第29話 クライマックス

この大神 氷柱の人生において、魔法少女になったことは最悪の出来事でした。

本当にそれ以降の人生まるで良いことが無かったのです。

魔法少女で戦うことに時間を取られ、勉強できなくなったことが一番の痛手でした。

おかげで高校受験に失敗し、人生に絶望し、暫く引き籠っていましたが、それにすら飽きて、あとは三流高校で無為な高校生活を過ごしました。あの頃の記憶は曖昧で、自分が生きていたかどうかも分かりません。

三流高校から三流大学に行った筈です。何処に行ったのかも覚えていないのですが、覚えている意味も無いかと。その辺で処女を卒業したはずですが、相手はロクでも無い男だったことは覚えています。

それからまた食品の三流企業に就職したんですが、入って一週間でブラック企業と分かったので、早々に辞表を出して退職。

そこからバイトを転々としながら、結婚詐欺で金儲けすることを思いつき、人の良さそうな奴、明らかにSEX目的の輩達から金を巻き上げました。

そうして何年か過ごしていた後、バークマンに出会って効率の良い結婚詐欺を行うことになりました。

振り返ってみても最底辺の半生で、自分でも眩暈がしそうですが、失った時間は元には戻らないので仕方ありませんね。

さて振り返りはこのぐらいにして戦いに集中しましょう。



”ガンガンガン‼”


今は二階堂の拳と私の刀の刃を突き合わせているのですが、素手と刀が五分五分という時点で、二階堂という女が如何に恐ろしいのかということが、分かってもらえると思います。

しかし、さっきの私のスチームブラスターで二階堂は手を負傷している筈なので、拳を握るだけでも痛い筈です。


「アナタ、手が痛いでしょうに。大丈夫なんですか?」


「お前に心配される覚えはない‼」


せっかく心配してあげたのにこの態度、腹が立ちますね。


「アイスニードルスコール。」


私は二階堂の頭上に氷柱の大群を出現させ、それを雨の様に降らせました。今日は所により氷柱が降るでしょう。

一本でも当たれば御の字ですが、相手がそんなに甘い相手じゃないことは私がよく知ってます。


「ふん‼ふん‼ふん‼ふん‼」


“ガンガンガンガン‼”


案の定、自分の拳のみで氷柱を全て砕いて行く二階堂。私なら炎の魔法で全てを一瞬で溶かしてしまいますが、やはりそんなことも出来ない程、今の二階堂の魔法力も微々たるものらしいですね。


「ボディがお留守ですよ。」


上からの攻撃だけに集中して両腕を使い、他が疎かになる。二階堂じゃない魔法使いなら魔法を使えばカバーできるかもしれませんが、肝心の魔法が使えない二階堂にとってはそれが弱点になる。

私は正面から刀を持って突っ込みました。足の裏から大量高圧の水流を出して加速。加速の付いた刀の突きを喰らえば、流石の二階堂だって一巻の終わりでしょう。

躊躇いはありません。人生に絶望してから人を殺すことすら眉一つ動かさずに出来る自信がありました。それは誰であれ例外はありません。ましてや自分の人生を壊した張本人が相手なら、刀を握る手にも力が入るというモノです。

二階堂の様に「~~突き‼」みたいに叫ぶつもりは毛頭ありませんが、あえてこの技に名前を付けるとすれば【疾風一輪刺し】とかでしょうかね。


「死ね。」


“ザスッ‼”


私は容赦なく二階堂の腹を刺しました。だがすぐに異変に気付きます。

刀の刃の先しか二階堂に刺さっていないのです。


「腹筋を狙うとは私も舐められたものだな。そこは私の体の部位で一番硬い所だ。」


ドヤ顔で私のことを見てくる二階堂。刀の刃を止める腹筋とか全くもって羨ましくありませんね。この筋肉馬鹿め。

しかも、ただ腹筋で受け止めただけではなく、腹筋に炎の魔力を込めているみたいですね。

この女は現役の頃から魔力少なくて弱いのを肉体で補います。魔法×身体能力の身体能力の部分だけを上げて、強くなって来た女です。こんなアホみたいな魔法少女は他に類を見ないかと思われます。

私は刀をすぐにでも抜いて、次はドヤ顔の首を斬ってやろうと考えましたが、二階堂の腹筋から刀が抜けません。おそらく恐ろしく引き締まった奴の腹筋が、私の刀の先端を離してくれないのでしょう。


「二階堂流活人拳外伝‼トンファーキック‼」


今度は二階堂の蹴りが私の腹目掛けて飛んできます。トンファーキックって、トンファー持ってないだろうに。


“ガンッ‼”


私は氷を体に纏わせてそれをガードしましたが、完全にガード出来たわけではなく、氷は砕かれて体は後ろに飛ばされました。メチャクチャ痛いじゃないですか。

肋骨を何本かやられた気がしますが、問題なのは刀がまだ二階堂の腹に刺さったままということです。

女の腹に刀が刺さったまんまとか、中々猟奇的な映像ですね。

さて丸腰なわけですが、どうやって戦いましょうかね?近接は明らかに私が不利なので、やはり距離を取っての魔法の一斉掃射で・・・。


「笑みなんか浮かべて、楽しそうだな大神。」


私の刀を引き抜きながら、そんなおかしなことを二階堂が言いました。

笑み?嘘でしょ。

私は口を触りました。まさかですが口角が上がっています。もしかして本当に今私は笑っているのでしょうか?こんな野蛮な争いが楽しいのでしょうか?それは・・・それだけは・・・。


「あってはならない‼」


私は両手を前に構え、四属性の魔力を均等に混ぜ合わせます。そうして全てを無に帰す最大最強の一撃を。

無かったことにする。私が笑った事なんて無かったことにする。

たとえ私自身がどうなろうが、そんな事実はアカシックレコードからも消し去ってやります。












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