第28話 VS紫の甲冑 前半戦

「紫の甲冑を着けた性別不明の人間に、族長は首をはねられ、みんな殺された上に、君たちは呪いの元になるように痛めつけられたあと、あそこにぶら下げられたのか」


どう考えてもバグ魔物の仕業である。紫だし。バグ魔物というか、知能としてはバグ人間だな、認識を改めよう。


「うん、そうなの」


「私たちはもうぶら下げられない?」


「うん、吊る……ぶら下げられないよ。私とアキちゃんが助けたんだよ」


それを聞いて喜ぶシルフたち。めちゃくちゃかわいい。小さい子供というだけではなく、デフォルメキャラのようにずんぐりむっくりしているため、かわいさが半端ない。


「生き残ったのは12名か。のこり58名は亡くなった……ひどい。まずは呪いの地域にいる魔物を一掃するよ!」


戦闘指揮所に行き、魔導管を握る。


「システムオールコンバット! 拡散艦隊魔導砲撃ち方始め! 魔導砲動力は私から伝える!」


「システムオールコンバット、拡散艦隊魔導砲撃ち方始め。魔導砲動力は司令官」


人工知能が復唱する。


「レーザー砲は人工知能が管理! 行くぞ!」


救出が終わっていたアキちゃんをワープで帰還させてからフリゲート艦の一斉掃射が始まる。

腐ってもこの世界で人が作った最強の道具。

強い。

レーザー砲がハーピーやドムドムなど、ゴミどもを叩き落とす。


「拡散艦隊魔導砲出力120パーセント。発射します」


発射される拡散艦隊魔導砲。

真っ青の、魔力がマナになった塊。それがレーザーとなって連なり正面180度全てを覆い尽くすように拡散する。

そのレーザーの1列は山をも削り、大型の魔物を叩き潰す。


この悪魔の舟が魔物を弄ぶがごとくすり潰していく。


これがフリゲート艦。これでもフリゲート艦クラスでしかないのだ。


「ご主人様! 前方145度マイナス15メートルにドラゴンが出現しました! 真っ黒! 識別します! ――カースドドラゴンです!」


「魔導砲一門じゃ荷が重いかな。アキちゃんは拡散艦隊魔導砲を。人工知能が操舵を担当しろ。甲板に出るぞ!」


甲板にはちょっとした射出機が設置してある。

ただのパチンコ機械なんだけど。

これで私を引っ張って、ぽーんと射出する。

大型の機械なので、そこそこ速度が出る。一気にカースドドラゴンに接近する。


「せっかくなので中級スキル貫通をレベル5とってーの、オーバードライブレベル7! マジカルキャノンレベル31だぁぁ!」


その瞬間、時が止まった。


「……うお? 知らないうちにカースドドラゴンは頭から背骨までキャノンが貫通して死んでるね? 何が起こった?」


頭に鳴り響く通知。確認してみよう。


「えー、アマール地方におけるサーバー停止についてのお詫び。あ、出力すごすぎてサーバー落ちたな? やりすぎたか……」


やり過ぎるとTSSのサーバーが演算間に合わなくて落ちるようだ。でもやらなければいけないときも、ある。


ドラゴンを倒したので一度着地し、うまく出来ずに思い切り転がる。てへ。

フリゲートのワープ装置を使って艦に戻る。


「ただいま。敵はこんなもんだろ」


最後はこの呪いをどうにかしないとな。

呪いの元はなんだろう。


「アキちゃん、呪いの中心部はわかる?」


「はい、あの大きな木から放たれています」


「ありがと。切り倒せば良いというわけでもなさそうだし。シルフさんに聞いてみるか」


船員室のシルフさんを訪ねる。シルフさんはみんなで抱き合って泣いている。――少し呪いを感じるな。


「シルフさん、聞きたいんだけどいいかな」


一人ぼんやりしていたシルフさんがこちらに顔を向ける。


「なんでしゅか」


「えっとさ、ここに蔓延している呪いがどこから来ているかわかるかなーって思って」


シルフさんは遠くを見ながら喋る。


「それはぼくたちでしゅね。ぶらさげられている、おともだちがのろいのもとになっているんでしゅ」


「――そっか。丁寧に埋葬すれば呪いも解けるかな?」


「とけるとおもいましゅ」


「ありがとう。ゆっくりと元気になれると良いね」


思い切り抱きしめて船員室を後にした。

アキちゃんのところに戻り結果を伝える。


「もう骨になっている遺体もありました。辛い作業になりますね――」


埋葬作業を進める。空に飛べるのはアキちゃんなので、私は重機となって埋葬場所を作る。

大きな木を中心に一人一人埋める場所を作り、埋めた後小さな墓石を立てる。墓石は夏芽をちぎって変換して作った。


58体、長いな――


そうやって埋葬していると、艦からシルフさんが降りてきた。


「あれ、シルフさん。どうしたの?」


「私たちも手伝う! 仲間を埋葬したいの!」


すこし聡いシルフの女の子がそういう。なら手伝って貰おう。


12名のシルフさん達が泣きながら仲間のお墓を作る。見てられないよ。

でもやらないといけない作業なのだ、きっとね。


「これで全部。終わったね」


「最後にダンスを踊ります。シルフのダンス」


そういうとシルフさんはダンスを踊り始めた。素敵なダンスだ。心が癒やされるような、そんなダンス。ゆっくりと、でも楽しげに。


すると、どんどん呪いの力が弱まってきたのがわかった。

私、アキちゃんみたく無効化じゃなくて耐性持ちだから感じるんだよね。


「これで呪いも解けたね。みんなはこの後どうするの?」


「どうにもならないでしゅ。これだけよごれちゃうとせいかつできないでしゅ」


うーん、まいったな。


「緑の豊かな所ならオッケー?」


「オッケーです。でもそんなところこの周辺にはもうありません」


「ふーむ。あそこに頼ってみるか。いったんフリゲートに戻ろう。フリゲートの通信能力を使う」


フリゲートに戻って通信を掛ける。もしもしー? 本間さーん?


そう、レングス外地の本間洋子さんと繋がりを持っているのだ。あそこなら緑が豊かだしウンディーネの集団もいる。癒やされるには十分な所だろう。


「あ、さいですかー。んじゃすぐに連れていきますねー。ふう。みんな!違う場所に移るよ! そこでやり直そう! ウンディーネさんもいるよ!」


「え、ウンディーネさん!?」「じゃあ水が綺麗だ!」「みどりもたくさんだね!」

などと口々にいい、嬉しそうにこちらを見つめる。


「それじゃあいくよー――」


「ワレノ セイチ ヲ ヨゴシタノハ ダレダ!」


あたりに鳴り響く低い男の声。

周辺をみると、小高い出っ張りの上に紫色をした甲冑――剣士か? 刀を持っているように見える――が立っていた。どこかで見た記憶がある気がするが覚えが無い。


「アキちゃんはフリゲート艦への誘導を! シルフさんの数を確認したらここを離れて! 人工知能、退避システムスタート!」


「ご主人様はどうするんですか!?」


「奴とやり合うんだよ、次は負けない」


「嫌です、私も残ります!」


「ペット命令コマンド、服従。やれ」


「嫌ああああぁぁぁぁ」


アキちゃんの意思とは関係なくペットコマンドで行動されるアキちゃん。でもアキちゃんを殺されるわけにはいかないんだ。私が時間を稼いでフリゲート艦を逃がせば。どこか欠損しても今はレングスの外地がある。


「グオオオオオオオオオオオオ!!」


私は地面に降り立つと甲冑剣士に突撃をする。武器はキア-06L。間違いなく弾かれるだろう。マジカルキャノンなら当たればいけそうだ。ただ、白兵戦をされたら撃つ暇が無くなる。


さあ、盛り上がってきた。

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