ep10.風雪の白尾2
■後神暦 1325年 / 夏の月 / 星の日 pm 02:30
――
「ほぁ~、ここ最近は『激動!!』って感じだったから、こうしてのんびりできるのは幸せなことだなってしみじみ思うよ~」
「年寄臭いわね……でもまぁ明日から浄化に行くし、今日くらいは良いのかもね」
中庭の日当たりの良い長椅子に座ってアレクシアとお茶を
言葉にもしたが、本当にここ数日は激動だった。
森に残った
まぁ、往復と言っても拠点経由なので移動に労力はかからなかったんだけど……
「
「うん、アレクシアが来てくれた次の日には森に行って全員島に連れていったよ」
お茶をまた一口啜って答える。
今回の件で護国府でも意見が割れていて、
実際に独断で森へ攻め込んだ連中もいるらしいけど、誰もいない森を延々探し回ってると思うと滑稽だ。
今は燃えてしまった西地区の復興に全力を傾けるべきだろうに……
「わたし、
「僕も感じなかった。根拠のない予想だけど、僕たちみたいな
アレクシアもお茶を啜り『う~ん』と唸る。
ユウちゃんさんに聞いたけれど、
ただ、長く付き合ったり、そう言った感情を跳ね除ける信念のようなものがある人は問題なく共存できるらしい、前者は昔のヨウキョウ人、後者はレイコフさんみたいな人のことだね。
僕たちはそのどちらでもないけれど、本能的な何かなんて感じない、だとすると何らかの
「あの戯けどもめ!! 何様なんじゃ!!」
「まぁ良いではございませんか、じっくり力をつけて今認めなかったことを後悔させてやれば良いのでございます……ふふふ……」
見るからにブチ切れたユウちゃんさんと不穏な笑みを浮かべるミヤバさんが中庭にやってきた。
各府が集まった会議に参加していたのでそれが終わったのだろう。
ミヤバさんたちは結界の真実を
二人の反応を見る限り、相手はまだ認めていないんだとは思うけれど、どうせいつかバレるだろうね。
「ミーちゃん、妾たちは姉様に会いに行ってきます。その後になりますが、ウカノのところにも行きたいのでございます。同行してもらえませんか?」
「はい、大丈夫です」
サーシスさんのお兄さん、カズハさんは衰弱から回復はしたものの、まだ目を覚まさない。
ミヤバさんたちはゾラの敷地内にある蔵に繋げたポータルから何度もお見舞いに足を運んでいる。
今のところ、ポータルはヨウキョウではゾラ・オルコ家、アルコヴァンでは商会長たちとアド、アレクシアのみが知っている、もちろん他言無用だ。
まぁ、リム=パステルをalmAに乗って浴衣で爆走したのを見られているので多少怪しまれているけれど、商会長たちが上手く誤魔化してくれているそうだ。
「なになに? アルコヴァンに戻るの? あたしも行くわ」
「オーリも!!」「ヴィーも!!」
「じゃあ、ウカノさんとミヤバさんの話の邪魔にならないように皆でパイロンさんのところに何か食べに行こうね~」
クレハくんたちと遊んでいたティスたちも戻ってきた。
あれからミヤバさんはウカノさんと会談を重ねている。
もちろん怨弩の浄化についてではあるけれど、その最終決定はアレクシアの意志によるものなので、どちらかと言うと今回の件で借りをどう返すかの話がメインで親戚同士の和やかな会談らしい。(本当かな……?)
アルコヴァンの議会としては怨弩の浄化や奇跡レベルの治癒魔法を持つアレクシアを外交カードにしたい思惑があるのだろうけれど、本人はそれを良しとしていない。
救える命を政治的な利害で邪魔されることを嫌っているのだろう。
それに彼女を庇護しているのは有力一族のカーマインだ。
加えて民衆の指示も高く、彼女自身のフットワークも軽い。
下手な干渉で他国に逃げられるのを警戒して議会も無理強いはできない。
「ミヤバさんってウカノさんの親戚なのよね? さっきの含みのある笑い方とかそっくりよね」
「ね、初めて会ったときは上品なお嬢様だと思ったけど、やっぱりウカノさんと同じ血筋だよ」
これについてはアレクシアに全面的に同意だよ。
あの笑いはきっと結界に関わった人たちをどう追い詰めてやろうかと考えてる顔だ。
ヨウキョウの政界では浄化に
まぁ、物資調達は僕がやってるんだけど……
国境を無視して輸送をしているので正直かなりヤバいことをしている自覚はある。
でもウカノさんは商魂を燃やせって言うし、ミヤバさんも大丈夫だって悪い笑顔で言うし、怖いから口答えするのは止めたんだ、臆病と呼びたければ呼べばいいよ。
「お待たせしました。ミーちゃん、姉様が猫姫にこれをと」
「毎回ありがとうございます、でも猫姫は止めさせてもらえませんか……」
花好きなサーシスさんは妖精族とあっという間に仲良くなった。
温室で花のお世話もしてくれて毎回お土産に花束をくれる。
今回はデルフィニウムにフリージア、”感謝”と”あなたは幸運を振りまく”の花言葉を持つと教えてもらった。
大変ありがたいのだけど、サーシスさんが猫姫と呼びだして
ダフネリアには『出世したな子猫』と盛大にからかわれてしまった……
しかもどうしてアルコヴァンと微妙にリンクしてるんだよ……
少しだけため息を吐き、ミヤバさんを連れてリム=パステルの自宅へと戻った。
~ ~ ~ ~ ~ ~
■後神暦 1325年 / 夏の月 / 獣の日 am 10:00
――翌日 アヤカシ北門
怨弩浄化に向けてアレクシアを連れて僕たちは出発する。
魔物は前回ほぼ討伐が完了しているので、道中の護衛だけでいいはずなんだけど……
「なんでこんなに多いの……?」
「本当よね、カニの取り分が減っちゃうじゃない」
違うよティス、それに君は小さいんだからお腹いっぱい食べてもカニは余るよ。
そうじゃなくて前回ほどではないにしても、30人は超えてるんだけどどういうことだい?
「かかか、他国から聖女様が来てくれているからの、国も威信をかけて護衛するじゃろうて」
「あ~なるほど。良かったねアレクシア、VIPじゃん!!」
やった、今回は茶化し合いに勝てるぞ。
「”
「…………」
「え? なになに? ミーツェまた二つ名ついたの?」
アレクシアが喜々として聞いてきた、その顔は心底僕をバカにしている。
何してくれてんだ、ロリ鬼っ子……絶対バレたくない人にバレたでしょうが……
「…………”
(バカ者!! 護国府の者に聞かれたらどうするつもりじゃ!!)
焦ったユウちゃんさんが僕の肩を掴んで小声で詰め寄る。
そう、
そして、
因みに翁禿を撃退したユウちゃんさんの旦那さんのお陰でオルコ家の株は上がった、何というマッチポンプだ。
「はぁ……こうなったら残った
「えぇ、いっぱいカニ倒してね! できれば綺麗に倒して!!」
はは、ティスさんご冗談を、蜂の巣に決まってるじゃないですか……
「デハ白尾、イッキマース……」
大変締まらない出発ではあったが、数週間前のように汚染地域に向けて荷車を進ませた。
初めは視察程度の話だったのが、御前試合に魔物討伐、最後は国の存亡に関わったかもしれない動乱に巻き込まれたりと振り返れば随分と波乱だった。
そしてアルコヴァンではスラムの雇用や孤児院を、島ではシエル村の人々に
それは責任増えたとも言えるけれど、広義で家族が増えたとも言えるのかもしれない。
前世で何者にも成れなかった僕だけど、この世界での繋がりを大切に守っていこうと改めて思った。
僕は少しはまともになれたかな、almA。
僕は浮かぶ多面体との初めて出会ったときを思い出いしていた。
◆◇◆◇あとがき◆◇◆◇
[chap.6 たった1日の動乱]をお読み頂きありがとうございます!
この後はあるキャラクターの別視点の話と幕間を挟み、次章に移ります。
引き続きお付合い頂ければ幸いです。
=========
【KAC20243】企画の短編『箱』で、オルコ家に贈られた箱についてのショートを公開しています。良かったら覗いてみてください。
https://kakuyomu.jp/works/16818093073339840129/episodes/16818093073340221639
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