第26話 落とした女はヘビー級
「アンタ達、本当に仲良いのね。イチャイチャするのはいいけど少しは周りの目も考えなさいよ。変に誤解されても私は知らないわよー」
「イチャイチャなんてしてませんって」
「いいじゃないですか。イチャイチャ。もっとします?イチャイチャ!!」
ようやく離れたと思ったら彩華が再び抱きついてくる。
「だから、しないって。あ、えっ、ちょいちょいそこはダメだって!」
彩華の手が俺の触れてはいけない場所にそろりそろりと近づいていく。
その手を強引に振り払い姫乃は距離をとる。
「そこはダメよ。彩華。それ以上触ったらアナタは穢れてしまう。だから、ダメよ」
私は、必死にカッコつけてどうにか誤魔化そうとする。
「いいじゃないですか~。別に。女同士なんですから」
「そういう問題じゃないのよ……」
「それに触った手は汚れませんよ。だって、服の上から触るだけですから。私は姐さんに近づきたいんです。姐さんの全てを知りたいんです。だから……」
ヤバい。
とにかく彩華の目がなんか凄い事になっている。
まともな事は言ってるんだけどまともじゃないよ。
えっ、やだ。
この娘こんな子だっけ? それともコレが本性なのか?
正直別に嫌いじゃないけどさ。
むしろ大歓迎!。
いや、いや、ダメだって。何言ってるんだ俺。本当に触られでもしたら俺の正体が100%バレる事になるんだぞ。
丁度いい言い訳を必死に探しながら少しずつ後ろに下がる。が、彩華の方が圧倒的に速い。このままじゃ直ぐに追いつかれて、姫乃皐月はヤられる。だからって走って逃げたりする訳にはいかない。彩華にとってこれは同性同士のじゃれあいにしか過ぎないのだから、それを本気で嫌がる様な真似をすればかえって怪しまれてしまう可能性も。
くそッ。どうする。覚悟決めるしかないのか……
俺の体は壁にピッタリと張りつきこれ以上後ろに退がる事は出来ない。それを見た彩華はチャンスとばかりに一気に近づき手を伸ばす。
手が触れる瞬間、彩華の頭をスリッパが襲う。
「痛いッ!!」
「いい加減やめたりなさい。幾ら同性同士でも触られたくない場所はあるわよ」
「……進藤さん……」
助かったー。
本当に助かった。流石は進藤さん。やっぱり私のマネジャーは優秀だ。
「樹が姫乃の事を大好きなのはよく分かったけど度が過ぎると相手もして貰えなくなるわよ〜。それでもいいの?」
「それは嫌です。私、姐さんに相手して貰えなくなったら……貰えなかったら……困りますッーー」
今度は泣き出してしまった。この娘、想像以上に困った娘みたいだ。
「樹ってば……」
進藤さんも呆れてしまっている。
「……彩華。ほら、泣かないで。ね、大丈夫だから」
「…………私の事嫌いになりません?これからも相手にしてくれますか?」
「勿論。私から嫌いになる事は絶対に無いから。安心して」
「……本当ですか?」
「ただ、少しだけ手加減してくれると助かるかな?あんなに攻められたら、こっちも照れるしさ……」
「姐さん……!」
「それに、私だってたまには攻めてみたいしね」
ズッキューーーン!!
そんな音が聞こえた気がする。
樹の顔は一気に赤く火照り、さっきまでの様子が嘘のように感じられる程、大人しくなってしまった。
「……分かりました!!スミマセンッ、今日はこれで失礼しますッ」
数秒後、我に帰ったからなのか直ぐに顔を上げそれだけ言って走って去っていってしまう。
「姫乃、アンタも意外とやるわねー」
「何がです?」
「あの子、きっとしばらくは貴女の事で頭がいっぱいよ。あんなんじゃ普段の生活もままならないでしょうね。仕事に影響がでないといいんだけど……」
「大丈夫ですよ。ああ見えても彩華はプロですから」
「だと、いいんだけど……」
「そういえば進藤さん。何か用があったんじゃ?」
「あ、そうだった。貴女達のやりとりに夢中で忘れてたわ」
「それで、用ってのは?」
「姫乃、この後次の仕事まで少し時間が空いてるでしょう?だから、一緒に事務所まで来て欲しいのよ」
「事務所ですか?別に構いませんが……何か仕事の類いで不手際でも?」
「いいえ。別にそんなに畏まるようなやつじゃないから安心して。実は、アナタに会わせたい人がいるのよ」
「会わせたい人、ですか?」
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