【閑話】襲撃されたけど、速攻で撃退した話 side サイラス
ルナへのプロポーズが成功して浮かれたサイラスはルナと一カ月後にこじんまりとした式をあげた。サイラスが浮き浮きと新婚生活を送っている時にソイツは現れた。
もうすぐ定時だっていうのに、受付で騒いでいる
「なんで、俺のランクはEランクから上がらないんだよ! 実力十分だし俺より弱っちい奴もどんどんランク上がってんじゃねーか。ギルドの査定ってどーなってんだよ。ちゃんと説明しろよ!!!」
「地方ギルドでも説明があったと思いますが、ランクの査定は資格を持ったギルド職員が、実績を考慮し、実技を見て、厳正に審査しております。今、あなたがEランクなのであれば、それが、あなたの正当なランクです」
「お前じゃ話にならないんだよ!責任者出せや!!!」
なんで、自分の実力を正当に把握できないバカって後から後から湧いてくるんだろうね。
愛するルナを養うために、ずっと渋っていた出世の道を歩み出したサイラスは今、ギルドの副長だ。渋々、騒ぎになっているカウンターへ近づく、その大柄な冒険者が掲げているライセンスカードを確認して、驚いた。
ダレンって、あのダレン?
ルナの辺境の村のクソな幼馴染の?
ルナを追ってノコノコ王都まで来ちゃったわけ?
「はーい。呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん! 責任者でぇす」
どの道、副長として対応しなければならないので、受付嬢との間に割って入る。
あー……そういえば、だいぶ前に辺境の村でルナの噂ばらまいたなぁ。
不安要素って相手の過失で徹底的に潰したい派なんだよな。噂に食いついて突撃させて、返り討ちにしてやろうと思ってたんだけど……
でもさー来るの、遅くない?
なるほど、Eランクで路銀稼ぎながらだとそのくらいかかるのか?
元々、体格がいいだけで、大した実力はなさそうだったけど、ここからでも酒の匂いがするし、体もだらしない。
「んー餌にこうも上手く食いつくとは……しかし、時間かかりすぎでは……? 思ったより、しょぼい実力だったのか……?」
「は? お前が責任者とかふざけてんのかよ!」
しばし、思考を巡らせていると、ダレンが胸倉をつかもうと詰め寄ってきたので、ついと避ける。
「王都の冒険者ギルド本部の副長ですよ。ほらこれが身分証。ハイ、じゃ責任持って審査するんで、闘技場に行きましょう」
パンッと両手を叩くと、そそくさと身分証を見せて、歩き出す。
ぶっちゃけ、ルナにコイツがしたことを思うと、成人の儀式の日のアレだけじゃ物足りなかったんだよな。
闘技場に着いて、正面に向かいあうと、ネクタイの先を胸ポケットに入れる。おもむろに色付き眼鏡を取りはずし、眼鏡を放って空間魔術で収納する。
こっちが準備をしていると、はじめの声かけをする前にダレンが向かってきた。卑怯な性格は変わっていないらしい。
が……めちゃくちゃ弱いんだけど、コイツ。
きっと、子どもでも動きを読めると思う。
大振りなパンチを避けると、勝手にグラウンドに転がった。
本人も驚いてるけど、こっちもびっくりだよ。
「なんか舐められてるみたいなんで、今日はノー魔術で行きましょう。身体強化すらしてないですよ。ほら、僕ってこう見えて体術も得意なんで」
サイラスは苛立ちが募って、転がるダレンの頭の上に足を乗せて、グリグリと靴でグラウンドに頭を押し付けていく。積年の恨みを全てこめてグリグリしてやると、ダレンの頭はどんどんグラウンドにめり込んでいく。
「あっ、今日は思う存分思い知らせるんだった。危ない危ない。ついルナを虐げていた恨みが出てきてしまって困るなぁ……。ハイハイ。いくらでも何度でもかかってきて下さい」
サイラスは我に返って、パッと足を放す。
ダレンは苛立ちのままに何度も何度も突っかかっていくが、相変わらず動きが単純で、サイラスがすいすい避けると、その度にグラウンドに倒れている。パンチも蹴りも掬い上げも、全部力に頼っていて、動きが大振りだ。
ダレンから、ハァハァと荒い息が漏れる。額からは玉のような汗が流れ出ていた。サイラスを知らない奴はたいがい、中性的で体術はまるきりダメそうなサイラスの外見から舐めてかかるし、サイラスに体術で敵わないと認めたがらない。
「んーそろそろ自分の実力わかっていただけました? ご自慢の筋肉も酒浸りのせいでだいぶ落ちてますし、贅肉はついてますし、そもそもちょこっと鍛錬したぐらいで、誰かに教えを乞うことも実戦も体験してないわけですから、強くなるわけがないんですよ。冒険者なめないでもらえます? 今日あなたに対応した受付係の方があなたよりランク上なんですよ。僕じゃなくて彼女と戦っても、あなた勝てませんからね」
体力が切れたのか、蹲ったまま動かないダレンに告げる。屈辱的なことを聞かされても、もう体を動かすことすらできないようだ。
「はー手ごたえのない……今のあんただったら、ルナにも勝てないですよ」
その一言に突き動かされたのか、正面からダレンが突進してきた。
ゴッとダレンの鳩尾に強烈な蹴りを入れた。サイラスからは攻撃されると思っていなかったのか、驚いた顔をして、口をハクハクさせている。
「これに懲りて、もう僕やルナの前に姿を現さないで下さい。前回の別れ際にも言いましたよねぇ。次、僕やルナの前に姿を現したら、玉踏みつぶして、お前のお前をちょんぎって、八つ裂きにしてやるって。次会ったら、実行しますからね」
鳩尾を蹴られた衝撃で、顔面から地面に崩れ落ちたダレンの頭をサイラスは再び靴で踏みにじる。
「ハイハイ、レフリーレフリー。お前私情入りまくりで、弱えぇ相手にやりすぎだから!」
受付嬢から話を聞いたのか、サイラスの上司であるギルド長のマークが飛んできて、サイラスを後ろから羽交い絞めにしてくる。
「だって、コイツホントならもうぶっ殺したいぐらいなんですけど! 一回じゃ足りないよ。来世と来々世と来々々世の分まで殺しておかなくちゃ! ルナが安心して輪廻の輪に乗れない……だって、来世と来々世と来々々世もその先もずっと、僕とラブラブハッピーライフ送るって決めてるんだから! そうだ、未来永劫生まれ変われないようにコイツを漆黒の炎で焼いちゃおうか? そうしたら、証拠も残らないし……」
サイラスは渋々ダレンを踏みつけていた足をどけると、まだ燻っているダレンへの憤りをマークにぶつける。
「怖い怖い怖い。瞳孔めっちゃ開いてるから閉じて! ホントお前ルナちゃんがらみになるとマジで怖いから。ね、犯罪、だめ、絶対。ギルド職員の掟」
マークに宥められたって、一度噴き出た怒りが収まらない。
「サイラスっ」
そこに飛び込んできた人物に、はっと我に返る。サイラスの天使みたいに可憐な妻であるルナだ。ダレンも突然現れたルナに見惚れている。その目を抉りだしてやりたくなる。
「サイラス、大丈夫。怪我してない? もう、また私に黙ってなんか画策してたでしょう?」
ルナはぷくっと頬をふくらまして、サイラスに詰め寄ってくる。
え? ルナそれ、怒ってるつもりなの? 可愛いだけだけど?
「えー蛆虫のくさったのを退治してただけだから、大したことないよ。靴がちょこっと汚れたぐらいでさ。それより、ルナに心配かけて申し訳ないような……心配してくれてうれしいような……」
「もーマークさんにもまた迷惑かけてぇ」
お互いに両手を繋いで、無事を確認するルナも怒りつつ甘えてじゃれているようで、可愛い。
「ルナ……」
存在を忘れていたダレンがルナに追いすがるような目線を向けている。
「……?」
ルナは名を呼ばれて、ダレンを見て、顔をしかめて、首をコテンと傾けた。困ったようにサイラスを見る。
確かに、ダレンの風貌はルナと別れた時からずいぶん変わっている。体つきもだらしなくなったし、酒と長旅の影響で、髪も艶がなくなり、無精ひげがぼうぼうに生えている。実際の年齢より老けて見えるだろう。村一番のモテ男だった面影は一つもない。
「あー彼はだいぶ風貌が変わったけど、辺境の村でルナを虐げていたゴミカスことダレンだよ」
ルナはサイラスの紹介に、「ふーん」とだけつぶやくとダレンには目もくれず「ねーそういえば夕ごはんなんにする? もうお仕事お終い?」と再びサイラスに向き合う。
「ハイハイハイ。サイラス君は今日はここまでで大丈夫でーす。うん、ぜひともルナちゃ「ルナちゃんって呼ぶな!」……奥様、夫を回収して速やかに帰ってくださーい」
ルナが登場して、ダレンに無関心なのを見て、怒りや憤りも綺麗さっぱり消えたので、事を収集に来たマークに後のことは任せることにした。マークなら上手く処理してくれるだろう。
サイラスとの実力の差も思い知っただろうし、ルナに存在自体を忘れられて、心折れた顔をしていた。
ざまぁないな。
これに懲りてもう襲撃して来ることもないだろう。
また一つ、ルナに関する憂いがなくなって、気持ちが少し軽くなったサイラスは、ルナと手を繋いで帰路についた。
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