第一話『夜明け』

 世間が朝を迎えるにはまだ少し早い頃、かなめは新聞配達を終えていつものように公園のベンチに座りながら缶コーヒーをすすっていた。

 朝日が出るところを待ちながらブラックコーヒーを飲むことが、彼にとっては何となく恰好いいと思い、中学生のころから始めた新聞配達後のルーティーンの一つになっている。

 初めに飲んだ時は、あまりの苦さに少し口をつけただけで残していたものの、最近は何とか残すことなく飲めるようになっていた。

 ただ、美味しいとは思わない。

 高校一年になりたての要にとって、ブラックコーヒーはまだまだ『苦くて黒い液体』という認識だ。

「はぁ……苦い……今日は特に冷えるし、ホットレモネードとかにした方が良かったかな……?」

 入学式も終わり、新生活もスタートして間もない時期――春分はとうに過ぎている時期であるにもかかわらず、今日は一段と冷える。

 朝から働く人間に対して、もう少し優しい環境になってほしいと思いつつ、缶に口をつけてみたものの、缶は冷えて中身は底をついていた。

 『もうそんなに時間が経ったのか』と驚きつつも、『やっと飲み終わった』という解放感から、要はいつもやっているように空き缶をゴミ箱へ投げようと振りかぶる。


 入れば一日うまくいき、外せば一日気を付ける――


 かなりアバウトな内容ではあるが、要なりの今日の運試しといったところだ。勝率は体感で3割位しかないが、今日は何となく調子がいい。

 きっと入ると思って投げようとしたそれが落ちた先は、

「な、なんだあれ!?」

 自分の足元だった。

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