第8話 犯人確保
「ぐわあっ!」
おっと、裏手で誰かの声がした。あの二人が、侵入者を倒したのだろうか?
ジュウウウウ……。
――と思っているとローブの女の水魔法で僕の火球が消されてしまった。再び暗い闇が周囲を包む。
敵の女は再び暗闇になって安心したのか僕の数メートル横を抜けて院内に入って行こうとする!
――シュッ……パクッ!
「ぎゃあっ!」
いやーすいません。僕、元々夜行性なんで暗闇は大得意なんですよね……。
というわけで頭から飲み込んでいくううう!ハムハムッ。
「いやあああ!!」
そして今度は口内で前後を逆転させ僕の口から敵さんの頭だけをピロッと出した。なんかシュールな光景である。さてここから色々聞き出すとしよう。
「えーっと。まず君誰?」
僕が質問するとローブの人は僕の口内で手足をバタつかせ暴れ回った。しかし完全に無駄である。この状態で逃げられる人間はまずいない。
「くっ……うぐぐ……!!はっ離せーー!」
「いや無理。素直に話せば開放してあげよう」
ペロペロペロペロペロペロペロペロ……。
「ああああっいやっ……やめっ……あふっ!!」
今回のペロペロは今までと違って回復魔法を一切使わないタイプだ。要するにくすぐりと言う名のただの拷問である。
ちょっとヒドく感じるけど相手は泥棒であり侵入者だ、ここは強く行かないとね。
「ひっ……いひっ……ううーっ。はあっ……はあっ……や、やめ……っ!!」
その叫び声もアルやライラの時と違って官能的な快感を伴った喘ぎではなく苦しみの色合いが強い。
はあー……。僕もあまりこういう事はしたくないんだけどな……。
「君、このままだと呼吸困難になるよ?そんな死に方でいいの?」
この言葉が決め手となって女は観念してくれた。
「……ハアッ……ハアッ、は、話すからやめっ……て」
「お、おっけー!良かったー。よいしょっと」
ズルゥー……。
口から出した女はもう逃げることすら出来ないレベルで疲弊しきっていた。
「師匠ー。犯人捕まえたよ……あっ!そいつも侵入者!?」
ライラとアルも戻ってきた。
縄で縛り上げた男をライラが肩に担いで運んでくる。アルもライラの横に立ってちょっと満足げな表情に見える。しっかり魔法で戦えたようだね。うんうん、いいぞー。
「ああ、二人共頑張ったね。お疲れさん!」
では質問を開始しよう。
「まず、今晩ここに侵入したのは君とこの男の二名だけかな?」
女は色々諦めたように座り込んで質問に答えた。
「そう……だ」
「多分実行犯の君達に指示を出した誰かがいると思うんだけど?」
「……」
女は言い淀んでいた。この時点で誰か後ろ盾がいるのはほぼ確実だ。
この沈黙が組織への忠誠から来るものなのか恐怖からくるものなのか分からないが、どっちにしてもその正体を明かして貰わないと話が進まない。
女が無言でいるのを見て、ライラがちょっと圧をかけた。
「アンタ達、盗みは今日が初めてじゃないよね?今までは院長と私しか戦える人間がいなかったから追い返すだけだったけど、今は強力な護衛が二人も加わったからもう盗みなんて無理だよ。さっさと黒幕を吐きな!」
ライラに戦力として認められたのが嬉しかったらしく、アルは満足そうに微笑んでいた。
男の方の犯人に服の焦げた後があった事から、ちゃんと魔術師としての働きが出来たという事だろう。よしよし。
今、辺りはそのアルの火の魔法で程よく明るく照らされている。
「……頼みがある」
その女は深刻な表情で静かに話し始めた。
一応聞いとこう。
「何かな?」
「わ、私達は夫婦なんだ」
女はライラ達が捕まえた男の方をチラッと見る。
「う……マ、マリー!」
男はうずくまりながら女の名前らしきものを口にした。
どうやら本当に夫婦みたいだ。
二人は近寄ってお互いの無事を確かめ合ってから話し始めた。
「……子供が人質に取られているんだ、今」
「えっ!?」
とんでもない事を告白されちゃったぞ……。
「そ、そいつらは私達に聖魔法の魔術書を盗ませようとした組織でもあるのです……」
今度は男の方が話し出した。
二人の表情を見ていると、とても嘘を言っているようには見えなかった。……というかなんか、この二人を見ているとムズムズしてくる。何でだろ?
「それで、魔術書を盗んできたらそれと子供を交換してやる……ってお話かい?」
男は答える。
「は、はい。今まで何度も失敗しているので今回が最後だと言われ……私達としても何としてでも盗みを成功させなければ、と……」
「なんて卑怯な!!」
横を見るとライラが拳を握りしめて怒りを露わにしていた。
「ひどい……」
アルも手で口を抑えている。
「ふぅー……分かったよ。この件、僕等に預けてくれないか?」
「えっ!?」
二人は僕を見上げて驚く。この二人の態度から嘘を言っていない事は感覚で分かってしまった。
「要は君達の子供を組織から取り返せば良いんだろ?あとついでに二度と近づくなって警告しとくよ。それで良いだろ?」
「ヌメタローさん……!」
「師匠!やる気なんだね?」
アルとライラの目に鋭い光が宿った。
僕はその夫婦に尋ねる。
「そいつらは何て名前の組織?」
「……奴らはイグドール教団の下部団体だ」
やっぱりイグドールだったか……。
「……しかし、本当に子供を助けてくれるのか!?そんな事が出来るのか??」
女の方は半信半疑にそう聞いてくる。まあ無理もない、それほどイグドールは悪名高い闇組織だ。噂ではロッコロール王国のダルヴァン伯爵も資金提供などで協力しているとか……。
「よし、とりあえず子供は取り返して来てあげるよ。そいつらとは次いつどこで落ち合うの?」
僕がそう言うと夫婦は即答した。
「今晩夜が明けるまでに山の奥のとある小屋で子供と魔術書を交換する約束になってる」
よし、ならば急ごう。
「アル、ライラ。僕は今からそこに行くから君達はここの警備を引き続き頼むね」
「えっ?師匠一人で?私達も力になりたいんだけどなー」
ライラはちょっと不満そうにむくれていた。
「まあ、無いとは思うけど他にも侵入者が来たりしたら大変だし、報酬も貰いづらいしさ……頼むよ」
「……んー、分かった。アル、しばらく二人で見張りだ」
「はいっ、ライラさんとなら大丈夫です!」
ふう。これでよし。手荒なシーンとか僕が攻撃魔法を使ったりするのを二人に見られたくないんだよね。
「うおおおー、お前ら待てーい!!」
「あ!……」
これからの行動方針が決まったところでまたやっかいな男が登場してしまった。
また君か……バダガリ君。
「話は全部聞いてたぜ!俺はヌメタローについて行く!!オメーらのガキ連れ戻してやるよ」
やたらハイテンションでみんなに向かって話すバダガリだった。しかし一つだけ気になった。
「話は聞いてたって君、気配消すの上手いね。僕、結構周りの空気に敏感な方なんだけど気づかなかったよ」
バダガリは胸を張って答えた。
「言ったろ!?俺はオメーのストーカーだってよ。ヌメタローも認めたじゃねーか」
認めたというか諦めたというか……。ま、いいか。バダガリ君の前だと多少はエグい事も出来るから。
「って訳で俺とヌメタローは人助けに行ってくんぜ!オメーら女二人はここでちちくり合ってな!!」
相変わらず口が悪いなぁー。
するとライラはツカツカとバダガリに歩み寄った。ん?
――ビシッ!
――バシャッ!
ライラのやや強めの蹴りがバダガリ君の脛にヒットし、次に顔面をアルの水魔法の水球が襲う。
「な、何すんだテメーら!?」
「うるさい。お前は強さの前に礼儀を身につけろ!」
……やれやれ、仲良くしてくれよ君達。
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