Splash!!
金子ふみよ
第一章
第1話 玄関に予期せぬものが
玄関を開けると、イルカが行き倒れていた。
水平線から太陽が昇る。その出るか出ないかの時間でさえ、すでに熱射になっている八月。体長二メートル半ほどのイルカなんていう思いがけないもの、というよりも地上にいるはずのない生物をふいに目撃すれば、
「驚かせたか。すまんな」
停止させられた。唐突に声が聞こえたからである。彼の耳には、それが目下のイルカの口唇から届いたようなのだが、彼がしたことは、辺りをキョロキョロと見回すことであった。絶賛日の出真っ最中である。夏休み恒例の怪奇的な現象には早すぎるし、海外旅行から帰国したばかりでもないので時差ボケでもない。
「何故に、そう挙動不審でいるのだ?」
中性的な声色とともに、のっそりと身を動かし、尾だけで起立している目前のイルカに、謙吾はただただ口をパクパクとさせるのみだった。水槽の中の金魚の方がまだ雄弁である。
そんな謙吾を正気に戻させたのは、
キュ~~~~~~~~~~~~~~~~~
イルカの腹部から発せられた、聞き覚えにしてはやけに長い音だった。
「お前、腹減ってんのか?」
いくら日本語を話すイルカとはいえ、生物である以上その本能には逆らえないようである。怪異な
“ドクッ”
胸に勝手に手が触れてしまった。
それよりも。辺りを見回した。恐らく未だ通行人に目撃されてはいないのだろう。いれば、すでに歩道で銅像化しているだろう。このまま外にいられて人目についた場合、一騒動が起こるのは間違いない。となれば、
「入れよ。ここにいられても困る。何かあるもんで……てか、イルカって何食うんだっけ?」
「何でもかまわん。私は何でもいける質でな」
「ヘエ、ソウナンダ」
ひょこひょこと尾鰭で直立歩行をして謙吾について来る、人語を話すイルカへの反応には湿度がなくなった。
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