第10話 タルバの街4

タルバの街。

広場に帰ってきた。


全身が血塗れだった。


街に入る時はこんな血まみれで問題ないんだろうか?とか思いながら入ったが、この世界ではモンスターに殺し殺されが当たり前の世界なので誰も気にとめなかった。


しかし、この世界に染まっていない人間はそうではなかった。


「あの人すっごい血だよ」

「うひゃーっ。すごいなーあの血。なにを倒してきたんだろ?」


日本人なのだろう。

黒髪の少年少女が俺を見ていた。


そして、パシャッ。


俺の事を写真で撮っていた。


「スクリーンショット?いや、写真?」


俺が疑問に思ってるとシステマが答えた。


「この世界には写真機能があります」

「へぇ、先に教えてくれよ、それを」

「申し訳ございません。撮りたい写真などありましたか?」

「フェンリルを踏みつけた俺の写真を撮って欲しかった」


いや、むしろ。


「今から撮りに戻るか?」

「戻るのですか?」


システマに聞かれて答えた。


「冗談だよ。流石にそこまでねちっこくない。もうあいつは過去のヤツだ」


そう言って俺は近くにあった井戸に向かっていく。


この世界には共同の井戸があるらしいのだ。


なんと使用料は無料だ。


井戸に向かい俺はその場で水を汲んで頭から被った。


「ふぅ」


冷たい水が体を伝う。


それが俺がこの世界にいるということを伝えてくれる。


「すっげぇ、ゲームだよな」


そう言いながら俺は何度かそれを繰り返した。


体にこびり付いていた血が流れていく。

しかし服についた血は染み付いていて無理だ。


「はぁ……捨てるか」


高い服じゃない。

俺はシャツを脱いで近くのゴミ箱に捨てた。


血の匂いってほんと臭いんだよな。


ってわけで俺は上裸の変態になったわけだ。


ぶるっ。

体が震えた。


「はぁ、さむっ。帰るか」


誰か知ってる人間に見れたら変態と思われそうだしな。


今日の宿はどこにしようかな〜とか思ってると声が聞こえてきた。


「ゴブリン強すぎだろ」

「あんなに強いなんてね、ゴブリンが」


声の聞こえた方を見る。

そこに居たのは高松だった。


会話内容を聞くにどうやら昇格試験に失敗したらしい。


(失敗したのか。笑うわ)


まさか、最初の昇格試験すら突破できないなんて思わなかった。


味方のパーティメンバーから散々貶されるんだろうなぁとか思いながら見てると。

そうでもなかった。


「次は頑張ろ!」

「そうだぜ。チャンスは一度きりじゃないんだ高松さん」


そうして励まし合っていた。


(エンジョイしてんな)


いわゆるエンジョイ勢って奴なんだろうな。


正直言うと俺は嫌いな人種だけど。


エンジョイ勢ですっ!て名乗るやつってこれを免罪符だと思ってる奴しかいねぇもん。


「はぁ、帰るか」


歩いていこうとすると声をかけられた。


「あっ。お前はたしか、そうだ。古賀だ」


声をかけられた方を見ると高松だった。


俺はもう関わるつもりなんてなかったが、向こうはそうではないらしい。


「忙しいんだよね。なんの用?」


俺はこれから宿を取って寝て明日のことも考えて、とか忙しい身だ。


こいつのようにエンジョイ勢を名乗ってるわけじゃないからな。


「え?別に用なんてないけど、上裸の変態が歩いてたら面白いから話しかけるでしょ?」


クスクス笑いながら俺を見てた。


「そういう趣味でもあるの?」

「さっきまで戦ってたんだよ。返り血浴びたからシャツを捨てたんだよ。もういいか?」


こいつと話してても生産性の欠けらも無い。


ゴブリンにすら勝てない奴と話してたって得られるものはなにもない。


だが高松の方はとうぜん違う。


「ところで何が忙しいの?Eランクの君が忙しいわけないよね?」


ニヤニヤしながら言ってた。


「僕達はもうDランク昇格試験なのは知ってるよね?僕らの方が忙しいよ」


ずっとニヤニヤしてる。


「うぜぇよお前」


そう吐き捨てて行こうとすると高松は後ろから煽ってくる。


「えぇ?!僕がうざい?!そんなわけないだろう?!」


バキッ!


俺は高松を殴り飛ばした。


ドサッ。

その場に倒れ込む高松。


頬を抑えて俺を見ていた。


「うぜぇから話しかけんな雑魚。俺に関わらないでくれる?殺すよ?」

「雑魚?!この僕が?!」

「雑魚だよ。喚くなよ雑魚。ゴブリンにすら勝てないクソ雑魚が俺の時間を奪うなよ」


俺はそう言って歩いていこうとしたが高松は言った。


「ゲートも知らない初心者がよく言うよね?!」


高松は笑ってこう言った。


「分かった。そこまで言うなら君をパーティに加えてあげる。Dランク昇格試験に行こうよ。僕らは手を出さないからさ」


そう言ってきた高松。


俺は高松を見た。


「へぇ、今からでいいか?」

「いいよ。最初の難所だよ?初心者の君なら直ぐに負けて帰れるはずだしね」


そのとき高松のパーティメンバーの何人かは言った。


「高松さん。明日学校が」

「明日仕事があって」


今は丁度夜1時くらい。


マトモな人生を送っている人間ならこれ以上ゲームに時間を使えない時間だ。


だからパーティメンバーの殆どは消えた。


だから残るメンバーは高松と黒木。


「君はいいの?」


黒木に聞いてみた。

見たところ俺と同じ学生のようだが。


「明日は学校特有の記念日で休み」


それから黒木はこう聞いてきた。


「あなたこそ」

「俺は色々あってね」


そう答えると高松は言った。


「どうせ不登校だろ?いいよなー。不登校は時間がいくらでもあってさー」


その不登校の俺が既に2兆円持ってるんだよな。


不登校最高なんですわ。


そう思いながら俺は高松に言った。


「あんたは?」

「どうせ5分くらいで逃げ帰ることになるんだし、さぁ。付き合ってあげるよ?五分くらいなら大したロスじゃないからね」

「へぇ。分かった」


俺はニヤッと笑ってクエストを受注してからアイテム屋へと向かっていくことにした。


アイテム屋ではポーションを買うことにした。

ここで少し経済力の差を見せつけていくことにする。


「ポーション99個」

「19800ジェルだねー」


店の店主にそう言われて俺は金を払った。


それを見た高松が笑った。


「おいおい!ポーション99個?!ビビりすぎでしょ?!」


(突っ込むのはそこじゃなくて既にこれだけ金銭的な面で余裕があるというところなんだが)


どうやらエンジョイ勢様にはそこまで深く考えられないらしい。


しかし黒木はジーッと俺の事を見ていた。


「ねっ……いや、やっぱりいいや」


なにか言いかけて黒木は言葉を飲み込んだ。


彼女はなにか気付いてるのかもしれない。


それから黒木は高松に言った。


「高松さん。これは忠告ですが、長くなると思いますよ」

「それでも10分くらいでしょ?いいっていいって。初心者くんがゴブリンに勝てるわけないし」


そう言って笑ってる高松。


俺はこの時思った。


俺がなぜポーションをこれだけ買ったのかについて考えて欲しいものだ、と。




Side 一条


【上級者が初心者の質問に答えるスレ】


245 ユミカ☆

血まみれの人を見かけたんですけどこれはスキンですか?装備なんでしょうか?それとも本当に返り血なんでしょうか?


思わず写真を撮ってしまったので載せておきます


246 一条

今すぐに写真を消してください。マナー違反です。


247 ユミカ☆

ごめんなさい。


248 鑑定士EX

ちなみにこの写真は何処で撮ったものですか?


249 ユミカ☆

タバル街の広場ってところです。

ゲートを通ってきたらいきなりこんな人がいたので驚いて


でも、なにか意味があるんですか?その質問


250 鑑定士EX

一条さん。この人やばい。この血まみれの人やばい。


251 一条

どうかしました?


252 鑑定士EX

一条さんレベルまだ30ですよね?


253 一条

はい


254 鑑定士EX

この人レベル測定できない

レベル70くらいまでなら写真でも測定できるのに、この人測定出来ないってことはレベル70を少なくとも超えてる


255 ユウカ

やばくないですか?それ


256 鑑定士EX

やばいよ。

日本人がゲートを手に入れてから最前線はずっと松本さんなのに、その一条さんのレベルを超えてるんだもん


257 一条

血まみれで顔が見えないのが残念ですね。

悔しいな。自分よりレベルが高い人がいるなんて、いったいどうやってレベルを上げたんだろう?


258 鑑定士EX

この血まみれの人ほんとやばい。

レベリングスポットとか知ってそう。教えて欲しいなー


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