第4話 ネイパリル修道院へ
「ふう、食料はこんなもんかな」
僕らは干し肉や野菜、パンなどを食材屋で買い込みネイパリル修道院へ歩き始めた。
「ヌメタローさん、本当に良いんですか?こんなに買ってくれて?」
アルが皮の袋に入った食料を眺めながら、ちょっと申し訳無さそうに僕を見上げる。今回は僕が全てお金を出してアルやライラの食料を購入した。二人共まだ若いしちゃんと飯を食ってもらわないとね!
「いいよいいよ。腹が減っては何とやらだ」
「ヌメ師匠。ありがとう!いやー私もお金なくてさー」
ライラの方も僕に感謝してくれた。
ふふ、こういうのが正しいお金の使い方かもしれないな。
ついでに言うと、僕はホーリーにいた時の報酬金をほとんど使っていなかったため意外と貯金があったのだ。
「でも師匠の食事はどうするの?師匠の体の大きさだとこれだけじゃ絶対足りないでしょ?」
ライラは僕の腹具合を心配してくれているようだが全く問題ない。
「心配いらないよ。僕は基本肉食だからその辺にいる生きたモンスターや動物のほうが好きなんだよね」
「ああーなるほどね」
ぐうー……。
そのときアルのお腹がなった。ちょっと気恥ずかしそうにお腹を抑えるアル。
「はい」
その音を聞いたライラはアルの口にパンを突っ込む。
慌ててリスのようにパンを口に入れていくアル。
「……むぐぐ」
ちょっと苦しそうな顔をするアルをライラは楽しそうに見つめている。
そんな二人を眺めていると、僕はなんともほっこりした気分になってくるのだった。
仲良さそうだなあこの二人。プライドばかり高いサラとバルガスとは大違いだよ、まったく……。
――でも仲良しなだけではこの世界で生きていけない。魔物や盗賊を相手にしっかり戦える力がなければならない。さて、この二人の力量はいかがなものか……。
修道院へ向かう途中の山道でアルとライラの戦力を測る機会がおとずれた。
それは3匹のゴブリンだ。
僕らが山道を歩いていく先で待ち構えるように奴らは現れた。
奴らは山道を通る旅人や商人を殺して金品や食料を奪って生きている、いわば山賊だ。戦闘にも慣れているから本当の初級者しかいないパーティーだと苦戦を強いられる事もある。
ゴブリンを見たライラがまず先頭に立って構える。その姿は堂々としていて恐怖はあまり感じていなさそうだった。
一方アルの方はというと、ちょっと肩をすくめて怖がっているようだ。
だが、しっかり魔術士として役割を果たすべく魔法の詠唱を始めた。アルの身体の周りを薄っすらと赤いオーラが包んでいる。火の魔法だな。
僕の方はというと最後尾で戦闘には参加しないスタイルをとっている。
これはホーリーの時からそうで、色々理由があって僕は自分が積極的に戦うべきではないと思っている。
第一僕はヒーラーなんだから誰かが負傷したら治療するってのが普通だよね?ペロペロ。僕はハニカムように舌なめずりをした。
「ギェギェギェー!!」
僕が後ろへ引っ込むと数で優位に立ったと見たゴブリン達が集団でライラに向かってきた!
ゴブリンというのは基本的に人間の女と交尾したがる性質があり、パーティーに女と男がいた場合奴らは迷わず女の方から襲いに行く。
肉体的に弱い方から攻めるというのは一応合理的ではあるかな。
ゴブリン達は武器を持っていない。恐らく修道女の一人ぐらいなら三人でかかれば押さえ込んで巣に持ち帰れるとタカを踏んでいたようだ。
でもその子は普通の修道女じゃないぞ?
「はっ!」
バキッ。
ライラは最初に狙いを定めたゴブリンに強烈な前蹴りをくらわせた!
「ギャギャ!?」
宙を舞い吹っ飛んでいくゴブリンを見て仲間は驚きの声を上げた。そして今度は武器を持ってライラを襲いに行こうとする――しかし。
ゴッ!
ライラは残る二匹のゴブリンのうち一匹に至近距離から石のようなものを投げ、見事に命中させた。
「ギィーーッ!」
最後の一匹になって狼狽えるゴブリンにトドメを刺すべくライラは拳を構える、とそこへ――。
「火球(ファイアボール)」
アルが火の魔法を打ってきた!
――しかし悲しい事にその火球はゴブリンでなくライラを直撃してしまう!
「うわあああああああ!!」
修道服に火は燃え広がりライラは地面を転がる!あかん!
「きゃーー!ライラさん!?ご、ごめんなさいいい!」
バシャッ――今度は水球がライラに降ってきた!これはアルが慌てて出した水魔法だ。
火はすぐに消えたがライラはうずくまっていて動けないでいる。そこにアルが駆け寄ってくる。あれ?今確か戦闘中だよね?
そう、ゴブリンがいるのを忘れちゃダメだ。
「ギャギャーッ!!」
ライラが動けないのを見てアルに襲いかかるゴブリン!
「あ、それ以上はだめだよゴブリン君」
ギロッ――。
僕はアルの近くによってゴブリンを軽く睨んだ。するとゴブリンは蛇に睨まれたカエルのように動けなくなった。まあ実際、蛇に睨まれているワケだが……。
「そういえば僕もちょっとお腹すいたな、ゴブリン君頂きます!」
パクー。
……というわけで動けないゴブリンを頭から丸呑みにして、すばやく食道へ突っ込み3秒で消化が完了した。僕の消化液は超強力なのだ!
あと、間違ってもいつものクセでペロペロ&回復魔法は使っちゃいけない。
「ライラさん!!ごめんなさいっごめんなさいっ!!」
火傷を負って膝をついたまま苦悶の表情を浮かべるのライラの背中を手で擦り必死で謝るアル。
「ふー、こういうときこそ僕の出番だ。失礼するよライラ」
僕は首から上を膨らませ、一飲みでライラを「のみこむ」。そして回復の儀を行う。
ペロペロペロペロペロ。
僕は火傷を負った部位を重点的に長い舌で魔術粘液を満遍なく塗りつけた。
「ふああっ……や、あんっ!んんっ!!ああー……」
そしてライラを吐き出すと、彼女はほてった赤い顔でうっとりして僕にもたれかかって来た。
「ハァ……ハァ……。し、師匠。すごく……いい……。やはりあなたの回復魔法は最高だ……」
ふふ、そうだろうそうだろう。
ライラの火傷を負った背中や腕は火傷をの跡はおろか以前よりきめ細やかで潤いのある肌になっている。しっかり回復魔法が効いている証拠だ。よかった!
「ライラさん!」
駆け寄ってくるアルティーナにライラは手を伸ばす。
グニッ。
ライラはアルの頬を右手で挟んでこう言った。
「アル。全くお前というヤツは……次やったらお仕置きだぞ」
そう言いつつもライラは終始笑顔だった。
「お、おしおき~??……えへっえへっ。ライラさんなら歓迎します~えへっえへへっ……」
ほっぺたを挟まれながらもなぜかニヤケ顔で満足そうにしているアル。……いや、お前そこは反省するところと違うか?
何にしても今のところノーマルな人間はこのパーティには居ないな。いや、そもそもまだパーティを組んだわけでもないか……。
「じゃあライラ、引き続き修道院へ案内を頼むね。っていうか君武道家としてはかなり強いよね?魔法はどうなの?」
興味があったので聞いてみた。
「あ、師匠。私魔法の方は全然駄目なんだー。どうもそっちの才能ないみたい」
「なるほど、でも今みたいな戦い方でそこそこやれるんならライラは格闘を極めたら良いと思うよ」
それを聞いてライラは少年のように「ははっ、やっぱり?」と笑う。まあ向き不向きはあるからね。
――そして再びネイパリル修道院へ歩みを進めて山を超え、開けた土地へ出てきた。そして明らかにそれと分かる建物が見えてきた。これかー。
「お疲れー師匠、アル。どう?結構大きいでしょ?」
「へえー。ここが聖魔法の総本山かー、さすがに格調高いね」
「すごい……」
僕らは各々感想を口にした。
……しかしここでいきなり僕を激怒させる出来事が起こるのだった。
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