第二章

第10話 講習中の闖入者


 翌日、謙吾が教室で講習を受けている時のことである。

 教員が板書した内容を説明し、生徒達が一様に耳を傾けている、そんな水を打った授業風景の中、いきなり勢いよく教室前方のドアが開いた。一瞬の静寂の後にざわめきが室内に波となる。

「サワ!」

 頬杖をついて解説を聞いていた謙吾は、条件反射で勢いよく立ち上がった。今度はクラスメート達の視線が一斉に謙吾の方へ打ち寄せる。

「オオ、ケンゴのクラスだったか」

 部外者であることを全く気にする様子もないサワは、

「お、ユキカもいるではないか」

 室内を見渡しながら、雪花にも軽く手を上げ、遠慮もなく入室してきた。そのもう 一方の手に携えた上品な袋をわずかに持ち上げて、

「制服、乾いたから持って来たぞ」

 と言うものだから、雪花も思わず手をためらいがちに上げてしまう。

 島内ではご対面などしたことのないような、異国風貌のモデル並みボディの金髪女子が、クラスメート男女の名を呼びながら闖入してくる状況ともなれば、教室はなおのこと蜂の巣をつく。教員が静粛を促すものの、一度火のついた盛り上がりは、なかなか鎮火しない。

「お前、何してんだよ」

 クラスの視線を気にしている謙吾に、

「いや、イズミアカリという教諭に会ってな。自由にして良いと言われたので、見学をしていたところだ」

 謙吾の横まで来たサワは事も無げに答える。

「何やってんだよ、あの担任」

 和泉灯。謙吾達のクラスの担任である。こめかみを押さえる。片頭痛の経験はないのだが、自然手が伸びた。

「ここがケンゴの学び舎なのだな」

 向けられている多数の視線を気にも留めず室内を一瞥し、一通り見終えそうになった、その顔の動きが止まった。

「おい、どうしたんだ?」

 謙吾の声を無視し、ただならぬ雰囲気のままサワは大股で、ある席の横に着いた。

 席には肩までかかる黒髪の女子がおり、彼女だけが闖入者にまるで無関心なまま、配られていたプリントに手を滑らせていた。

「貴様」

 サワがその女子・沖水滴おきみずしずくにいかめしげに声をかける。

 ――知り合い? 沖水と?

 謙吾の疑問が何も解消される前に、

「龍宮、お前の知り合いなら、和泉先生の所に連れて行って対処しろ」

 教員から指令が発せられた。

「俺ですか? 今?」

「他にいないだろ。さっさと行って来い」

 素っ頓狂な謙吾は頭を一つ掻いて、物静かなクラスメートを厳しい眼光で見下ろすサワを強引に引っ張って教室を出た。クラスはまだうねっていた。教員の注意が何度か繰り返されると徐々にさざ波くらいにはなった。

 廊下に並ぶ開けっ放しの窓の向こうでは、まぶしい太陽に対抗するように、セミが騒がしく鳴いていた。

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