【書籍化企画進行中】三馬鹿が行く!~享楽的異世界転生記~【カクヨムコン9特別賞受賞作品】

86式中年

第一部

誕生編

序章 三馬鹿は既に逝っている

 はた、と気づいた時には死んでいた。


 そう三人が確信したのは、何もない白い空間に放り出されるという異常を目の当たりにしたこと。そして、まるで天使の階段のような光の帯を伝って悠然と降りてくる、形容しきれない程の美しい女性が現れたからだ。長い金髪に碧眼。蠱惑的な顔の造形、肉感的な肢体を前に三人は知れず息を呑んで確信する。


 そして一言。


『これはアレか。君のような女神に、ずっとそばにいてほしいと言うべきか』


 奇しくも同じタイミング、同じセリフを口にしてハモった所で彼等は初めて自身の左右を見た。火の玉がそこにはあった。より正確に言い表すならば、人魂と言うべきか。篝火のように揺ら揺らと怪しく輝くバスケットボールサイズの鬼火。


『ん………?』


 と同時に、嫌な予感を感じて視線を自身のあると思われる身体へ向けて―――それが左右と同じくウィル・オー・ウィスプ的なものだったものだから愕然とした。


『な、なんじゃこりゃぁあぁあああっ!!』

「魂です」


 当惑するにしては先程からネタ方向に突っ走る3つの魂に、女神然とした女性がため息混じりに突っ込んだ。


「揃いも揃って同じ反応とか、実は三つ子ですか?貴方達は」


 呆れた様子の女神っぽい女性に対し、魂ズはふぅむ、と一拍置いた後。


「山!」

「川!」

「それだと私、合言葉言えないのでは?」

『そりゃそうだ!』


 ゲラゲラ笑う魂ズ。


 こりゃ本当に三つ子じゃないかしらん、と女神もどきの女性は吐息して。


「私は中級限定神のリフィールと言います。突然ですが、貴方達は死にました」


 毎度のことだけどこれを告げるのは繊細な心遣いがいる―――と女神らしく覚悟を決めたリフィールがきっぱりと言い渡すが。


「え?マジ?俺ってば死んだん?」

「ねぇ、聞いた?神様だってー」

「でも中級限定と言いましたね。―――AT限定的な?」

『だっせぇ』

「誰がダサいですか!最近じゃ新車でMTなんか殆ど出ないですし、仕事でだって使いませんよ!!使うのは職業ドライバーか現場仕事の人達ぐらいでしょう!?」


 思わず突っ込むリフィールに三馬鹿はえー、と非難がましい声を上げて。


「人殺せる鉄の塊を簡単に動かせるようにして、それを下手くそが無思慮に扱える方が異常なのでは?」

「簡単になったって別に運転に集中するわけじゃなくて、空いたリソースをスマホとか他事に使うだけだしね」

「アクセルとブレーキ間違えたらクラッチ踏むだけでいいのに、そこ省略して楽しようとするから年寄りも若いヤツもコンビニミサイルするんだろ。つーか何がアクセルとブレーキを間違えただ。間違えねぇよんなもん。右と左の違いすら分からんのか。安全装備に頼らないと動かせないくらいトロ臭いなら最初から乗らないでほしいわ、怖ぇし危ねぇから」

「この三人、面倒くさい………!」


 これだからMT厨は!と地団駄を踏むリフィールに、三馬鹿はしょーがねーなーと思いつつ。


「で?俺等死んじまったん?何で?」

「ボク知ってるよ!これアレだ!女神の手違いで転生の前フリ!」

「つまりアレですか、所謂チートでハーレム作れると………!」


 色めき立つ三匹に、リフィールはこほんと咳払いを一つ。


「あ、寿命ですー」

『ウッソだろお前!!』


 ガッデム!と天を仰ぐ魂ズに、共通点は年齢ぐらいなのに何でこんなに息合ってるんだろうこの三人、とリフィールはジト目を送った後で説明に入る。


「通常、生物が死んだら魂の漂白後に輪廻に放り込んで次の生へと行きます。本来なら貴方達もそこへ入るはずだったんですが………」

「ボク知ってるよ!これはアレだ!神の依頼的な奴だ!」

「つまりアレか、所謂チートでハーレムを作れると………!」

「あぁ、駄目ですよ。さっきと似たようなセリフを吐くと………」


 約一名察してしまったが、リフィールは一つ頷いて。


「三人を選んだ理由は特にありません」

『テンドンすんなや!!』


 勝手に期待したのはそっちでしょうが、とリフィールは辟易して。


「依頼的なものではないんです。というか、今までだったら特に説明もせずに放り込むだけでしたし」

「え?俺の意思は?」

「無視です」

「チート能力は?」

「無しです」

「異世界転生しないの?」

「しますよ」


 簡潔に答える女神に、魂ズはたっぷり考えた後。


『人権侵害じゃないか!!』

「ここは天界で人間の法律の適応外なので」

『誘拐反対!!』

「誘ってませんよ。どっちかって言うと拉致です。条件に合いそうなの適当に見繕ったら貴方達が出てきたので。ガチャですガチャ。今のところRですらないコモンですけど」


 もっとひでぇ!と騒ぎ立てる三馬鹿に取り敢えず話が進まないので黙っててもらえます?と女神的な圧力が増したので三人は口をつぐんだ。


「世界の剪定がここの住人―――人が分かりやすい概念で神の役割なのです。その業務は多岐にわたりまして、その一つに保守メンテナンスがあるんですよ。まだ寿命には遠く、しかし何の因果か停滞してしまった世界に新しい風を吹き込んだりするんですね」


 中級限定神というのは魂ズの日本語翻訳での概念であり、意訳らしい。彼女の言葉や認識ではまた異なるそうだ。


「今回の場合、定期メンテナンス作業でして、異物を世界に放り込んで撹拌させるのがその内容になります。言うなら、貴方達はその撹拌機みたいなものです。今までなら、わざわざこんな事を告げる必要もなく適当に放り込むだけで済んでいたんですけれど………」


 何でも昨今では天界でも人権意識や法令遵守が厳しいらしく、特に別世界からの魂の使用はかなり慎重な運用を求められるとのことだった。それは魔王や邪神を倒せ系の依頼や技術革新で世界の進歩的な依頼は当然、ただ違う世界に放り投げるだけの撹拌作業にさえ伴うとのことで、この邂逅はその一環だそうだ。


「ぶっちゃけこの作業説明に関しては有名無実だったんですが、最近やがて同僚になるであろう周回勇者が最高管理神様から監督官に任命されてコレがまた厳しくてですね………」


 げんなりするリフィールに、三馬鹿はちょっと同情した。


「神の世界でもコンプラか………」

「世知辛いな………」

「っていうか周回勇者って」

「文字通り何回も世界を救った勇者です。有能は有能なんですけれど、ちょっと偏屈な人で―――」


 そこまで言ってからリフィールはばっと背後を振り返ったり気配を探る仕草をしてから青い顔で。


「―――あの人鳴神さんの話はやめましょう。噂をすれば影って奴です。折角最近初級限定から昇神したのに難癖つけられて降格してたまるものですか」


 どれだけ怖がってるんだ、と三馬鹿は突っ込もうと思ったが女神圧が高まったので黙った。


「で、貴方達を異世界に放り込みますよ。後はご自由に生きてくださいねってお話だけなんです」

「質問!それを話すってことは記憶を持ったまま行けるんですか?」

「はい。言うならば、記憶が撹拌機の撹拌体ですね。転生前の記憶がないと意味がないんです」

「質問!スキルとか特殊能力はくれないんですか?後、見た目とかキャラクリエイト的なものは?」

「ゲームじゃないですから無いです。いや、スキル的なのはあるはあるんですがそういうのは何かしてくれ系転生の時ですね。ただ、今回送る世界は魔力中心の世界ですので、記憶―――というかは自我を最初から持っている状態ならチートですよ。あの世界の魔力は子供の頃から鍛えれば鍛えるほど強くなるので。後はアイディア次第ですね」

「質問!じゃぁ、せめて生まれとかそういうのは!?」

「それはある程度調整できますよ。生きてもらわないと手間なので、よっぽどの要望がなければ大体裕福な家庭に転生させます。後、せめて男女ぐらいは選ばせてあげます」

「質問!拒否したら?」

「先程も言いましたが拒否権はないです。それでもギャーギャー騒いで面倒になったら、漂白した後で輪廻にポイします。ガチャを引き直すのも面倒ですが、そちらの方が手間がないので」


 その辺の傲慢さは神だなー、と三馬鹿は思った後で「作戦タイム!」と叫んでヒソヒソと何事か相談を始めた。と言っても、リフィールには丸聞こえだが。だがまぁ、そのぐらいの小狡さは見逃そうと判断した。アレも駄目コレも駄目ではまたぞろギャースカとうるさかろうと考えたのだ。


 しばし待って、三馬鹿は女神に要望を伝える。それを一つ一つ聞いて、コンプラに抵触しなかったのでリフィールは叶えることにした。


「では、貴方方の次の人生に幸が多からんことを願ってますよ」


 かくて、魂ズは新たな世界へと転生していった。

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