第8話 定期検診(続き)
「そう言えば先日、先生に紹介してもらって受けた知能テストの結果についてですが、一つ気になったことがあるんです」
「どうされましたか?」
「たまたま十年前も似たようなものを受けたことがあってこの間見比べてみたんです。そしたら、以前に比べてかなりスコアが下がっているんですよ」
「そうですか」
「昔受けたものは、知的障害とまでは言われなかったんですけどね。今回のは本当にスコアが下がっていて、知的障害の認定も受けた方がいいと勧められました」
僕の指先が不随意運動によって勝手に動いて目茶苦茶な結果が出た、あの時のテストの話だな。それに、スコアが下がったのは視覚が使えてないことも原因の一つだ。
「キヨトは本当に知的障害もあるんでしょうか?」
「うーーん。それは、どうでしょう。どんな傾向の問題のスコアが落ちているのか分析すると良いかもしれませんね」
「キヨトくん、僕の言葉わかる? YESは眼球を縦に動かして、NOは眼球を横だ」
僕は縦に動かした。
「ほら、反応はすごく出来てるんです。ちゃんと言葉が分かると言ってますよね」
「この間のテストでは、眼球じゃなくて、指の動きで答えをもらってました」
「指の動きが悪くなったのかな」
僕はまた縦に目を動かしてYESと伝えた。目を動かすのは疲れるし、ちょっと目が痛くなっちゃう。
先生が僕の目をじっと見つめているような気がする。僕の動きは伝わったかな?
「キヨトくん、焦点が全然合ってないね。ちょっと視力も見てみようか」
えっ!!!
もしかして僕の目のこと気付いてくれたのかな?
ヤッタぁー!!!
視力の話になったぞ。僕の思いが通じたのかな。僕はまた縦に眼球を動かした。続けて眼球を動かしていると目が回ってきて気持ち悪くなるから、本当はあまりやりたくないんだけど、今はそれでもいい。
診察室の壁に、簡易的な視力検査の表が貼ってあるようで、その表を使って検査をしてくれそうだった。でも、僕にはその表の存在すら確認できないし何も見えないんだけど。
僕が見えないと答えるたびに、車椅子を動かしながら壁に近付けて質問された。でも、表自体がなにも見えない。これじゃあ、検査にならないよね。僕はずーっと答えのNOで目を動かしていたから、気持ち悪くなってきた。もう、無理だ。
でも、気持ち悪いってことも伝えられないから、実際に嘔吐でもしないと気付いてもらえないだろう。
今回は吐かなくて済んだけど。
「お母さん、今、眼科に連絡してきちんと検査してもらいましょうか。昔はもう少し焦点が合っていたように思います。キヨトくん、疲れちゃったかな?」
僕は疲れと気分の悪さで身体がキツくて、目を瞑っていた。目を開けてても瞑っていても目が回って気持ち悪い。
「今、眼科の空き状況確認取れましたよ。三十分後です。大丈夫ですか?」
三十分で復活できるといいけど………
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