「手のひらに幸せをつかもう!」逆転移魔法少女と元バーテンダーがラリー車で進む不明瞭なミライ

神無月ナナメ

第一章 夜明けの運転で西を目指そう

プロローグ 五里霧中での一目惚れ?

「いつか自由な社会で静かに暮らしたい」それは……絶対にかなうはずのない夢だ。


 世界の理が因果律に関与しながら決して交わらず定まらない境界線は曖昧になる。

すべてが遠すぎて見果てぬ夢だけど可能性が消えない限り無限ループの敵と闘おう。


 それでも『わたしに運命の人がいれば傍に行きたい』小さな願いごとは実現する。

それは起こり得ないタイミングで境界がねじ曲がり絡まり合うことで時空を超えた。


 異なる世界に生まれて新たな環境を求めた少女が運命まで取捨選択できたなら――



――国内の九か所に生まれたダンジョン。それでも世界全体なら六十四か所になる。


 世界的な敗戦から正史を外れ境界が異なる北日本帝国は南樺太豊原に首都を置く。

ロシア連邦社会主義共和国に実効的支配される北海道・北方領土から自由は消えた。


 目端の利く若者たちは合法的に国境を跨ごうとして己の生命を賭けた攻略に挑む。


 南樺太豊原ダンジョンで――探索歴三年のアルビノ少女は深層まで潜り日夜闘う。

ダンジョンを産む見えない誰かの誘い――抱いた夢を実現させるべく攻略の日々だ。




 2030年5月6日――北日本帝国。首都の豊原ダンジョンから物語は始まった。



「いよいよ念願の三十二層だぜ……うまく意思を伝えられりゃあ本土に跳べるんだ。

長く険しい道のりだったが激レアちゃん。水魔法遣いのお嬢ちゃんのおかげだよな」


 言葉とは裏腹に響いた下卑た嘲笑でクネクネとした気色悪い手のひらが迫りくる。

斥候役のオッサンがリーダー役で体力しか取り柄ない下っ端ザコ連中はおバカさん。


 二十五層で手こずるような種なしロクデナシの男たちに本来なら関与したくない。

ちょっとラクをしたいから選択した壁役は……初めから下心なんて見え見えだった。


 しっかりと自分の頭で考えないとすぐにいなくなる……それがダンジョンの掟だ。



 こっそりと背後を移動したつもりなんだろうがどデカい図体で潜める隙間はない。

うすい暗闇が定番で一本道を進むしかないダンジョンは洞窟型の迷宮構造体になる。


 国家が差配する探索者協会に登録して深層に挑める有資格者にしてもピンキリだ。


 自ずから斥候を名乗ってもノロマなカメのオッサンを足先から絶対零度に固める。

「うぎゃっ」カエルじみた呻き声に合わせジタバタしようと両手の先に救いはない。


 顔面からつんのめるようなオッサンを見届けることもなく背後に水球で目潰しだ。

絶対零度の冷水を頭上から大量に浴びるようなおバカ二人は無言のままで昏倒する。


 どデカい体で暴れられると面倒くさい男たちは足先から氷漬けにすれば動けない。

水魔法いしか遣えない自己申告を頭から信じるようなおバカに生きる価値はないよ。



 くだらないつまんないどうしようもないクソみたいなクズ野郎しかいないセカイ。

三十二層の最奥で待ちくたびれたヒト型モンスターは相性バッチリで笑いが漏れた。


 結局のところはオッサンとおバカ二人の助けなんて最初からいらなかったみたい。


「カミサマかしんないよ。こんなわたしだけど運命の人がいるなら傍に行きたいの」

 意図したわけじゃないし強い願いのわけじゃない頭に浮かんでつぶやいただけだ。



【少女ノ要望ヲ解析ト演算】いきなり頭に機械の音声?【解析ガ終了デ時空ノ転移】


 こんなことしらないし聴いたことがない現象だ。これからわたしどうなっちゃう?



【転移ノ先ガ別次元デ大阪】跳べちゃったりしないの?【再転移ハ七日内デ迷宮奥】



「なんでこんなことになったんだろう」いきなり不思議な七色光に全身が包まれる。

別次元の大阪……たった七日間しかない。ダンジョンを目指すならば西が理想的だ。



 瞬きすらできないままでほんの数舜だ……周囲の景色ごと下町の路地裏に変わる。

長らく使われていない酒屋さんみたいな店頭にいてガラスの割れた自販機が見えた。


 閉ざされたままの木製引き戸が入口らしく直上の標識板は中央区三津寺一丁目だ。

わたしの現出と引き換えに七色光が消えると宵闇からひんやりした夜明けが訪れる。


「いるいるいる……マジこんなとこいたよ。光と共にやってきたお子ちゃまじゃん」

「光と共にやってきたってお前バカじゃね。ウルトラマンエースの歌詞じゃねえよ」


 イマイチわかんないコントをくり広げるおバカさんはあり得ないような見た目だ。


 どこかなよっとした雰囲気の十代後半だろうけど赤青金三色の挑発を持つクズ男。

信号機じゃねぇよとツッコミたくなる着崩して上下ぶかぶかのスーツも髪色違いだ。



「とにかくこいつを連れていきゃいいんだよなぁ? どこだっけ京都のどっかまで」

「えぇっと京都駅の近くにある風俗のお店……だったよなあ。イマイチわかんねぇ」


 わたしと正反対に感じる褐色の肌を持つ青髪の男は純粋な日本人じゃないみたい。

茶色い手のひらにか細い左二の腕をつかまれると強引すぎる力ずくで引きずられた。


 もちろんここはダンジョンじゃないからスキル使えないし見たまんまの子どもだ。

実際には成人を迎える十八になったばかりだけど……って関係ないし笑えないよね。



 男女の違いによる腕力差で抗う術もないから細い路地裏まで強引に連れこまれた。

うす暗い寂れた住宅街は夜明けの周囲に人影なんて見えないからどうしようもない。


 いきなり強烈な排気音と同時にジャリジャリした路面摩擦が静かな街角に響いた。

猛スピードで正面から迫りくる扁平すぎる低車体は真っ黒だけど大きくも見えない。


 呆然と見つめるだけの真っ黒な車体が絶妙に減速して青髪のお尻からツッコんだ。

声もだせずにいきなり目前から吹き飛ばされるおバカさんは起き上がる気配もない。


「なにしやがんだよクソ野郎がっ!」前でカエルみたいに跳び跳ねて金髪が叫んだ。


 ヒョロっとした赤髪のおバカは運転席に駆け寄るなり扉にぶつかって転がり回る。

「ぐえっ」ガラスにぶつかりながら喚くひょろいバカはお笑い芸人並みの滑稽さだ。



「お前らマジもんのおバカばっかだな。ミナミで誘拐なんてシャレにもなんねぇよ」


 極細の黒パンツとチェック模様のチョッキが際立つサングラスに手のひらは拳銃。

二メートル近い背たけが細いバネみたいに見えて白い地肌と金髪は天然モノっぽい。


 一見した感じ実年齢が検討つかないけれど二十代後半に見えても日本人じゃない。

誘拐される直前に颯爽と登場するようなヒーローさんは運命の人かもしんないよね。



 トゥンクと聴いたこともない心音が胸に響いて……いや弾けて吹き飛んだらしい。



 それでもわたしたちは生まれた世界が違う……そう考えないときっとダメになる。

なぜか心拍数と体温まで一緒に上昇した気がする。運命は選択してつかみとりたい。



 ダンジョンのスキルはあるけれど……それでも取柄がない平凡すぎる女だから――

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