第80話 プレゼント交換会
料理も一通り片付いて、食後のデザートも注文すると、来るまでの間にもう一つのイベントに取りかかった。
「それじゃあ、プレゼント交換するよ。準備はいい?」
先輩の号令で、各々プレゼントを取り出す。
「人見さんの、大きくない?」
「で、でも薄いし、あんまり凄いものじゃないから、期待はしないで」
皆、手のひらかもう少し大きいくらいのサイズなのに、私だけ両手よりまだ大きくて目立ってしまった。良いチョイスだと思ったけれど、ちょっと嵩張ってしまうかもしれない。
「まあまあ。金額の上限は決めてたし、あんまり高価なものはないでしょ。大事なのは気持ちだよ。ほら、クジ引いて」
流石先輩。良いことを言う。先輩に届いたらいいな、と思うけれど、こればかりは運だ。誰に当たってもいいようには選んでいるから、男子たちに当たっても大丈夫だと思うけど。
クジを引く。予め、冬紗先輩、私、進藤くん、九十九くんの順で、用意したプレゼントに一から四の数字を振っている。
引いた番号の相手のプレゼントを貰えるシステムだ。自分の番号が当たったら、自分の番号が当たった人同士で交換か、引き直し。私が引いたのは、一。先輩のプレゼントだ。
「おっ、一透ちゃんが私のだね。強運だ」
はい、と手渡されたものを、両手で丁重に受け取る。どうしよう。凄く嬉しい。
「開けてもいいですか」
「もちろん。順番に開けていこっか」
許可が出たので、周りで残りのプレゼントを行き渡らせている間に開けてしまう。
出てきたものを見て、私は愕然としてしまった。
「先輩、これ……」
進藤くんも若干引いている。九十九くんなんかすごい顔をしている。ちょっと自分じゃなくてよかった、みたいに思っていそうなのがずるい。いや、悪いものじゃないのだけれど。
「あの、これ、いくらしたんですか?」
震える声で聞くと、先輩はピースサイン付きで答えてくれた。
「私のお古だから、ゼロ円。プライスレスだよ」
「だからってデジタルフォトフレームって。高価なものはないでしょとか大事なのは気持ちとか、どの顔で言ったんですか」
九十九くんのツッコミを引き出せる人が、一体どれほどいるだろうか。冬紗先輩は全く意に介しておらず、やりきった顔をしている。
「あ、ありがとうございます」
恐れ多くて仕方がないが、突き返すことも出来ず、私は震える手でそれを鞄に仕舞った。普通に買うといくら位するのだろう、と思うけれど、知ってしまえば余計に気後れしそうだ。
「じゃあ次は、誰が開ける?」
「なんだか怖くなってきたから、僕の開けていいかな」
私の用意した一番大きなプレゼントを引き当てた進藤くんが、いの一番に手を挙げた。
「そんなにハードル上げないで。本当に大したものじゃないから」
わたわたと手を振って抵抗する私を訝しみながら、恐る恐る進藤くんが封を開ける。もっと気軽に開けて欲しい。
「あれ、これ」
「おお、いいね」
受け取った本人と先輩の反応を見て、好感触を感じ取り安心する。
出てきたのは、何の変哲もない、やや小さめな壁掛けのコルクボードだ。
「私自身、飾りたい写真が増えてきたけど、一枚一枚写真立てで飾ると場所取っちゃうから、丁度こういうのが欲しくて選んでみたんだけど……」
「うん。気に入ったよ。ありがとう人見さん」
誰に当たっても大丈夫なプレゼントのつもりだったけれど、確かに進藤くんの趣味に一番合うかも知れない。心から嬉しそうにしてくれると、嬉しいけれどちょっとこそばゆい。
「それなら、私のプレゼントも丁度よかったね」
うぅ、とつい弱々しい声が口から逃げ出していく。丁度よかったのは丁度よかったのだけれど、やはりちょっと申し訳ない。それでも、ちゃんと使わせて頂く覚悟は出来たので、家に帰ったら大人しく設置しよう。
「次はどっちにします?」
「オチの匂いはハジメ君が受け取った方からするから、私の方から開けちゃうね」
「なら嫌ですけど」
「開けまーす。えい」
九十九くんの静止を聞かず、冬紗先輩は九十九くんが用意したプレゼントを開けて、動きが止まる。
「それ……」
隣の進藤くんも、覗き込んで確認すると言葉をなくす。
「なんだったんですか?」
九十九くんがあまり変なものを用意するとは思えないが、そう言えば、九十九くんはあまり美的センスがよくないと聞いた覚えもある。
気になってテーブルから身を乗り出しつつ先輩の手元を確認すると、そこにあったのは、花の意匠が施されたシンプルな銀のロケットペンダントだった。
先輩が静かに、ゆっくりとペンダントを開くと、中には予め、鮮やかなピンク色の花の写真が挟まれている。ペンダントの意匠になっている花だろうか。
「ハジメ君、この花の花言葉、知ってる?」
「いえ」
「そっか。ふふ。こんなの、どこで見つけてくるの」
「……嫌だったなら、交換しますよ」
「ううん。貰うよ。大切に使わせてもらうね」
先輩の心の色は、初めて見たものだったけれど、そこから感じる印象は、覚えのあるものだった。たぶん、私は何度も彼に同じ気持ちを抱いたことがある。
「お兄さんに撮ってもらった写真でも入れてください」
九十九くんがそう言うと、先輩は、ふふふと、堪えきれない様子で笑った。
「ハジメ君て、ずるいね」
「なんですか、それ」
「はい。そうなんです」
「おい」
先輩が、どんなところにそう思ったのかは分からないところもあったけれど、その気持ちはよく分かるので肯定した。
不服そうな九十九くんは、そういうところだよ、と進藤くんにまで冷やかされて、眉間の皺をより深めている。私と先輩は、お互い見合って吹き出すように笑う。
「それにしても、皆やっぱり写真関連グッズを選んだんだね」
「お前、これを他三つと同列に置く気か」
進藤くんがあっけらかんと言うと、九十九くんが抗議の声を上げる。オチとして勿体ぶって開けるのを回避したかったのだろうか。いつの間にか自分の受け取ったプレゼントを開けていた。
「あ、ずるい」
「何だったの? 九十九くん」
先輩と二人で覗き込むと、九十九くんの手にあったのは。
「大事に使ってくれよ」
「俺がいつ、どこで使うんだよ。自撮り棒なんて」
伸縮自在の自撮り棒。スマホを取り付けた棒を高く掲げ、それに向かってにこやかにピースサインをするパッケージのイメージ画像が、脳内で九十九くんに置き換わる。思わず笑いそうになってしまうが、耐えた。危ない、間一髪。
眼の前で彼の目を憚らず大笑いする二人が少し羨ましい。
「後で一緒に使おうね、九十九くん」
「使わない」
きっぱりと断られてしまった。
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