第56・5話 肝だしのペア
結局あれから、柚葉と言葉を交わすことはなかった。
俺の方も、柚葉の方も、何度か視線は合ったが気まずそうに逸らしてしまう態度が続いた。
向き合えないまま逃げている。それが分かっていながら、けれどどうすることもできない現状に歯噛みするしかなかった。
「――ん。――まくん。――柊真くん!」
「――っ! ……ごめん。どうした?」
思惟に
「どうしたじゃないよ。そろそろ私たちの番来るよ」
「マジか。もうそんな時間か」
「あはは。もしかして怖いの?」
「ばか言え。誰がビビるか」
くすくすと笑う雛森さんに口を尖らせ、俺は一つ息を吐く。
現在、俺たちは林間学校二日目の最終カリキュラムとなる、肝試しを行っている真っ最中だった。
ペアは各クラスごとのくじ引きで決まるのだが、偶然にも雛森さんとペアになった俺は、今はこうして彼女と共に順番を待っていた。
「……育美。ナイス」
「? 何か言った?」
「ううん! 何でもないよ!」
「そ。ならいいけど」
雛森さんが何か言ったような気がして訊ねると、愛らしい顔がどこかぎこちない笑みを浮かべながら否定した。
それに
「ふふ。私たち、なんだかんだで一緒にいる時間多いね」
「俺なんかと長時間一緒にいて嫌がらない女子は珍しいよ」
「嫌な訳ないじゃん! 柊真くんといるの、私楽しいし」
「あ、ありがと」
これまた珍しい感想をもらい、反応に困ってしまう。そして、そんな俺を雛森さんはころころと笑いながら見つめてきた。
「もしかして、照れてる?」
「ちょっと照れた」
「あはは! 柊真くんてめっちゃ正直だね!」
「そら照れるだろ。可愛い子に一緒にいて楽しいなんて言われたんだから」
「~~っ! 私。か、可愛いかな?」
「? うん。雛森さん普通に可愛いと思うけど」
ありのままに感想を伝えれば、雛森さんが必死に何かを隠すように顔を両手で覆った。
俺如きの「可愛い」でまさか照れるはずないな、と小首を傾げていると、
「そういうこと普通に言うの、ずるいよ。柊真くん」
「――ぁ」
ぽつりと恨み言を吐いた雛森さん。それから彼女は顔を覆っていた手の半分を開けるとそのまま誰かを求めるように手を伸ばした。
「お化け、怖いからこうさせて?」
そうして伸ばした手が行きついた先は、俺の袖だった。距離感を
「……お、おう。不快でないなら、どうぞ」
「不快じゃないよ。むしろ、ずっとこうしてたい」
「…………」
「えへへ。これで安心だ」
潤む瞳が訴えかけるように見つめてくる。それにぎこちなく頷けば、小さな笑みがぱっと咲いて。
「――しゅうのばか」
【あとがき】
元日0時更新完了であります! そして本年度もよろしくお願いいたします。
今年度の目標は一冊でも書籍化させることですかね。『ひとあま』、書籍化してほしいね。その為にも鋭意頑張ります。
Ps:今日は2更新に変更となりました。その理由はお昼の更新で分かります。あ、1/2は普通に3話更新です。3話更新の時点で普通ではないと思うが。
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