第53話 窮屈そうに

 ――――ヨウヘイとペコがスーパーで格闘している一方。マユはフロアマップの表記を頼りにあちこち見て廻っていた。




「2階の突き当たりに書店…………ね……。」





 取り敢えず、書店が目に留まったので入ってみた。





「……いらっしゃいませ…………。」





 『智泉堂書店』と店の壁の上の方に看板が掛かっている。日ノ本で全国展開している大型チェーン書店のひとつだ。





 入店して数メートルの距離にいた店員が挨拶をしてきたが、低いトーンの声で何となく暗い印象を受けた。





「いらっしゃいませー。」


「いらっしゃいませー!」






 やはり大型書店とあって店員は結構な人数いる。最初に挨拶した人の声より他の店員の方が幾ばくか明るいトーンで声を出してきた。






「……そうねえ…………新刊・話題書のコーナーはどちら?」






 ――何を推し、何をお薦めしてくるかでその書店のレベルが解るというもの。マユは取り敢えずその手のジャンルのコーナーを訊いた。





「あっ……こちらです…………。」





 最初に低いトーンで挨拶をくれた店員が手引きした。






 この店員……声のトーンの低さもあるが、背はスタイルの良いマユよりさらに高い。髪も短めで一見男性に見えるが――――






(――女性……でありんすね。わっちも他人の事言えんけど、何と言うか陰気な姉さんねえ。)






 どことなく男性らしさのようなものを感じる背の高い女性店員。新刊・話題書らしいところに案内する。






「ええっと……こちらで――――あれ?」






 女性が案内した先は、服飾雑貨やファッション関係のコーナーだった。何やら勝手が違うのか、俄かに慌てた素振りを見せる。






「――――イワヒサさん。今朝確認したばっかりでしょ……新刊・話題書コーナー、レジ横の棚に移したって。ったく…………いい加減仕事覚えてくれよな……。」






「――あっ……す、すみません…………失礼しました。こちらになります…………。」






 ――先輩店員と見られる男性にしかられ、女性はただでさえどんよりとした顔つきにますます陰を落としつつ、改めて新刊・話題書コーナーへマユを案内する。






「――ここです。大変失礼しました…………。」





「……どうも。」






 マユは本棚を見上げて、飾られているPOPや目立つインテリアで配置されている書籍を眺めてみた。






(――――人気のビジネス書中心か。後は自己啓発系に、話題の漫画や小説など……か――――ハッキリ言って、単なる人気のある作品を十把一絡げに寄せ集めて置いただけって感じ。この書店独自の推したい作品などの主体性などはあまり感じない。それでも店舗自体が大きくて大体の本は揃うけど、まあ……書店としては二流止まり。もっと書店員の我を出してみれば面白いのに。ビジネス書の類いも所詮は流行で移ろいやすいものだし…………。)






「――――あ……あの…………!!」





「――えっ? 何?」






 ふと先程の女性の声が聴こえ、振り返ると、手に何か持っている。






「…………こ……この財布…………貴女の、ですよね。落としてましたよ…………財布の口が開いてたから……クレジットカードとかも何枚か。」






「――えっ!? …………あっ。本当だぇ。さっき買い物した時に……うっかりしてた。ありがとうござりんす。」






「…………いえ。」






 ――マユはうっかり財布と金品を落としてしまっていた。受け取り、確認すると幸いなことにこの書店でたった今落としたものだけで済んだようだ。






「――わっちの故郷はアメリカにあるけれど、日ノ本でもお金を拾って返してくれるのは本当に稀でありんす。大損するとこでありんした。ご親切にありがとう。」






「う。い、いえ…………当たり前のこと、なので…………。」





 ――この女性店員はそもそも人と話すのが苦手なのだろうか。感謝されて照れるというよりは、人が恐くてつい顔を背けてしまっている。






「――それ…………。」




「――えっ?」





「髪のインナーカラー。紫がかった赤みで、綺麗でありんす。ピアスも外しているみたいだけれど、本当はかなり付ける? ピアスホールが耳にバチバチ。」





「――!! っ……目立ってましたか…………!?」





 ――マユは一見根暗な女性店員を見て、実は普段の生活ではなかなかにパンキッシュな格好をしているであろうことに気付いた。書店員としては珍しいと思ったので、素直に褒める。






「いんや。『解る人には解る』程度の良いファッションで。本当はROCKバンドでもやって――――」





「――大変失礼致しました――――!!」





「――あっ!? ちょっと…………触れられたくないことだったのかぇ…………?」





 ――本来は派手な装いをしていると見える、ボーイッシュな女性店員。だが恥ずかしくなったのか、早足で遠くへ逃げてしまった。





「――やっぱり……書店なんかじゃあなくて…………音楽関係の店にすれば良かった――――。」






 ――――誰にも聴こえないように、そう呟いていた――――

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