第16話 鬼の形相のアキちゃん
アルダスさんに傭兵管理は任せて私はアキちゃんと合流する。
ほとんど24時間フル稼働で魔法の弾を打ち返しているらしい。
アキちゃんは陣地を構築したアルダス軍の先頭にいるらしい。すぐに行かないと。
アキちゃんの所に行く際にアルダス軍が構築した野戦陣地を見る。
浅い塹壕が2列、傭兵、いや、兵士はそこに屈んでいる。それと農家から徴発したであろう鉄線が並んでいた。ほかはなにもない。持ってきた砲と有刺鉄線は役に立ちそうだ。
塹壕の横を歩く。こんな簡単に横を取れるんじゃ話にならないと思う……。
てくてく歩いたらアキちゃんを発見した。
鬼の形相で前を向いている。
あ、これライドしておこう。珍しい形相だ。
「アキちゃん!」
「ご主人様!」
アキちゃんはこちらに振り返ると駆けだした。
「ごしゅじんさーまー! とぉっ」
そういうとアキちゃんは私に飛びかかってくる。
それを受け止めて抱きしめる。
今までお疲れ様だったね。
「とりあえずアキちゃん、お風呂入ろうか。臭い。いっぱい匂い嗅いどこう。ライドの人たちにこの匂いが伝わるから」
「お風呂入る余裕もなかったんですよ! なんでライドしてるんですか! ご主人様のバカ!」
「ごめんごめん。今日は私が見ておくからノンビリしな」
「わーい! ライドで覗かないでくださいよ!」
「覗かないよー行ってらっしゃい」
そうしてアキちゃんはアルダスさんのところに報告に行った。
私はスキル購入しないと。
上級スキルの探感知と中級スキルの反射かな。
レベル1だけ取って、特に負担のないオーバードライブレベル2でどちらも4にすれば大丈夫でしょう。特殊技能じゃない、魔法なんだし。
TSSはスキルの上限は大体が5だし、4は相当取ってることになるしね。
アキちゃんの代わりにぼんやり突っ立っていると、後ろからアルダスさん率いる全傭兵がやってきた。
「お、塹壕掘りと有刺鉄線張り巡らせですかね」
「さすが作家は何でも把握してるな。そうだ、いつ襲ってくるかもわからねえ。砲配置も含めて今夜中にやっちまう。幸い人数はいるしな、ガハハ」
塹壕は重機で掘るらしい。砲配置と有刺鉄線が人の仕事だそうだ。砲配置重いってもんじゃないと思うんだけど出来るのかな、出来るんだろうな。馬力のある車が牽引すればいいしね。トラックとかありそうだ。
「テキパキやってる人とのろのろやってる人がいるな……。練度や経験に違いがある」
大丈夫かなあ。傭兵でも軍事向けの傭兵もいるし、引退した傭兵もいるもんねえ。
「ん! 高エネルギー反応! 魔法か! 反射展開!」
展開されたのは、私の前面でした。いや待って展開するのはそこじゃない。
「うおおおおお! なんだ、何がある! そうだ、遠距離発動だ! スキル取得遠距離発動! オーバードライブレベル5! うおおおおとどけえええ!!」
昔取った杵柄。スキルの大体をなんとなく把握しておいて良かったよ。
魔法が遅かったので軌道の線上に反射を展開することに成功。
で、これ反射なんだよね。アキちゃんは撃墜してたらしいけど、これ反射。跳ね返っていきました。
絶対結界があるので酷いことにならなかったようですが、肝は冷やしたでしょう。
この日は魔法はこれだけ。強い魔法ほど絶対結界の魔力強度も必要だから魔法撃つのはキツいと判断したかな? アキちゃんが魔法得意ならずーっと撃たせたんだけどね。範囲魔法とか大魔法は全然訓練してなかったからね。
そういえば凄いことがあったんだわ。夏芽が動き出したの!
これだけならあっそうと言われる感じだけど、夏芽が吸いに吸った私の血液と融合して巨大な金属になり、重機の代わりになったの!
私には一切重さが伝わらないから指輪から夏芽が伸びてるなーとしか感じないんだけど、現場は大助かり! 巨大重機クラスにまでなっちゃったんだからね!
超貴重金属生命体の片鱗は見せて貰ったような気がする。巨大重機が出現して、私は自由に手足を動かせて、重さも感じない。
巨大重機のことを知っていたわけではなさそう。なぜなら巨大重機のコクピットの背面に以前私がイラストしたマークがでかでかと書いてあるからだ。私の記憶から引っ張り出しているようだ。つまり、血だけじゃなくて私の記憶にも手を出してるな。別に構わないけど一言欲しかった。夏芽はしゃべれないけどな!
そして多分どこまでも血液があれば巨大化するし破損しても血液ですぐ修復できる金属。剣にでも弓にでもなろう。戦争でいえば砲になれるか。火薬は作れないから炸薬と発射装置はこっちで作る必要があるけど。魔力、あるのかな。あれば魔力砲が撃てるから……異常だ。
本当に凄い物を入手しちゃったなー。明日の小ミッションが終わったら造血スキル取ろうっと。生理はおきつね族だと数年単位で来るとのことなのでそんなに必要じゃなかったんだけどね。
翌日。
「隊長! 雪菜隊長! 大変です!」
一般兵卒が私を呼ぶ。
「なんで私が隊長なのよ。徹夜で見張ってたから眠いんだけど」
「それはアルダスさんに聞いて下さい! 大変なんです! アキ様が起きないんです!」
「そりゃ何日も寝ずに緊張してたらすぐには起きないわ! あほか!」
今は経験値が不足していてスキルも取れないんで結界を取得して展開したりとかが出来ない。結界は確か設置して放置ができたんだけどね。
まあ深ーい塹壕は完成しているし一発くらい壊滅的な魔法弾を食らっても問題あるまい。
ライドをつけてからアキちゃんの家へと赴く。村で一番豪華な家を当てられているようだった。守護神だもんね。
「アキちゃーん、はいるよー」
「グゴゴゴゴゴ、グゴゴゴゴゴ」
「凄いいびきだな。起こさないように慎重に歩こうと思ったけどこのいびきで足音消えるわ」
「グンガガガガガ、グンゴゴゴゴ」
音の方に近づいていく。普段はスースーという音で寝ているのでそれだけ疲れているということだ。
部屋に入るとそこは戦場であった。きったねぇ。
ゴミが散乱しているわけではないが、飲み食いしたカスがそこら辺に飛び散っていた。急いで食べたんだろうね。
まあしょうがないよね、私が離れたのが一週間から10日くらい前。その間見張っていてくれたんだもんね。
食べカスを拾い集めてゴミ箱へ捨てる。一応私だって出来るんですよ、一通りのことは。いつもはメイド任せだけど。
アキちゃんはというと自分のしっぽを抱き枕にしてよだれを垂らしながら嬉しそうに眠っていた。口呼吸だからいびきかいているんだな。
「しかしこんな姿私にも見せたことがない。みなさん、これは聖典並に貴重な映像ですよ」
いびきはうるさいが姿は可愛い。そっと口を閉じるといつものスースー眠りへと変わった。
「これ、お風呂入ってないよなあ。さて諸君、お風呂に入れても寝ているままだろうか? 賛否を問う」
高速に流れるコメント欄。アンケートを投入すると真っ二つに意見が分かれた。そりゃ起きるだろ派と疲れすぎて起きない派の二つだ。
「んー、起きてもすぐ寝ると思うから洗うか」
――コメント欄――
アキちゃんのぜぜぜぜ全裸が!?!?!?!?!?
――コメント欄――
「見せねーよあほ。映像フィルタリング入りまーす」
アキちゃんを抱っこしてお風呂場に連れて行く。
アキちゃんは私に抱きついてきて、「ご主人様の香りがする~」などと寝言を言っている。さすがのアキちゃんだ。
お風呂場に着いたら肌着を脱がせ、シャワーで全身に水をまぶす。
「ガッサガサで水が濡れない……あと、毛の油で水が弾ける」
難儀しながらも水に浸すことに成功。
「じゃあ全身洗っていきましょうねー」
「むにゃむにゃ」
素晴らしい、全く起きない。
「全く泡立ちません。どこまで汚れているんでしょうか」
洗うこと4回、やっと泡立ちして綺麗に身体を洗うことが出来た。
「あとは……耳としっぽか」
ここは敏感だから丁寧に洗わないといけない。
ここだけシャンプーの質を上げて、たっぷりとシャンプーを使って洗っていく。
もしゃもしゃもしゃもしゃ。ここは7回洗った。毛の油が落ちねえ。
「はぁん、ご主人様駄目ですぅ、そんなところ触ったら私、私」
「どんな想像してるんだろう。まあいいや、これで全部洗えた」
バスタオルで全身を拭き、エアブローで毛を乾かして完了!
「よし、防具を着させてARチップでメイド服を着させればOK!」
最後までアキちゃんは寝たままだった。
ククク、身体を綺麗にしたのをご主人様が全てやったと知ったらショック死するだろうな。
戦場へ戻るとアルダスさんが待っていた。
「よう、砲の準備が出来たから撃ち込みたいんだが、雪菜は魔法弾は撃てるか?」
「まだ無理だね。魔法弾はアキちゃんがいないと」
「そうか。ただアキちゃんは魔法弾が下手だからな」
「うちの夏芽、あの液体金属生命体で巨大な砲を作って、ただの弾だけど発射する? 当たればどんな絶対結界でも崩壊すると思う」
「設備が整った今、できればすぐに砲撃を開始したい。魔法結界になっている所に物理を投射したいんだよな。ただの弾じゃ正確に当てないと意味がないし、その作戦は見送りだな。明日から砲撃を開始するぞ」
明日からか、時間がないぞ。
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