第28話 一泊二日の小旅行 有馬温泉⑤
「じゃあ私は自分の部屋に荷物を置いてくるわね。その後お風呂に行くから」
真理乃の案内で客室に向かおうとする海愛たちに真穂乃が話しかける。
「あたしたちも荷物を置いたらすぐお風呂に向かうよ」
「わかったわ。後で合流しましょう」
そうして真穂乃はいったん海愛たちと別れて自室に向かった。
「さぁ、こちらですよ。お客様」
真穂乃の姿を見届けた真理乃がゆっくりと歩き出す。
海愛と彩香もそれについていった。
「素敵な旅館だね」
内装を見回しながら海愛がつぶやいた。
「うん。なんだか歴史を感じるよ……」
クラスメイトの実家という贔屓目を抜きにしても、ここは立派な旅館だ。
こんな旅館に宿泊するなんて分不相応なのではないかとさえ感じてしまう。それほどに見事な内装だったのだ。
海愛たちがそんなことを考えている間も真理乃は振り返ることなく廊下を進み、やがて突き当たりの部屋で立ち止まる。
「こちらがお二人のお部屋になります」
海愛たちの方に体を向け、部屋の扉を開ける真理乃。
どうやらここが本日二人の宿泊する客室のようだ。
「わ~広い部屋だね」
さっそく客室に入る海愛。
立派な客室だ。二人で利用するには広すぎるほどの純和風の部屋で、窓からの景色も良い。
海愛も彩香も一目でこの部屋を気に入るのだった。
「それでは何かありましたら遠慮なく声をかけて下さいね」
そう言うと、真理乃が扉を閉め、廊下を引き返してゆく。
その足音が聞こえなくなったところで彩香が運びこまれていた自分のバッグを開けた。
「……とりあえず浴衣に着替えたら、お風呂に行こっか」
「うん、賛成!」
海愛も早く温泉に入りたくてうずうずしているので、断る理由はない。
そうと決まればさっそく部屋の隅に置いてあるボストンバッグからタオルと替えの下着を取り出す。
それから手早く部屋に用意されていた浴衣に着替えた。
「……海愛、準備できた?」
いつの間にか浴衣姿になっていた彩香が訊ねる。
「できたよ。お待たせ」
入浴の準備ができたので、二人は部屋を出て大浴場へ向かうのだった。
談笑しながら廊下を進み、目的の場所にたどり着く。
大浴場ののれんの前には真穂乃がすでに到着していて、二人に気づくと大きく手を振って自身の存在をアピールした。
「海愛! 彩香! こっちよ」
「真穂乃! お待たせ」
彩香が手を振り返して返事をする。
「それじゃ、入りましょうか」
真穂乃がのれんをくぐり、海愛たちがその後に続いた。
現在の時刻は午後五時前。入浴するには早い時間帯だからか脱衣所には誰もいない。
完全に貸し切り状態だった。
さっそく服を脱ぎ始める三人。
海愛は至って静かだったが、その隣で脱衣中の真穂乃を見ていた彩香が突然興奮したように騒ぎ出した。
「うわ……真穂乃のおっきい……」
どうやら真穂乃のたわわな果実に視線が釘付けになったようだ。
「な、何言ってるのよ! 彩香だって充分大きいじゃない……」
当の本人は頬を赤らめ、両腕で胸を隠す。
「あたしのは真穂乃ほどじゃないよ」
そう言いながら、彩香は素早く真穂乃の背後に回り込んだ。
そして、後ろから両手で二つの大きな果実を鷲掴みにするのだった。
「えいっ!!」
「きゃっ!! こ、こら……ふざけないの!」
悲鳴を上げ、顔を真っ赤にして胸を掴んでいる両手を引き離そうとする真穂乃。
だが、彩香はメロンのように大きく肉まんのように柔らかい膨らみに夢中でまったく聞く耳を持たなかった。
「すごいよ、海愛。真穂乃のおっぱい……柔らかくて張りがあってすっごく揉み心地がいい!! 海愛もどう?」
ついには胸を揉んだ感想まで口にする始末だ。
「…………先、行ってるよ」
おっぱい談議には一切取り合わず、冷ややかな視線を幼馴染みに送ると、海愛は浴室に向かった。
その様子を見て、彩香が急に態度を変える。
「あ、そうか……ごめんね、配慮が足りなくて。けど、海愛はまだまだこれからだから安心していいと思うよ」
胸が控えめな海愛に対する配慮が足りなかったと謝罪する彩香。どうやら同い年のクラスメイトたちの胸と自分の胸を比べて落ち込んでしまったと思ったようだ。
「べ、別に気にしてないもんっ!」
彩香の謝罪の意図を察してしまったため、顔を真っ赤にして大声で否定する。
別にクラスメイトと胸を比べて落ち込んだわけではない。
……が、そうは言ってもまったく気にならないわけでもなかった。
彩香や真穂乃のたわわな胸が視界に入ると、どうしても自身の平坦な胸と比較してしまう。
だから、なるべく二人の胸元は見ないようにしながら急いで浴室へと向かうのだった。
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