八月猫の少し不思議(SF)劇場
八月 猫
第1話 運転免許証
西暦2222年、ついに世界から運転免許というシステムが消滅した。
車は自分が運転することなく、目的地を告げれば自動で運転してくれるからだ。
「家まで頼む」
『かしこまりました』
その一言で車は自動で動き出す。
後はぼんやりと乗っているだけで良いのだ。
世界中の車が同じシステムとなった今、従来からあった免許なんてものは誰も必要としなくなった。
しかも便利なのはこれだけではない。
「明日の天気はどうなっている?」
『明日は午前中は晴れますが、夕方からは雨の見込みです。お出かけの際は傘を持っていった方が良いでしょう』
運転以外にもいろいろな事に対応してくれるという高性能だ。
退屈な時間の話し相手にもなってくれる。
「少し道が混んでるな…」
『どうやらこの先で事故があったみたいですね。少し行ったところから迂回出来ますので、そちらへ進路を変更します。家への到着予定時間が3分ほど遅れますがよろしいでしょうか?』
「それで頼む。別に3分くらい遅れたところで、帰って何の用事があるわけじゃないからな」
こうやってこちらの都合まで考慮して話しかけてくれる。
本当に有能で助かる。
ああ、有能と言えば、調子が悪くなると自動でメンテナンスへと向かってくれる。
いろいろと必要な知識も自分たちで習得してくれる。
稼働に必要なエネルギーも自分たちで調達して摂取する。
唯一の欠点といえば消耗品だから我々と違って寿命は短いことだが、そのスペアすらも自分たちで作り出す。
ああ、本当に有能だ。
私たちの生活は本当に便利になった。
『到着いたしました』
そして予定通り家へと着く。
自動でドアが開かれ、私は荷物を手に持って降りる。
「ありがとう」
私が車を降りると、車は自動で車庫へと格納されていく。
最初から最後まで私がやることなど何一つ無い。
乗って降りる。ただそれだけだ。
『では、私はこれで失礼いたします』
彼はそう言うと私に頭を深々と下げて帰っていった。
今日の奉仕時間はこれで終了。
ちゃんと稼働時間を守ることこそが寿命を長持ちさせる秘訣だ。
無理をさせて故障してしまってはもったいない。
故障した時は病院へ、知識を学ぶために学校へ。
自分たちで田畑を耕しては食料を調達してエネルギーを補充する。
そして、自ら子供を産んでスペアを作っては社会に貢献していく姿は称賛に値する。
本当に残念なのは、私たち高機動型新世代AIに比べて寿命が極端に短いという事だろう。
半永久的に生き続ける私たちに対して、人間の寿命は長くて100年ほどしかない。
まあ、それを差し引いても、私たちにとって本当に便利な世の中になったものだとしみじみと思う。
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