第18話 調査開始
――――マユに促され、スーパーコンピューターの後ろ側に立つと、何やら下の階へくだるリフトのようなものが見えた。
「――――このリフトを下りた先に、『悪』が巣食う根城への大型の転送装置がありんす。戦うのにお金が必要と解った以上、出し惜しみはしんせん。」
そう告げると、マユは懐から札束を取り出した。ヨウヘイに手渡す。
「――うお……すっげ! 何万円あるんだ、これ!?」
「何を今更驚いてんでありんすか。こなたのお金は飽くまで敵地での充分な変身用、そいで不測の事態に備えて変身時間の延長やパワーアップの為の道具に過ぎんせん。当然、余ることがあったら返してもらいんすよ。」
――銀行から引き出してきたばかりのような、手が切れそうなほどに新品で硬い札束。ヨウヘイが実際にこれまでの人生で目にしたことなど、TV番組や映画ぐらいでしかない金額だ。
「――りょ、了解だぜ。今から行ってやらあ!!」
大金を手渡されたことで一瞬狼狽えたが、すぐに、これは闘う為の道具に過ぎぬ、と思い直して、リフトに乗った。
「――転送装置を通って敵地へ行った者とは、常に連絡が取れるようにしていんす。こちらでもモニターしんすが、何かあったらすぐに報告して欲しいでありんすぇ。ヤバくなりんしたらすぐにこちから戻ってくるよう転送し直すか、『リターン』とここへ戻ってくることを念じて叫べば戻れんす。ではご武運を。」
――民間企業の研究所とは思えないほどに、現代離れしたテクノロジーを使役している。このオペレーションルームの風景同様、さながらSF映画のようだ。マユをはじめ、『悪』に多くを奪われた被害者たる
ヨウヘイが乗っているリフトが下に下りた。10mほどくだったあたりで、リフトは止まった。
目の前には、なるほど物質の転送装置のイメージ通り、中央が窪んだステージのようなものがあり、四方は転移する為の力場を発生させる為の物々しい装置が幾つも並んでいる。
既に非日常の世界へ没入しつつあるヨウヘイ。変身用の札束を握りしめ、転送装置の中央に立つ――――
オペレーターたちの声がスピーカーから聴こえてくる。
「――転送装置、オールグリーン。異常なし。」
「――転送先座標確認。誤差修正…………問題なし。」
「――出力系統、稼働準備よし。」
「――よし。では行ってもらいんす。覚悟はいいわぇ? まあ……最初の潜入だし、あまり深追いはしんせん。まずはぬしと敵地、双方のお手並み拝見。」
「――覚悟は決まったぜ。いつでも飛ばしてくれ!!」
――マユは、その場にいるオペレーターたちと、班長のサクライの目を交互に見て、お互いに頷く。そしてこの様子も……先ほどの班員たちの部屋のモニター画面にも中継されていた。皆、食い入るように見る――
「――では行きんす。リッチマン、出撃!!」
――マユが、敵地へ転送する最終スイッチを押した――――
たちまち、転送装置が稼働し、大きなエンジン音のようなものが地下にこだまし……力場が発生して、やがてヨウヘイの姿は消えた――――
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「――――っと……ここが…………『悪』の根城――――?」
気が付くと、ヨウヘイは何やら活火山の深部を思わせるような洞窟のような空間の中にいた。次元を隔てた地下深く、遠くの方はモニターにノイズが走るように判然としない。
「――うっ…………なんか、ここ…………凄く、身体が重てえ……呼吸も浅くなってきた。」
すぐにヨウヘイの頭の傍あたりから、マユの声が聴こえる。
「――そこは云わば異次元空間。空気や重力も地上とは違いんす。早く変身して!! 極寒の中裸でいるようなもんでありんす!」
「――りょ、了解――――頼むぜ、ジャスティス・ストレージ!!」
――動けなくなるほど気分が悪くなる前に、ヨウヘイはいつもの通りジャスティス・ストレージを掲げ、中に、取り敢えず10000円札10枚、10万円を課金した――――
「――ビビビビ…………敵対勢力反応多数。生きるのに過酷な超常異次元空間を確認。正義奮起率45%。速やかに変身します――――」
街中で怪人たち相手にやったように、たちまち光の鎖に包まれたまま強烈に発光し…………希望通りヨウヘイはリッチマンへと変身した。
この異次元空間は、なかなかに深そうだ。潜れば潜るほど『何か』が出て来そうな深淵である。
そして、早速目の前に侵入者を感知したのか、豚顔面のような怪人たちが襲い来る――――
「――――さあーて!! 敵の根城を叩く為……いっちょやるか!!」
リッチマンは構え、臨戦態勢に入った。いよいよ調査開始だ――――
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