第4話 伴侶になりました
モフモフのネザーランドドワーフ似のウサギのような生き物に、人生初プロポーズされた。
私の答えは決まっている。
「いいよ」
『良いのかよ!?』
「むしろ、人型の姿よりもこっちの姿で一緒に暮らしましょう!」
『人の姿じゃないほうがいいの?』
小首を傾げる姿も、とってもプリティで可愛らしい。口元がヒクヒクしていて、愛おしさが溢れてくる。
「私は人間嫌いで、どうにも人間で特にイケメンの形をしたものが嫌い、嫌悪していると言っても良いかな。だから、こんなモフモフと一緒にご飯を食べて、お風呂も寝るのも大歓迎。エリオットを大事にする!」
『お師匠様!』
「私はお師匠様じゃないわ。
『アイリ! 名前を教えてくれるんだね!』
「そうよ、エリオット」
頭を撫でると嬉しそうに目を細めた。うん、可愛い。
たくさん撫でたらヘニャリと気を許していて、控えめに言って超絶可愛すぎる。
『おい! お前ら本当にそれでいいのかよ!?』
『「うん」』
『息ぴったりかよ』
グレイが蛇の姿でギャアギャア騒いでいたが、エリオットは石榴の瞳で私をジッと見つめて額を合わせようとする。
『蜷帙→■■◇螳カ譌上縺ェ繧��■縺ィ繧貞、ゥ◇◆■■ー縺≧縲ょ・醍エ��蜊ー■■�』
契約の儀式らしい詠唱は、人間の私には理解出来ない言語のようだ。
ただ心地よい声に耳を澄ます。再び唇を交わしたあと、私の右手が微かに光る。手の甲には三日月の紋章が浮かび上がっていた。
『これでアイリと伴侶になった!』
「紋章も可愛い!」
『マジか。俺の説得は一体……』
「(あれは説得ではなく脅迫……)エリオット、これで伴侶でもあり、家族だから、よろしくね!」
『うん!』
モフモフして大きくて可愛いのだが、部屋の大きさ的に考えて動きにくくないだろうか。
「エリオットはそのままでも充分に可愛いけれど、サイズ自体をもう少し小さくはできたりしない?」
この提案はけっして私がモフモフを堪能するために、コンパクトサイズならいいな――と言う私利私欲ではない。
『できると思う! ……◆◆屬縺ィ◇■■ォ蜀■■ァ狗ッ』
人間には理解できない言語でエリオットが告げた直後、ボフンという音と共にピンク色の爆風が広がった。
次の瞬間、全長三十センチ前後の薄紅色のモフモフウサギが二足歩行で、しかも十二匹もいる。それは姿を変えたというよりも分身ではないか――など色々頭に過ったが、もう可愛いのでどうでもいい。
「かわわわわ……」
「アイリ!」
真っ先に薄紅色のモフモフなウサギが、私の腕の中に飛び込んでくる。何だろう超絶最高な展開!
ヒシっとモフモフウサギさん──エリオットを抱きしめる。モチモチして柔らかくて、体温が少し高いかもしれない。でもとっても甘い香りがする。
「(最高すぎる!)エリオット、すごい! そしてすっごく可愛い!」
「えへへへ。僕は魔力が常に多いから、小さな体だとすぐに魔力が満杯になっちゃう。だから、肉体を十二に分離することでそれぞれ魔力量も分散して、負荷が掛からないようにした……だけれど、ダメだった?」
「ううん。エリオットの負担が掛からないのなら、そのほうがいいわ」
不安そうに話すエリオットが可愛くて背中をたくさん撫でて上げたら、ホッとしたようだ。頬にキスをしてみたら、あっという間にフニャリと腕に身を預けた。
「アイリが求愛行動してくれたっ」
「ふふっ。大好きだからね。それにこんなにモフモフがいっぱいで幸せ」
モフモフのネザーランドドワーフ姿なのだが、一匹(?)ごとに背中にアルファベットに似た紋様が浮かんでいる。色合いもエリオット本体(?)は薄紅色で、他の子たちはもう少し色素が薄い薄ピンクだ。
「アイリ、ギュッとされるの、好き。これが愛?」
「ギュッとしたくなるのは好意があって、大切で、愛のカテゴリーに入る表現方法の一つだと言われているわ。もっとも私は両親に愛されたことがないから、あくまで漫画やドラマ、小説の知識に偏るけれど。……自分がして貰ったら嬉しいことの一つは、抱きしめてもらうことかな」
「じゃあ、これからは僕がいっぱいアイリを撫でるし、ギュッとするね」
「ええ」
頭を撫でる。
好きだと伝えることも。
大事だと言うこと、大切にされている言動もそうだ。頭を撫でる、撫でられるのは、ちょっと恥ずかしいが。
私も愛について手探りながらも、エリオットに話してみる。彼は頭を撫でるのとギュッとされるのがすごく好きだと、認識したようだ。
「キスは刺激が強いけどすごく、すごく愛されている感じがして、胸がぽかぽかする」
「うんうん。これからは好きなだけいっぱいするからね」
「うん!」
わらわらしている残りのウサギさんたちも私の周りで、横になってお腹を出したり、眠ったり、周囲を観察して興味津々に動き回る子もいる。私の背中に引っ付くのも控えめに言って最高だ。
(あれ? ここは天国?)
『お前、変わり身が早すぎないか?』
「む?」
そう現実に引き戻す声に振り返ると、黒に近い灰色のウサギがちょこんと立っているではないか。後ろ足でダンダンしているのがまた可愛い。
他の子と違って尻尾は蛇のままだ。目もちょっと吊り上がっていて怒っているようだが、その仕草も可愛い。
「グレイも抱っこする?」
「そうだな──じゃない!」
「素直じゃないな。ほらほら」
しかし本能と言うかエリオットの一部でもあるので、愛されたいことに貪欲なのは隠しきれなかった。「お前がそこまで言うならしょうがない」と言う顔をしているが、抱っこしていっぱい撫でたらフニャンと陥落した。チョロい。
(ふふふ、グルーミングの良さを教えてあげよう)
そんな目論見を考えている間に、モフモフの誘惑に負けてエリオットたちを抱き枕代わりにして眠りこけてしまった。
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