レナ ~episode 16~

 いつもよりも多くの視線が自分に集まるのを感じる。そんなに髪型で変わるものだろうか、と少し思う。真綾は朝練に行くときよりも早くに起きて、私の髪を結ってくれた。またもやななちゃんの協力を得て、下ろした髪も綺麗に巻かれている。編み込みまでされて、まるでお姫様だ。後れ毛なんかもふわふわと顔の周りに垂れていて、いつもより優しい雰囲気が出ていることに間違いはなかった。

「天使だわ…。」

完成するなり、真綾が言う。その隣で花蓮が連写する音が聞こえていた。

「ありがとう。」

私が照れ臭そうに言うと、二人同時に私を抱きしめた。お父さんとお母さんは朝起きて私を見るなり、今日は学校まで車で送っていくと言い張った。いつまでも赤ちゃん扱いしないでほしいのに、と思う。


結局すぐ近くまで車で送ってもらい(年上四人の圧には負けてしまった)、今、校門を通り抜ける。今日は一日大雨予報だから、ある意味ラッキーではあったけど。


一樹くんや麗華、その他クラスメイト達はなんて言うだろうか。亮はちょっとでも驚いてくれるだろうか…。

「れ、な、…?」

亮の声が聞こえて、私の心臓がひとつ、大きく跳ねる。私は肩に下りている髪が、映画の中のヒロインみたいに弾むのを意識しながら振り返る。

「髪型、それ、どうしたの…?」

思ったよりも動揺してくれていることに私の心も弾んだ。真綾、ありがとう。心の中で思う。

「今日、何かあっ―」

「玲奈ちゃん!」

一樹くんの嬉しそうな声が聞こえる。

「俺が言った通り、本当に髪下ろしてきてくれたんだ!」

にこにこの笑顔で近づいて来て、亮の姿を捉えて失敗した、という表情になった。

「…玲奈ちゃん?」

亮がすごく不機嫌そうな表情になる。

「おまえ、玲奈のこと下の名前で呼んでんの…?」

「あー…、うん。」

「私がそうしてって言ったの。」

なぜかすごく睨まれている一樹くんがいたたまれなくなって、私は慌てて言った。

「ちょっと玲奈、来て。」

有無を言わせない強さで私を引っ張っていく。

「ちょっ―!」

慌てて引き留めようとする一樹くんに目で『大丈夫』と合図を送る。

亮はずんずん突き進んでいき、人気のない廊下で立ち止まった。

「前に彼氏欲しいって言ってたけど、誰でもいいのかよ?」

「はい?」

私は聞き返す。

「趣味が合えば、誰でもいいのかよ?そんなの、俺のほうが、もっと―」

「言ったでしょ、一樹くんは友達だって。」

私は言いながらイライラしてきた。例え私が一樹くんのことを好きだったとして、あんたになんの関係があんのよ。それに、私が一樹くんのことを好きだと思ってるのなら、今の亮の行動は私の恋愛を完全にぶち壊しに来ている。自分より先に恋人が出来るのが許せないってこと?こっちの気もしらないで…!

「それに、そうだったとして、亮には関係ないでしょ。」

私は吐き捨てるように言った。

「関係ない?」

亮が私の手をぎゅっと強く握りしめる。

「今日玲奈が日直だって知って、今日こそ俺は―」

ここまで言って、脱力したようにぱっと手を離した。

「ごめん、なんもない。」

私は亮を突き飛ばし、階段の方へ走って行った。今の話と私の日直に何の関係があるわけ?言い訳が下手にもほどがある。


せっかく真綾に、素敵な髪型にしてもらったのに。


はらわたが煮えくり返っているおかげで、涙はこぼれてきそうになかった。私が廊下を走っている間、続く窓に雨が叩きつけていた。今の私にぴったりな天気だ。私は走りながら、そう思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る