第15話 艦船

「オウライ!艦こっち回せ!」


「積み荷の品は届いてる! 接岸したらすぐに積み込むぞ!」


「フリゲートはどうなってる!?」


「接岸終了してマナバッテリー積み込んでます! 2時間で再始動できます!」


「1時間でやれ!」


 ここはブルターニュ一族専用の埠頭。

 そこで今、私のためだけの艦が3艦動いている。

 私に出来ることはないのでベンチに座ってみている。


 わんわんおから連絡はつき、傭兵600人集まったという話は伝わった。

 ここに入れることは出来ないから一般埠頭に移してから入れることになる。ちょっと遅いけどしょうがない。

 しかし砲艦欲しいと言ったけど、フリゲート艦2艘か。地上戦力なら木っ端みじんに出来る。

 まあ、戦闘開始していたら巻き添えになるから撃てないんだけど……。

 あれからアルダスさんからの連絡はない。アキちゃんも。

 だからにらみ合いが続いていると思いたい。連絡する間もなく襲われたとは思いたくない。

 良くない行いである、「だとは思いたくない精神」を発揮しまくっていると、ブルターニュの長、ソフィアさんがやってきた。

 酒場の時の派手な衣装とは違い、まさにトップのお嬢様といった気品の高い衣装だ。


「雪菜さん、横に座っても良いですか?」


「はい、構いませんよ」


「現在最速でやらせていますので、それで間に合わなかったら、しょうがないです」


「しょうがないと言っても!」


 思わず大声を出す私。しょうがないでアルダス村が終わったらどうしようもないのだ。


「しょうがない以外に言える言葉なんて何があるのでしょうか。現在オプションラックに搭載する増設ブースターも取り付けています。速度は出ますから」


 しょうがない。これ以外に言えることはあるかと作家の頭をフル回転させる私。

 しかし出てくるのは似たような言葉ばかり。本当にしょうがないしかない。


「――早く準備が終わると良いなあ」


「そうですね、終わると良いですね」


 しっかし、酒場の時とはまるで人が違う。口調すら全く違う。これがレングスを取り仕切る人なのか。感心するよ。






「おい、お嬢ちゃん、こんなところで寝てると風邪引くぜ」


「あ、うん。はい。寝ちゃったのか」


 おじちゃんの声で眠っていたことに気がつく。


 ふと身体の方に目をやると毛布が掛けられてる。私のだけど。ソフィアさん、マジカルポーチあさって取り出してくれたんだ。ポーチの中身何見たんだろ。あんな物やこんな物だったら恥ずかしい。


「あの、作業はどうなりましたか?」


「俺が知っている限りで話すと、フリゲートは終わってもう出発したぜ。砲艦は戦闘が始まる前につかないと意味がないからな」


 思わず視界に時計を表示させる。深夜の3時だ。


「こんな時間にもかかわらず動いてくれるんですか!?」


「長がやれって言ったらやるんだよ。それがレングスってもんだ」


「なんでソフィアさんはここまでのことを……お金いっぱい用意しなきゃ」


「長に気に入られたんだろ。CBTWー2400は明日傭兵を乗せれば即日着くぜ。増設ブースターは突貫工事で補給も出来ないタイプだから帰るときは数日かかるがな」


「2400!? 工事を見学していたときは1200の大きさだったと思うんですけど!? しかもクラスC!?」


 これについては知らねーよと言って去っていくおじさん。


 何を積んだんだろう。わからないけど歩兵が扱える武装と食糧を積んだに違いない。それ以外は無駄だからだ。

 迫撃砲に手榴弾、ロケットランチャーなどが積んであれば、ほぼ歩兵だけしか用意してない私たちでも遠距離爆撃が出来る。

 傷薬だってあればあるだけ良い。キルレシオが良くないのだ、負傷者は膨大な数が出るであろう。

防御なら有刺鉄線があれば言う事無しだ。有刺鉄線の登場以来その存在意義は揺らいだことはない。


「――本の数冊でも渡さないと駄目かもね」


 そう独りごちると、朝までその場で動かずに休むのであった。


 翌朝。


「さて、傭兵はどうなったかかな」


 埠頭を離れてわんわんおの傭兵の館へと足を急がせる。

 そこで見た物は――


「凄い人。人がうごいめいてる。本当に集めてくれたんだ……」


 600人というのはそこら辺の中高一貫学校並の数だ。集まるととんでもない人の波になる。

 それが、今、ここにある。


「来たか、雪菜」


 声に振り返るとそこにはわんわんおの姿が。子どもも居る。これが前行っていた息子さんか。


「わんわんお! と息子さん!」


「うわ、父さん本当にわんわんおって言われてるんだ、キモ」


「ア、ハイ。だって名前教えてくれないし」


「ボクはセルジです。セルでもセルジでも何でも呼んで下さい」


「うん、わかった、しっかり者だねセルジは。わんわんおと大違いだ」


 本当に20年経ったんだなあ。しみじみと思う。


「話を進めていいか。600名集めたが現役を離れた人まで込みだ。現役は200名しか集まらなかった。レングスは開拓最前線だ、傭兵がそもそもいない。傭兵ネットワークを使って緊急招集を掛けたんだ、3万ドルエン貰えるって言ってな。もちろんリスクも説明してある」


「そっか、ありがとう、わんわんお」


 傭兵を通常の埠頭へ連れて行く。

 普通なら艦は横に大きくなると思う。海に浮かんでるもんね。

 でも空中に浮かぶ船は縦に長くなるのだ。だから2400は縦に浮かぶ塔みたいな形になってる。

 まさか2400とはなあ。巨大輸送船には遠く及ばないけど、やはりデカい。大型輸送船の名前を張れる。


「傭兵は乗り込んだね。後は私だけか」


 出来るだけのことはやった。後はアルダス村に乗り込んで戦うだけだ。


 いくか。


「お待ちになって下さい、雪菜様!」


「あ、ソフィアさん。お見送りですか、ありがとうございます」


「ええ、そうなんですけれども、一つお願いがありまして」


「なんでしょう、出来ることなら何でもいたしますよ」


「その、アキちゃん様のライド撮影をお願いできますでしょうか。私もアキちゃん派の一員でして」


 ずこー。ここまで親切だったのはアキちゃんのためだったか。


「わかりました。ライドたくさんします。戦闘になったら難しいかもしれませんが」


 というわけで最後に激重任務を仰せつかって私は出発したのでした。




「うおお加速Gが凄い」


「増設ブースターフル稼働なんだ、たりめーだろ!」


 艦橋室で思わず凄いGにそうつぶやくと、艦長が説明してくる。そらまあそうだけどさ、この加速は輸送船の加速じゃないよ。


「ある程度加速したらそのままの速度で巡航に入る。ブースターも使い捨てだから補給できないんでな、常に全開とはいかん」


 私は肉体が凄いから耐えきったけど傭兵さんは大丈夫なんだろうか。少し心配する。


「こちら傭兵部隊! 舐めてんのかあの加速! 押しつぶされる人員が出る所だったぞ!」


 ああ、やっぱり駄目だったか。死人が出てないだけよしとしよう。


 十分な加速が出来たCBTWー2400はブースターを一度止めて、艦の加速器だけで走り始めた。

 ここまで大きいと慣性の法則が働くからちょいちょいブースターを発動させればいいんだろうね。


 本当に即日アルダス村に到着した私たち。そこで見た物は……。


「フリゲート艦が撃沈してる!? 2艘とも!?」


 人が艦を落とすことは不可能ではない。私もマジカルキャノンレベル5に各種バフスキルをつけて撃沈したことがある。

 ただしそれはウルフコボルトでは出来ない。魔力を殆ど持っていないからだ。


「絶対結界といい、相当な魔術師が付いてるっていうの……?」


「おい、積み荷を全部降ろせ! フリゲートが破壊されたんだ、2400でも破壊されかねん!」


 艦長の檄が飛ぶ。そうだ、積み荷を降ろさないと。


 急いで積み荷を降ろす。ここはアルダス村の端っこだけど、フリゲートが撃沈している以上先へ進むのは危険だ。


 傭兵乗組員私、全員で下ろしているとアルダス村の方から援軍がやってきた。


「アルダスさん!」


「急げ、狙い撃ちにされるぞ!」


「積み荷が重いんだよ! 牽引式榴弾砲とか迫撃砲が積んであるんだ!」


「そんなもん捨てろ! 物理式の絶対結界が張られるから意味がねえ!」


「でも魔法と組み合わせればどっちかは効くでしょ? テレキネシスレベル6まで取るからそれで運ぼう」


 2100ほど経験値を使うけど小ミッションをコツコツやってきているから取る余裕はある。やろう。


「テレキネシスレベル6取得。やっぱり天買神にスキル上限はないみたいだね」


 榴弾砲など重い物を私が受け持ち荷下ろしをしていく。

 なんとか狙い撃ちにされる前に荷下ろしを完了することが出来た。


「アルダスさん、傭兵600名に榴弾砲などの砲を十数機、運び込みました!」


「ありがとう、これで対抗できそうだ」


「ウルフコボルトの軍団は今も砦にいるの?」


「ああ、そこから魔法を撃ち込んで来やがる。被害は出てないが、リーダーは相当手練れだ」


 はたして勝てるのか。こちらには最強のペアがいるにしても……。

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