自分の部屋は2階にあるのだ。
1階のキッチンへと辿り着き、さっそく料理を始める。作るのは俺と晴子の分だ。料理といっても炒めたりする程度の簡単なものだ。
二人分の食事を作り終えた後、2階の自分の部屋へと運ぶ。部屋にあるテーブルの上に置き、二人で食べる。食べ終えた後、食器を持って再びキッチンへと向かう。
その後に親父の分も作ろうとした時だった。玄関のドアが開く音がした。親父が帰ってきたのだ。居間へとやってきた親父が顔を見せた。
「……ただいま」
「おかえり。荷物少ないな」
「明日には帰るからね……まだ仕事残ってるし……」
「そうか……」
このもの寂しさを感じさせる人物が俺の親父だ。
親父は出張で別の場所で部屋を借りて住んでいる。そのせいか基本的にこの家には居ない。1年の内、数日程度しか帰ってこないのだ。
ギャンブルはしない、タバコは吸わない、酒は嗜む程度で、性格も良く、俺にとっても尊敬できるし自慢の父親だ。そんな親父だからこそ母さんも結婚したんだと思う。
だがしかし……母さんが死んだ日から――
親父は変わってしまった。
元々仕事熱心なタイプだったが、母さんが死んでから、更に仕事に打ち込むようになった。帰宅が遅くなり、帰らない日も珍しくなかった。
そして頻繁に出張することになり、家に居ることすらしなくなった。
元々はそんなに忙しい会社ではなかったはずだった。しかしどうやら自分から仕事を取りに行っているようだった。
それはまるで気を紛らわすかの様で、見ていて痛々しかった。母さんが居なくなった悲しみから逃れようとしているようだった。
雰囲気も暗くなり、あの日以降、笑った表情を見た事がない。
親父が出張で家に居ることが減ったため、基本的に家事は全て俺がやっている。だから家事も料理も自主的にやることにした。
完成した料理を皿に乗せ、それをテーブルの上に置いた。親父は今、自室で着替えているようだ。
親父が来るのを待たず、2階へと登り、自分の部屋に入った。そこには、ベッドの上であぐらをかいて座り、心配そうな表情で見つめてくる晴子の姿があった。
「親父の様子はどうだった?」
「いつも通りだよ」
「……そっか」
「…………」
それから今後どうするか話し合った。結論から言うと、晴子の事は親父に黙っておくことにした。
やはり、今の状態の親父に話すのは躊躇ってしまうからだ。只でさえ精神的に不安定なのだ。これ以上刺激を与えたくなかった。
親父は明日にはまた出張に行くから当分帰ってこない。普段なら少し寂しい気持ちになるが、晴子がいる現状では都合が良かった。
さすがに同じ屋根の下で人一人を隠し通して過ごすのは厳しいからな。
しかし晴子のことはいつか話さないとな……
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近況ノートにて美雪のイラスト公開しています。
https://kakuyomu.jp/users/kunugi_0/news/16817330666681181104
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