第23話 思い出がいっぱい
私こと大神 氷柱13歳には夢があります。
それは大手の企業に就職して悠々自適で素晴らしい人生を送ることです。
ゆえに学生の時期は勉強あるのみ。
来年中学三年生になり高校受験も控えているので二年生の内から準備しておかないと。
そんな想いを掲げつつ、夜道一人で帰っていたら。黒豹の化け物に出くわしました。
その黒豹は二足歩行で三メートルはゆうに超える巨躯を持ち、体には銀の鎧を纏っています。
ガリ勉で気の小さい私がそんなものに出会ってしまえば、腰を抜かしてしまうのは必然であり、失禁しなかっただけでも御の字です。
「また獲物が来たなぁ。せいぜい良い悲鳴で俺を楽しませてくれよ♪」
黒豹は両手にナイフを構えて近づいて来ます。
あぁ、私死ぬんだ。勉強したことを生かせぬまま、ここで屍になってしまうんだ。駄目な人生だったなぁ。
しみじみとABCDEの五段階評価で最低のEランクだと自分の人生に評価を付けて、こんな所で死なないといけない不運を呪いましたが、まだ念仏を唱えるには早かったようです。
「とぉ‼」
突然私の後ろから誰かが飛んできて、黒豹の顔にガッ‼と飛び膝蹴りを決めました。
「グォ‼」
突然のことに、よろける黒豹の化け物。
その飛び膝蹴りを入れた人物は、クルクルと縦回転しながらスタッと華麗に着地しました。そうして着地した後コチラを振り向きます。
「大丈夫か?」
その顔には見覚えがありました。確か男子の不良グループを一人で叩き潰して、私の学校に平和を取り戻したという生きるレジェンドガール、二階堂 明さんです。
私と同じ学年なのですが、こんな野蛮そうな人とガリ勉の私が交流もある筈もなく、今日まで一言も喋ったことがありません。
ですが状況から察するに助けられたわけですから、お礼の言葉の一つも返さないといけないでしょう。
「あ、ありがとうございました。」
「元気そうで良かった。それじゃあ下がってろ。ここからは私のステージだ。」
そう言って生身で黒豹に向かって行く二階堂さん。逞し過ぎやしませんか?
「あのバカ、何で毎回変身しないで突っ込んで行くんだよ。魔法少女にならないとトドメさせないってのに。」
「うわっ‼」
突然私の右隣で声がしたのでビックリしました。見るとそこにはタヌキの縫いぐるみの様な物体が腕組みしながら立っていました。
「おう、アンタ良かったな。最近の連続殺人事件の犯人こと、黒豹怪人ブラパンの奴に殺されなくてよ。」
「タヌキが喋った‼」
流行に疎いので連続殺人事件のことは知りませんでしたが、タヌキが喋るのにはビックリしました。
「そう、こういう反応を待ってたのよ。出会い頭に『殺すぞ』とか野蛮な言葉は求めて無いわけ。やっぱりアイツがおかしいよなぁ。」
はぁと溜息を着くタヌキ。なんだコレ?生き物なんでしょうか?それとも地球外生命体?
「おっ、待って。お前、魔力持ってるじゃん。しかもかなり大きな力だ。単刀直入に言うけど、魔法少女にならない?君ならかなり活躍出来ちゃうと思うけど?」
魔力?魔法少女?現実には聞き慣れない単語を言われて首をかしげる私。魔法少女はおろか、ニチアサなんて何年も見て無いんですけど。
私とタヌキもどきがこんな話していると、それに割って入って来る様に二階堂さんが飛んで来て、バァアアアアン‼と派手に地面に叩きつけれました。
「キャッ!!二階堂さん大丈夫ですか⁉」
私の声掛けの後、二階堂さんは何事も無かったかのようにムクリと立ち上がり、ブラパンという化け物を見据えます。
「クソッ、アイツ結構強いな。」
「いやね、お前さ。毎回言ってるじゃん。魔物とは最初から変身してから戦えって。特撮ヒーローじゃないんだから生身で戦う必要無いんだよ。そういう荒々しいの魔法少女に要らないから。」
「知ったことでは無い。私は己の力が何処まで通じるのか試したいだけだ。魔法少女のしきたりなど、心底どうでも良い。」
タヌキもどきへの返答を吐き捨てる様に言う二階堂さん。やっぱりこの人は中学二年生の女子じゃ無いですよね?絶対に私とは話し合わなさそうです。
「だがココで負けるわけにもいかんか。よし、変・身‼」
力強い変身という言葉の後、二階堂さんは赤い光に包まれました。これはもしかして変身バンクってことですか?
赤い光が治まると、そこには赤いフリフリのドレスを身に纏った二階堂さんの姿がありました。お世辞にも似合っているとは言えません。
「よし、叩き潰してやる。」
二階堂さんは息着く暇も無く、ブラパンに向かって行きました。最近の魔法少女は名乗りとか上げないんだなと思っていたら、タヌキもどきが「名乗り忘れてるぞ‼」と叫んだので、やはり名乗りはある様です。
懐かしい夢を見ました。
ネットカフェの個室にて私は目を覚まし、机から顔を上げると、目の前のパソコンからはメタルヒーロー系のヒーロー【深緑戦士エメラルダー】が流れています。
寝落ちしていましたか、今日は仕事が昼過ぎまでのシフトだったので、ネットカフェで決闘の時間まで過ごそうと思ったんですが、もしかして寝過ごしましたかね?
しかし、時計は針がちょうど22時を指し示していたので、まだ決闘には間に合いそうです。
「そろそろ行きますかね。」
ふぁーっと大きな欠伸をしてから立ち上がる私。これから命のやり取りをするというのに我ながら緊張感の欠片もありませんね。
それにしても懐かしい夢を見ました。あの後、私は魔法少女になって何のメリットも無い戦いという名の見返りの無いボランティを始めるわけです。本当にクソみたいですよね。
とりあえずムカつくので二階堂の奴は今日始末したいと思います。
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