アルコールはほどほどにしないと勘違いを呼ぶ。
もう一人に相応しいと思う人を、探す目的で、会社の同僚、幼馴染、合コンにも行ったりした。
しかし、そんな人はそんな簡単に見つからなかった。ドラクエみたいな言葉。
「無理だぁ~」
すると、玄関ベルが響き、隣の部屋の鼎かなえさんが、
「すいませ~ん、そっちに洗濯物落としちゃって、とってくれませんか? 」
と、呼んでいる。
ベランダに出て、見覚えのない洗濯物を拾い集める。
「これで全部ですか?」
「はい、ありがとうございます!」
ダメもとで、質問をする。
「よかったら、僕と一緒に、世界一周の船旅にでも行きませんか?」
自分なら言われたら、ぶっちゃけ、
「あーこの人大麻とかコカインとかし始めたなー」とか思ってしまうだろう。いや、間違いなくそう思う。
鼎さんは、少し考えたような仕草をして、
「隣人にしては、すごい高価なお付き合いですね~」
と、言った後、「本当ですか?」
と尋ねてきた。
彼女に全ての経緯を話した。
福引をしたら、たまたまペアチケが当たって、彼女もいなく、友達も忙しいらしいので、一人分のチケットが余っていること、一緒に行く人をあの手この手で探したが、結局見つからず終いで、そこに鼎さんがきた、と。
「という訳です。」
鼎さんは口を抑えて笑い、
「ガチャ引いたら、全員最高レアリティだった、よりもすごいじゃないですか!」
意外とゲーマーなんだな。この人。
「で、どうします? 行きます? やめておきます? 」
「これを逃したら、二度とそんな事出来ませんよ。もちろん、行きます! 」
明るい声が返ってくる。
「とりあえず、LINE交換しましょう。」
僕がそう言って、スマホを取り出すと、彼女もポケットから、可愛らしい桃色の髪のキャラが、ケースの中に入ったスマホを取り出す。きっと彼女の推しかなんかだろう。その視線に気付いたのか、
「あ、あ、こ、これは気にしないでください! 」
可愛い反応。
連絡先の交換をして、
「では、予定日は近くなったら。」
「了解です。」
十月十一日
隣人の袴さんから運よく貰った世界一周の船旅。それが後一ヶ月後に控えている。有給も予めとったし、洋服も新しく買った。こんな機会逃したら二度と行けないだろうな。本当、袴さんには感謝しないとな。
(あれ、一行目がデートみたいになってる気がする。)
迎えた当日、白いワンピースで現れた鼎さんを見つけて、目が合う。
「あ、どうも、素敵なお召し物ですね。」
「こちらこそ、誘っていただいて、ありがとうございます。」
ここまで、大変だった。人を見つけた後も、テレワークで働くことを条件に、有給を取ったり(それを有給というのかは別として)萎びた洋服を新調したり、そのほかにもここまで来るのに、電車を手配したりと、休む(働くけど)よりそのために働く過程が面倒だった。
「では、早速、クルーズに乗って楽しみましょう! 」
チケットの拝見の最中、いろんな人を見たが、明らかに自分とは育ちが違う。振る舞いが凛としている。
世界一周の船旅としても、部屋に階級があり、自分たちは1番下の階級だが、下から海が見えて綺麗だし、普通に旅館の一室くらいの広さはある。荷物を置いて、船内観光を始める。一階には、バーやダーツ、ビリヤード、おまけにカジノまである娯楽コーナーが、二階には、ガラス張りで海の見える食堂が、三、四階は、客室となっていて、屋上には、プールやサウナ、ヘリポートまである。
「鼎さん、僕ソファで寝るんで気にせず、ベッドで、」
この一言から察する通り、この部屋には、ダブルベッドが一つだけある。この部屋はペアとはいえ、友達や、恋人と、と言っていたが、完全にカップル意識しかないのか。
「いえ、袴さんが貰ったチケットなんですから、袴さんがベッドで寝てください。」
こんな争い生まれて初めてした気がする。そして結局、僕がベッドで寝ることになった。なんか悔しい。
この問題も解決して、荷物を部屋に置き、船内探索でもするか。昼から酒でも飲もう。
「気持ち良過ぎる~~」
ただでさえアルコールも価格も高い酒を飲むことがないのに、昼から飲むなんて刺激とアルコールで倒れてしまいそうだ。部屋から海でも見て過ごそう。窓からどこまでも続いていそうな、青い空と海を眺めていると、鼎さんが、手に持った缶ビールを僕の頬にくっつける。
「うわっ!! 冷た!! 」
幼い笑みを浮かべる鼎さん。無邪気で可愛い。酒が回って抜けきっていない体にさらにビールを注ぎ込む。頭の中がふわふわした感覚で満たされ、立つこともままならなくなってきた。そのまま、視点が傾いていく。床か天井が見えるか、と思ったが、包まれるような感触を覚え、そのまま意識が途切れてしまった。
「すいません!袴さんがこんなにお酒に弱いなんて知らなかったです!」
なんか勘違いをしている気がする。アルコールの強い酒を飲んだ後、さらにビールで追撃をかけて、倒れてしまったのを、ビール一缶で、よって倒れてしまったのと盛大な勘違いをしている。
「いえ、それより前に強めの酒を飲んでいたので、それが回ってきた感じですよ。介抱ありがとうございます。」
「大丈夫ですか、
その反応を見るに、この人はかなり酒に弱いみたいだ。酔ってないと考えられないようなことを言っている。酔わせたいと思う邪な自分がいる。
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